人生100年時代と言われる現代において、70代は終活を本格的に始めるべき重要な節目となっています。厚生労働省の「令和5年簡易生命表の概況」によると、2023年に死亡した人の中で最も多い年齢は男性が88歳、女性が93歳と、いずれも平均寿命よりも約6歳高くなっており、日本人の5人に3人が平均寿命よりも長生きをしている現実があります。このような長寿社会において、70代から介護施設への入居準備と資金計画を立てることは、将来の安心した生活を実現するための必須事項となっています。総務省の調査によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では月々約25万6千円の支出があるにもかかわらず、厚生年金の標準的な受給額は月22万8千円程度と約3万円不足しているのが実情です。さらに、介護施設への入居となれば、特別養護老人ホームで20年間に5,280万円から6,000万円、有料老人ホームでは8,400万円もの費用がかかるとされています。しかし、適切な資金計画と制度の活用により、これらの課題に対処することは十分可能です。本記事では、70代から始める終活と介護施設入居準備について、費用の実態から具体的な手続き、活用できる支援制度まで、包括的な情報を提供していきます。

70代で始める終活の基本と重要性
終活とは、人生の最終段階に向けて、介護や医療、葬儀、お墓などについての希望を整理し、家族に伝えておく活動を指します。70代は、判断力と体力がまだ十分に保たれている最後の時期であり、終活を始める最適なタイミングと言えます。この時期を逃すと、身体機能の低下により作業が困難になったり、認知機能の衰えにより適切な判断ができなくなる可能性があります。
終活の第一歩として推奨されるのがエンディングノートの作成です。エンディングノートには法的拘束力はありませんが、自分の思いや希望を自由に記載できる利点があります。基本的な個人情報、医療や介護に関する希望、財産に関する情報、葬儀やお墓についての考え、そして家族や友人へのメッセージなどを記録しておくことで、万が一の際に家族の負担を大きく軽減できます。
財産管理の整理も終活における重要な要素です。預貯金や金融資産がどこにどれだけあるのかを明確にしておくことで、相続手続きがスムーズになります。銀行口座、証券会社に預けている株式や投資信託、生命保険の契約内容などを一覧表にまとめ、自分が老後に必要な資金と家族に残したい資産を明確に分けて管理することが推奨されます。価値が変動する資産については、低めに想定した金額で考えておくことで、予期せぬ資産価値の下落にも対応できます。
老後資金の現実的な計算と必要額の把握
老後の生活において、資金計画は最も重要な要素の一つです。総務省の「家計調査」2024年版によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における1カ月の平均支出は25万6,521円となっています。一方で、令和7年度の夫婦2人の老齢基礎年金を含む厚生年金の標準的な年金額は月額22万8,372円であり、毎月約3万円の赤字が発生している計算になります。
さらに、ゆとりある老後生活を送るためには、平均で月37万9千円が必要とされています。この金額には、趣味や旅行、交際費などの余裕資金が含まれています。公的年金だけでは明らかに不足するため、自身で老後資金を準備しておくことが不可欠です。一般的には、老後資金として2,500万円程度を目安に準備することが推奨されていますが、これはあくまで基本的な生活を維持するための最低ラインと考えるべきです。
医療費についても考慮が必要です。入院日数の平均は全年齢で17.7日ですが、60代では18.8日、70代では20.5日と、高齢になるほど入院日数が長くなる傾向にあります。入院日数が長くなれば、それに伴う自己負担費用も増加します。高額療養費制度により一定額以上の医療費は払い戻されますが、差額ベッド代や食事代などは対象外となるため、予想以上の出費となる可能性があります。
老後資金の準備方法としては、預貯金、資産運用、貯蓄型保険への加入などが考えられます。それぞれにメリットとデメリットがあるため、複数の方法をバランス良く組み合わせることが重要です。預貯金は元本が保証される安全性がありますが、金利が低いため資産の増加は期待できません。資産運用は増加の可能性がある一方でリスクも伴います。貯蓄型保険は計画的な資産形成ができますが、途中解約すると元本割れする可能性があります。70代からでは新たな資産形成の時間的余裕が限られているため、現在保有している資産を適切に管理し、無駄な支出を抑えることが現実的な対策となります。
介護保険制度の仕組みと自己負担額の理解
