国民生活センターに寄せられる葬儀のトラブル相談、2024年度は978件で最多

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葬儀のトラブルについて、国民生活センターに寄せられる相談は年間900件前後で推移し、2024年度には978件となり、統計が残る2010年度以降で最多を更新しました。相談の中心を占めるのは、広告に載っていた金額と実際の請求額が大きくかけ離れる「高価格・料金」に関するものです。国民生活センターは2026年6月3日、「家族葬だから安い」と思い込むことの危うさを注意喚起として公表しました。燦ホールディングス株式会社が実施した意識調査の結果と、国民生活センターがまとめた相談事例を照らし合わせると、遺族が置かれている状況の厳しさがよく分かります。人の死は予測できず、遺族には比較検討する時間がほとんど残されていません。この時間のなさこそが、高額なプランを契約させられてしまう温床になっています。

目次

葬儀トラブルの相談は2024年度に978件で過去最多を記録

国民生活センターによると、全国の消費生活センター等に寄せられる葬儀サービスに関する相談は増加傾向で推移しており、年間で900件前後に上ります。令和6年(2024年)の死亡数は約161万人となり、厚生労働省が調査を開始して以来最多を記録しました。死亡数の増加に伴って葬儀の取扱件数そのものが増えていることに加え、家族葬・一日葬・直葬など葬儀の形態が多様化していることも、トラブル増加の背景にあります。

過去数年の相談件数の推移を表にまとめると、次のようになります。

年度相談件数
令和3年度(2021年度)800件
令和4年度(2022年度)951件
令和5年度(2023年度)886件
令和6年度(2024年度)978件

令和7年度(2025年度)は6月の時点ですでに1,007件の相談が寄せられており、これまでの年間件数を数か月で上回るという異例のペースで推移しています。この1,007件の内訳を見ると、次の表のようになります。

相談内容件数
高価格・料金527件(重複計上あり)
説明不足382件(重複計上あり)
見積もり213件(重複計上あり)

料金と説明をめぐる不満が、相談の中心を占め続けている状況です。葬儀形態の変化やサービス内容の多岐化によって費用項目が複雑になっていること、さらに親しい人との死別という事態に冷静に対応できなかったり、葬儀社の説明や消費者側の理解が不足していたりすることが重なり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。

比較検討せずに1社だけで契約する人が75.8%に上る

燦ホールディングス株式会社は、全国の過去5年以内に葬儀に関与した40歳から80歳の男女500名を対象に、2026年4月15日から『葬儀における意思決定と費用に関する実態調査』をインターネットで実施しました。この結果を見ると、葬儀社選びの実態がかなり厳しいことが分かります。

「葬儀社を決定する際、いくつの葬儀社の価格やサービスを比較したか」という質問に対し、75.8%の人が「比較していない(1社のみ)」と回答しました。「2社」を比較した人は13.2%、「3社」に至ってはわずか6.4%にとどまっています。約8割の人が、たった1社の提示条件だけで葬儀社を決めているというのは、あらためて突きつけられると衝撃的な数字です。

この背景には、江戸時代以降に定着した檀家制度の名残があるという見方もできます。浄土宗の檀家で不幸があった場合、地元を束ねる寺院から僧侶が来て取り仕切ってくれたため、明治以前の時代には選択肢という概念自体が存在しませんでした。21世紀の消費者は本来、複数の葬儀社のプランを比較して、より希望に合ったものを選ぶ自由を持っています。結婚式であれば、多くのカップルが複数の会場を見学して時間をかけて比較検討します。葬儀の場合はそれと同じようにはいきません。決定的に足りないのは、時間です。

意思決定までの時間は8割以上が1日以内

「ご逝去から葬儀社を決定するまで、実質どのくらいの時間があったか」という質問には、40.6%が「3時間以内」、27.2%が「半日以内」、15.2%が「1日以内」と回答しました。回答者の8割以上が、1日にも満たない時間で葬儀社という重要な決定を下していることになります。