介護保険制度は、高齢者の介護を社会全体で支える仕組みとして2000年に導入されました。65歳以上の方は第1号被保険者として、要介護認定を受けることで様々な介護サービスを利用できます。自己負担割合は所得に応じて1割、2割、3割のいずれかに決定されます。
70代の方で、市民税非課税の方や生活保護受給者は1割負担となります。また、本人の年金収入とその他の合計所得が280万円未満の場合、あるいは2人以上の世帯で同一世帯の65歳以上の人の年金収入とその他の合計所得が346万円未満の場合も1割負担が適用されます。一定以上の所得がある場合は2割または3割負担となりますが、多くの70代の方は1割負担の対象となっています。
要介護認定は、要支援1・2から要介護1~5までの7段階に分類され、それぞれに利用できるサービスの種類や限度額が設定されています。要介護1の方の場合、1カ月の支給限度額は16万7,650円であり、自己負担割合が1割であれば、限度額まで利用しても自己負担額は1万6,765円となります。例えば、デイサービスの利用料金が1万円だった場合、実際に支払う金額は1,000円です。
介護費用の総額を試算すると、生命保険文化センターの調査による平均的な数値では、介護の一時費用が47万円、月額費用が9万円、平均介護期間が55カ月となっています。これを計算すると、介護費用の総額は約542万円となり、500万円を超える大きな負担となることが分かります。
ただし、高額介護サービス費制度により、月々の利用者負担額の合計が所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が介護保険から支給されます。世帯全員が市区町村民税非課税の場合、自己負担の上限は月額2万4,600円となります。さらに、前年の所得と公的年金収入の合計が年間80万円以下の方は、個人としての負担上限が月額1万5,000円と定められており、低所得者への配慮がなされています。
介護施設の種類と費用の詳細比較
介護施設には、公的施設と民間施設があり、それぞれに特徴と費用体系が大きく異なります。公的施設の代表格である特別養護老人ホーム(特養)は、要介護3以上の方を対象とした施設で、比較的費用が抑えられています。入居一時金は原則不要で、月額費用は10万円から15万円程度です。ただし、入居希望者が多く、待機期間が長いというデメリットがあります。
介護老人保健施設(老健)は、病院と自宅の中間的な位置づけで、リハビリテーションを重視した施設です。入居一時金は不要で、月額費用は9万円から17万円程度となっています。ただし、在宅復帰を目的とした施設であるため、長期入居には向いていません。
民間施設の代表である有料老人ホームは、サービスの質や設備のグレードによって費用が大きく異なります。入居一時金は0円から数千万円まで幅があり、月額費用は15万円から30万円程度が一般的です。介護付き有料老人ホームでは24時間体制で介護サービスが提供され、住宅型有料老人ホームでは必要に応じて外部の介護サービスを利用する形態となっています。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、バリアフリー化された賃貸住宅に安否確認や生活相談サービスが付いた施設です。入居一時金として敷金が必要で、月額費用は10万円から25万円程度です。比較的自立度の高い方向けの施設となっています。
グループホームは、認知症の方が少人数で共同生活を送る施設です。入居一時金は0円から数百万円、月額費用は15万円から20万円程度となっています。認知症ケアに特化しており、家庭的な雰囲気の中で生活できるのが特徴です。
施設への入居を20年間継続した場合の総費用を比較すると、持ち家で施設に入らない場合の住居費・食費・水道光熱費の合計が約2,660万円であるのに対し、特養では5,280万円から6,000万円、有料老人ホームでは8,400万円が必要となります。つまり、自宅で生活する場合と比較して、特養では2,620万円から3,340万円、有料老人ホームでは5,740万円もの追加費用が発生します。これらの金額は、前述の老後資金2,500万円とは別に必要となるため、早期からの資金計画が極めて重要です。
施設によっては、支払い方法の選択肢が用意されています。入居一時金を高額に支払う代わりに月額利用料を抑えるプランと、一時金を支払わずに月額利用料を高く設定するプランなどがあります。保有資産の状況や将来の収入見込みに応じて、最適なプランを選択することが大切です。
介護施設入居までの具体的な手順と準備
介護施設への入居は、大きく分けて入居前、契約時、入居時の3つの段階に分けて考えると分かりやすくなります。施設探しと情報収集から始まり、最終的な入居まで、通常3カ月から6カ月程度の期間を要します。
まず、施設探しと情報収集の段階では、インターネットでの検索、地域包括支援センターへの相談、ケアマネジャーからの情報提供などを通じて、候補となる施設をリストアップします。この段階では、費用、立地、医療体制、介護体制などの希望条件を明確にしておくことが重要です。複数の施設から資料を請求し、パンフレットや料金表、サービス内容を比較検討します。
次に、施設見学と体験入居の段階に進みます。実際に施設を訪問し、設備や雰囲気を確認することは極めて重要です。見学は必ず予約を取り、チェックリストを持参すると効率的です。体験入居は3日から1週間程度の期間で実施され、1泊5,000円から1万円程度の費用がかかります。主に有料老人ホームで実施されており、実際に生活してみることで、施設の雰囲気や食事の質、スタッフの対応などを肌で感じることができます。見学だけでは分からない細かな点を確認できるため、可能な限り体験入居を利用することをお勧めします。
体験入居や見学を通じて入居を決めたら、仮申し込みを行います。仮申し込みは、通常1カ月程度の期間、部屋を仮押さえする制度です。この期間に必要書類を準備し、最終的な入居の意思を固めます。必要書類の準備には時間がかかる場合があるため、早めに取り掛かることが大切です。
契約手続きでは、入居申込書と申込金を提出し、本人面談を実施します。施設側は入居者の心身の状態を把握し、適切なサービスを提供できるかを判断します。重要事項説明書の確認は特に慎重に行うべきです。費用の詳細、サービス内容、契約解除の条件、退去時の返還金の計算方法などが記載されており、不明点があれば必ず契約前に確認しましょう。トラブルの多くは、契約内容の確認不足に起因しています。
入居契約書の締結後、入居日を決定し、実際の入居準備に入ります。持ち込む荷物の確認、住民票の移動の有無、郵便物の転送手続き、各種サービスの解約や住所変更など、多くの手続きが必要となります。家族や関係者と十分に相談し、計画的に進めることが大切です。
入居時に必要な書類と準備の詳細
介護施設への入居には、多くの書類が必要となります。主な書類として、医療関連書類、身分証明書類、保証関連書類の3つのカテゴリーに分類されます。
医療関連書類の中で最も重要なのが健康診断書です。多くの施設では、施設指定の書式での提出が求められます。かかりつけ医や近隣の医療機関で作成してもらう必要があり、作成料と検査料を合わせて1万円から2万円程度の費用がかかります。一般的には、血液検査、尿検査、胸部レントゲン検査などが実施されます。特に、結核や疥癬などの感染症の有無は入居可否に大きく影響するため、詳細な検査が行われます。健康診断書の取得には、予約から結果受領まで2週間から1カ月かかる場合もあるため、早めに準備を始めることが重要です。
診療情報提供書(紹介状)は、現在の病状や治療内容、服薬情報などを施設側に伝えるための書類です。継続的な医療が必要な場合、この書類により施設側は適切な対応を準備できます。内服薬の情報については、お薬手帳のコピーを提出することで対応できる場合もあります。
身分証明書類としては、住民票、戸籍謄本、印鑑登録証明書などが必要です。施設によって必要な書類が異なるため、事前に確認しておくことが大切です。印鑑については、本人用と保証人用の両方が必要となる場合が多く、実印を求められることもあります。
保証関連書類として、連帯保証人と身元引受人に関する書類が必要です。連帯保証人は、入居者が費用を支払えなくなった場合に代わりに支払う責任を負います。身元引受人は、入居者に何かあった際の連絡先や、退去時の引き取りなどを担当します。多くの施設では、両方の役割を兼ねることも可能ですが、別々の人物を指定するよう求められる場合もあります。身元引受人がいない場合、身元保証サービスを利用することも可能ですが、別途費用が発生します。
その他、介護保険被保険者証、要介護認定結果通知書、障害者手帳(該当者のみ)、年金手帳や年金証書などの収入に関する書類も必要となる場合があります。施設から提示された書類リストを基に、チェックリストを作成し、漏れがないように準備を進めることをお勧めします。
老人ホーム選びの実践的なポイント
老人ホーム選びは、今後の生活の質を大きく左右する重要な決断です。設備・環境面、スタッフの質とサービス、医療・介護体制、費用・契約条件の4つの主要ポイントを中心に、総合的に評価することが大切です。
設備・環境面では、まず居室の広さと設備を確認します。個室か相部屋か、トイレや洗面台は室内にあるか、収納スペースは十分かなどをチェックします。共用スペースについては、食堂、浴室、リハビリ室、娯楽室などの広さと清潔さを確認します。特に、浴室の形態(一般浴、機械浴、個浴など)は重要で、身体状況に応じて適切な入浴ができるかを確認すべきです。また、施設周辺の環境も重要です。医療機関や商業施設へのアクセス、公共交通機関の利便性、家族が訪問しやすい立地かどうかを考慮します。
スタッフの質とサービスは、施設の価値を決定する最も重要な要素です。見学時には、スタッフの入居者への接し方を注意深く観察します。言葉遣いは丁寧か、笑顔で対応しているか、入居者の名前を覚えているかなどがポイントです。スタッフの配置基準も確認します。介護付き有料老人ホームでは、入居者3人に対して介護職員1人以上という基準がありますが、それ以上の手厚い配置をしている施設もあります。夜間の職員配置も重要で、緊急時に適切な対応ができる体制が整っているかを確認します。
医療・介護体制については、協力医療機関との連携内容を確認します。定期的な往診の有無、緊急時の対応、専門医の受診が必要な場合の対応などを把握しておくことが大切です。看護師の配置状況も重要で、24時間看護師が常駐している施設と、日中のみの施設では、対応できる医療行為に差があります。認知症ケアや看取りへの対応も、将来を見据えて確認すべき事項です。認知症が進行した場合や、終末期を迎えた際に、継続して入居できるかどうかは大きなポイントとなります。
費用・契約条件については、入居一時金の償却方法と返還金の計算方法を詳しく確認します。入居後早期に退去した場合、どの程度の返還金があるのかは施設によって大きく異なります。月額費用については、基本料金に含まれるサービスと、別途費用が発生するサービスを明確に把握します。おむつ代、理美容代、医療費、外部サービス利用料など、想定外の出費が積み重なると、当初の予算を大きく超える可能性があります。
見学は、できれば複数回、異なる時間帯に訪問することをお勧めします。食事時間帯に訪問すれば、食事の内容や食堂の雰囲気を確認できます。午後の時間帯であれば、レクリエーション活動の様子を見ることができます。また、見学の際には必ずメモを取り、複数の施設を比較できるようにします。見学先は3施設以内に絞ることで、混乱を避け、効率的に比較検討できます。
相続対策と家族への配慮
70代での終活において、相続対策は避けて通れない重要な課題です。相続とは、亡くなった方の財産、権利、義務を法定相続人や遺言書で指定した方に引き継ぐことを指します。適切な相続対策を行うことで、家族間のトラブルを防ぎ、遺族の負担を軽減できます。
遺言書の作成は、相続対策の中核となります。遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がありますが、最も確実なのは公正証書遺言です。公証役場で公証人が作成するため、形式の不備による無効の心配がなく、原本が公証役場に保管されるため紛失の危険もありません。作成には数万円の費用がかかりますが、後のトラブルを防ぐことを考えれば、十分に価値のある投資と言えます。
財産目録の作成も重要です。相続の対象となるのは、預貯金、不動産、株式、生命保険などのプラスの財産だけでなく、借入金、未払金などのマイナスの財産も含まれます。全ての財産をリストアップし、どこにどれだけの資産があるかを明確にしておくことで、相続手続きがスムーズになります。銀行口座、証券会社、保険会社などの情報を整理し、通帳や証券、保険証券の保管場所を家族に伝えておくことが大切です。
相続税対策も考慮すべき事項です。相続税には基礎控除があり、3,000万円に法定相続人の数×600万円を加えた金額までは非課税となります。例えば、配偶者と子供2人が相続人の場合、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円までは相続税がかかりません。ただし、不動産や金融資産が多い場合は、基礎控除を超える可能性があるため、生前贈与や生命保険の活用などの節税対策を検討する必要があります。
成年後見制度についても理解しておくことが重要です。将来、認知症などにより判断能力が低下した場合に備えて、任意後見契約を結んでおくことで、信頼できる人に財産管理や身上監護を任せることができます。法定後見制度と異なり、自分で後見人を選べるため、より安心感があります。公証役場で公正証書により契約を結び、判断能力が低下した時点で家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てることで、契約が発効します。
身辺整理、いわゆる断捨離も、70代での終活における重要な活動です。長年蓄積された物品を整理することで、生活空間がすっきりし、日常生活の安全性も向上します。また、遺族が遺品整理に苦労する負担を軽減できます。ただし、70代での断捨離は体力的に負担が大きいため、家族の協力を得ながら、時間をかけて計画的に進めることが大切です。貴重品や思い出の品は残し、不要な物を処分するという基準で進めると良いでしょう。
介護保険サービスの種類と効果的な活用
介護保険サービスには、施設サービスと在宅サービスがあり、それぞれに多様な選択肢があります。在宅での生活を継続したい場合、在宅介護サービスを上手に活用することで、施設入居を遅らせることができます。
訪問介護(ホームヘルプサービス)は、介護士が自宅を訪問し、食事、入浴、排泄などの身体介護や、料理、洗濯、掃除などの生活援助を提供するサービスです。住み慣れた自宅で生活を続けたい方にとって、中心的なサービスとなります。利用頻度や時間は、ケアプランに基づいて決定されます。
通所介護(デイサービス)は、日帰りで施設に通い、入浴、食事、レクリエーションなどのサービスを受けるものです。身体機能の維持や向上に加えて、他の利用者との交流により、社会的孤立を防ぐ効果もあります。家族にとっても、介護から解放される時間を持てるため、介護負担の軽減につながります。
訪問入浴介護は、自宅の浴室での入浴が困難な方向けのサービスです。専用の浴槽を自宅に持ち込み、看護師と介護士が入浴を介助します。清潔保持と感染予防、そして入浴による心身のリフレッシュ効果が期待できます。
小規模多機能型居宅介護は、デイサービス、ショートステイ、訪問介護を一体的に月額定額で利用できるサービスです。必要に応じてサービスを柔軟に組み合わせられるため、状況の変化に対応しやすいという利点があります。慣れ親しんだスタッフからケアを受けられるため、認知症の方にも適しています。
これらのサービスを利用するには、ケアマネジャーとともにケアプランを作成する必要があります。ケアマネジャーは、本人や家族の希望、心身の状態、生活環境などを総合的に評価し、最適なサービスの組み合わせを提案します。ケアプラン作成は介護保険から全額給付されるため、利用者負担はありません。
負担軽減制度と税制優遇の活用
介護や医療にかかる費用負担を軽減するための制度が、複数用意されています。これらの制度を適切に活用することで、実質的な負担を大幅に減らすことが可能です。
高額介護サービス費制度は、既に説明した通り、月々の介護サービス利用者負担額が上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。世帯の所得状況に応じて上限額が設定されており、低所得世帯ほど負担が軽減されます。申請は、初回のみ市町村の介護保険担当窓口で行う必要がありますが、2回目以降は自動的に払い戻されます。
社会福祉法人による負担軽減制度は、市町村民税非課税で生計が困難な方を対象に、介護サービスの利用者負担額を25%軽減する制度です。対象となるサービスは、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームやデイサービスなどです。利用するには、サービスを提供する社会福祉法人を通じて市町村に申請する必要があります。
医療費控除は、年間の医療費が一定額を超えた場合に、所得税の控除を受けられる制度です。年間所得が200万円以上の場合は10万円を超える医療費が、200万円未満の場合は所得の5%を超える医療費が控除対象となります。介護サービスの一部も医療費控除の対象となります。具体的には、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院での施設サービス費用の一部、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなどの医療系サービスの費用が該当します。
70代の方で、公的年金等の収入が400万円以下で、その他の所得が20万円以下の場合、確定申告は不要です。しかし、医療費控除を受けるために還付申告をすることで、源泉徴収された所得税の一部が還付され、翌年の住民税も減額されます。マイナポータル連携を利用すると、医療費通知情報を自動取得でき、確定申告が簡便になります。
社会保険料控除も活用できます。後期高齢者医療制度の保険料は、全額所得控除の対象となります。年金から天引きされている場合も控除対象となるため、確定申告や年末調整の際に忘れずに申告しましょう。
介護保険負担限度額認定制度は、施設入居時の居住費と食費について、所得や預貯金額が一定以下の方を対象に負担を軽減する制度です。認定を受けるには、世帯全員が市町村民税非課税であること、預貯金額が単身で1,000万円以下(夫婦で2,000万円以下)であることなどの条件があります。認定を受けると、居住費と食費の自己負担額が大幅に減額されます。
資金計画の具体的な立て方
70代からの資金計画は、残された時間を考慮しながら、現実的かつ具体的に立てる必要があります。まず、収入の把握から始めます。公的年金の受給額、企業年金や個人年金の有無、不動産収入や配当収入などを正確に把握します。年金については、ねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。
次に、支出の見積もりを行います。現在の生活費を基準に、将来の生活パターンの変化を考慮します。70代後半から80代にかけては、外出の頻度が減り交際費は減少する傾向がありますが、医療費や介護費用は増加します。住居費、食費、水道光熱費、通信費、保険料などの固定費と、医療費、介護費、交際費、趣味娯楽費などの変動費に分けて整理すると分かりやすくなります。
資産の評価も重要です。銀行の預貯金、退職金、売却可能な不動産や有価証券などを確認します。不動産については、実際に売却する場合の見込み額を不動産会社に査定してもらうと、より正確な資産評価ができます。株式や投資信託などの価値が変動する資産については、低めに見積もった金額で計算しておくと安全です。
資金計画では、予備費を必ず設定します。予期せぬ医療費、介護費用の増加、住宅の修繕費用、冠婚葬祭費用など、想定外の支出が発生する可能性は常にあります。一般的には、年間支出の10%から20%程度を予備費として確保しておくことが推奨されます。
介護施設への入居を検討している場合、入居時期によって必要な資金が大きく変わります。入居一時金が必要な施設を選ぶ場合、その資金をどのように準備するかが重要です。預貯金を取り崩すのか、不動産を売却するのか、生命保険を解約するのかなど、複数の選択肢を比較検討します。また、入居後の月額費用を安定的に支払える見込みがあるかを慎重に検証します。
配偶者がいる場合、先に配偶者が施設に入居したり、介護が必要になったりした場合の資金計画も立てておくべきです。夫婦で同時期に介護が必要になるケースもあれば、一方が介護する側に回るケースもあります。様々なシナリオを想定し、それぞれに対応できる資金計画を立てることが理想的です。
資金計画は一度立てたら終わりではありません。年に一度は見直しを行い、実際の収支と計画との差異を確認し、必要に応じて修正します。特に、医療費や介護費用は想定よりも多くかかることが多いため、定期的なチェックと調整が不可欠です。
家族とのコミュニケーションと情報共有
終活や介護施設への入居準備は、本人だけで完結するものではなく、家族との十分なコミュニケーションが不可欠です。自分の希望や考えを家族に伝え、理解と協力を得ることで、よりスムーズに準備を進められます。
まず、終活について話し合うタイミングを見つけることが重要です。唐突に深刻な話を始めると、家族が戸惑う可能性があります。日常会話の中で自然に触れたり、ニュースや知人の話題をきっかけにしたりすると、話しやすくなります。また、家族が揃う機会、例えば誕生日や記念日などを利用するのも良い方法です。
伝えるべき内容としては、医療や介護についての希望、財産の所在、重要な契約や手続きの情報、葬儀や埋葬についての考え、そして何よりも家族への感謝の気持ちなどがあります。特に、延命治療についての希望や、終末期をどこで過ごしたいかについては、明確に伝えておくことが大切です。
エンディングノートを家族と共有することも有効です。ノートの保管場所を伝え、定期的に内容を更新していることを知らせます。ただし、財産に関する詳細な情報については、相続時のトラブルを避けるため、慎重に扱う必要があります。
介護施設の選定においても、家族の意見を聞くことが重要です。特に、施設の立地については、家族が訪問しやすいかどうかが大きなポイントとなります。家族の負担も考慮しながら、最適な施設を選ぶことが、長期的には本人にとっても良い結果につながります。
子供世代との価値観の違いを理解することも大切です。70代の方と40代から50代の子供世代では、終活や介護に対する考え方が異なる場合があります。一方的に自分の考えを押し付けるのではなく、お互いの意見を尊重しながら、最善の方法を見つける姿勢が重要です。
遠方に住む家族とのコミュニケーションには、電話だけでなく、ビデオ通話やメール、メッセージアプリなどを活用すると効果的です。70代でもスマートフォンやタブレットを使いこなす方が増えており、デジタルツールを活用することで距離を超えた密なコミュニケーションが可能になります。
家族会議を定期的に開催することも推奨されます。年に1回から2回程度、家族が集まる機会を設けて、現状報告や今後の計画について話し合います。このような場を設けることで、家族全員が情報を共有し、いざという時に慌てずに対応できます。
70代後半からの心構えと生活の質の維持
70代後半になると、身体機能や認知機能の変化がより顕著になってきます。しかし、適切な心構えと生活習慣により、生活の質を維持し、充実した日々を送ることは十分可能です。
まず、健康管理に対する意識を高めることが重要です。定期的な健康診断や検診を受け、慢性疾患がある場合は医師の指示に従って適切に管理します。特に、高血圧、糖尿病、心疾患などは、放置すると要介護状態につながる可能性が高いため、継続的な治療と管理が不可欠です。
運動習慣を維持することも大切です。激しい運動は必要ありませんが、散歩やラジオ体操、ストレッチなど、無理のない範囲で身体を動かすことで、筋力と柔軟性を維持できます。転倒予防のためにも、下半身の筋力を保つことは特に重要です。
栄養バランスの取れた食事も、健康維持の基本です。高齢になると食欲が低下したり、調理が面倒になったりしがちですが、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分に摂取することで、体力と免疫力を維持できます。一人暮らしの方は、配食サービスを利用することも一つの選択肢です。
社会的なつながりを保つことも、生活の質を維持する上で極めて重要です。地域の活動やサークル、趣味の会などに参加することで、社会的孤立を防ぎ、認知機能の維持にも効果があります。新しいことに挑戦する姿勢も、脳の活性化につながります。
住環境の安全性を確保することも忘れてはなりません。段差の解消、手すりの設置、滑りにくい床材への変更など、転倒防止のための住宅改修を検討します。介護保険を利用すれば、住宅改修費用の一部が支給されます。
デジタルデバイドに対応することも、現代社会では重要です。スマートフォンやタブレットの基本的な操作を習得することで、家族や友人とのコミュニケーション、健康管理、情報収集など、生活の質を高める様々なサービスを利用できます。自治体や携帯電話会社が開催するシニア向けの講習会に参加するのも良い方法です。
前向きな心構えを持つことが、何よりも大切です。年齢を重ねることは避けられませんが、できることに焦点を当て、できないことは支援を受けながら、自分らしい生活を続ける姿勢が重要です。終活は人生の終わりに向けた準備ですが、同時に残された時間をより良く生きるための活動でもあります。
まとめ:70代から始める計画的な人生設計
70代からの終活と介護施設入居準備は、残された人生をより良く生きるための重要な活動です。本記事で詳述してきた内容を総括すると、以下のポイントが特に重要です。
資金面では、公的年金だけでは月々約3万円不足し、老後資金として2,500万円程度の準備が一つの目安となります。介護施設への入居となれば、20年間で特養では5,280万円から6,000万円、有料老人ホームでは8,400万円という多額の費用が必要です。しかし、高額介護サービス費制度、社会福祉法人による負担軽減制度、医療費控除などの支援制度を適切に活用することで、実質的な負担を軽減できます。
介護保険制度では、65歳以上の方は所得に応じて1割から3割の自己負担でサービスを利用でき、月額の負担上限も設定されています。在宅介護サービスを上手に活用することで、施設入居を遅らせ、住み慣れた自宅での生活を継続することも可能です。
介護施設選びでは、設備・環境面、スタッフの質、医療・介護体制、費用・契約条件の4つのポイントを総合的に評価し、必ず複数の施設で見学や体験入居を行って比較検討することが大切です。重要事項説明書の内容を十分に理解し、不明点は契約前に必ず確認することで、入居後のトラブルを防げます。
終活においては、エンディングノートの作成、財産目録の整理、遺言書の作成、相続対策などを計画的に進めることが重要です。70歳以上の約4割が身辺整理や葬儀・墓の準備を「何もしていない」という現状がありますが、70代は判断力と体力を維持している最適な時期であり、この機会を逃すべきではありません。
家族とのコミュニケーションも不可欠です。自分の希望や意向を明確に伝え、家族の理解と協力を得ることで、より良い終活と介護準備が可能になります。延命治療についての希望や終末期をどこで過ごしたいかなど、重要な事項については、元気なうちに家族と話し合っておくことが大切です。
70代は人生の重要な転換点です。終活は単なる準備作業ではなく、これまでの人生を振り返り、残された時間をより充実させ、自分らしい人生の締めくくりを準備する前向きな活動です。体力や判断力が十分にあるこの時期だからこそ、計画的に準備を進めることで、尊厳ある老後生活を実現し、家族への負担を軽減できます。
不安や迷いがあるのは当然のことです。しかし、一歩ずつ着実に準備を進めることで、必ず道は開けます。地域包括支援センター、ケアマネジャー、社会福祉士、ファイナンシャルプランナーなど、専門家の支援も積極的に活用しながら、自分らしい老後の実現に向けて、今日から行動を始めましょう。









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