これはプロ将棋のタイトル戦における持ち時間よりも短い時間で、人生における重要な決断を迫られているとも言えます。数十万円から百万円単位の契約を、これほど短時間で結ぶことがいかに危険か、冷静に考えれば明らかでしょう。事前の情報収集がいかに重要かが、この数字からよく分かります。

費用を十分理解しないままサインする人が3割

「契約時、最終的にいくら支払うことになりそうかという全体金額の目安についてどの程度理解・納得したか」という質問では、十分に理解したという回答が過半数を占めた一方、理解が不十分だったことを示す回答は全体の34%に及びました。およそ3割の人が、葬儀の費用をあまり理解しないまま契約書にサインしていることになります。悲しみの渦中で複雑な料金体系を短時間で理解し、納得した上で契約することがいかに難しいかが伝わってくる結果です。

生成AIに相談した経験がある人は22%

同調査では、葬儀についてChatGPTなどの生成AIに相談した経験の有無も尋ねており、22%の人が「相談したことがある」と回答しました。終活や葬儀の相談スタイルにも、時代の変化が表れています。ただし、AIがどれほど賢くなっても、個別の事情や地域性、業者ごとの契約内容まで踏まえた答えを常に導き出せるとは限りません。この点には注意が必要でしょう。

「家族葬40万円」の広告が実際には300万円近くになった事例

国民生活センターや各種報道でまとめられている相談事例を見ると、葬儀トラブルの深刻さが具体的に伝わってきます。広告では「家族葬は約40万円から」と謳われていたにもかかわらず、打ち合わせの中でオプションが次々と追加され、最終的な合計額が300万円近くにまで膨れ上がったケースが報告されています。広告に記載された金額はあくまで最安のプランや一部のケースを想定したもので、実際の費用は式場の規模、参列者数、オプションの追加などによって大きく変動します。この価格差を認識しないまま契約に進んでしまうことが、トラブルの典型的なパターンの一つです。

一日葬30万円のチラシが実際には80万円に

インターネット広告をきっかけとしたケースも複数報告されています。ネット広告で家族葬を扱う葬儀社を見つけて依頼したところ、想定よりはるかに高額な契約になったという相談のほか、「一日葬は約30万円」というチラシを見て依頼したにもかかわらず、実際には約80万円の契約になったという事例もあります。

家族葬希望が一般葬150万円の契約に変わった青森県のケース

当初の希望と異なるプランを強く勧められて契約してしまうケースもあります。「家族葬でお願いしたい」と葬儀社に伝えたにもかかわらず、担当者から一般葬を強く勧められ、精神的に疲れていたこともあって、最終的に約150万円の契約をしてしまったという相談が報告されています。青森県の60代女性のケースでは、「家族葬といっても、様々な追加料金が発生する」といった長時間の説明を受けた末に、当初の想定を大きく超える一般葬の契約に至りました。遺族が精神的に不安定な状態にあることにつけ込むような営業トークが、トラブルの温床になっていることがうかがえます。

見積もりと実際の請求額に大きな乖離が生じるケースも少なくありません。契約段階では明確に説明されなかった項目が、後になって次々と追加請求されるパターンです。祭壇のグレード、返礼品の数量、ドライアイスの追加、式場の使用時間の延長など、参列者数や式の進行によって金額が変動しやすい項目については、契約前に十分な説明がなされないまま進んでしまうことが少なくありません。結果として、当初提示された見積額よりも数十万円、場合によっては百万円以上高い金額を請求されるという深刻なトラブルに発展することもあります。

漫画家の家族葬50万円が最終的に200万円へ膨らんだケース

このトラブルの深刻さを象徴する事例として、あるベテラン漫画家が体験した葬儀トラブルが報道で大きく取り上げられ、反響を呼びました。当初「家族葬50万円」というプランで依頼するつもりだったものの、実際に葬儀社の担当者と打ち合わせを進めるうちに、戒名のランクや供物のグレード、各種オプションが次々と積み上がり、最終的な支払額は約200万円にまで膨らんだといいます。打ち合わせの中で「こんなに質素な葬儀でよいのですか」といった趣旨の発言を受け、遺族としての判断や気持ちを揺さぶられるようなやり取りがあったことも明らかにされています。悲しみの渦中にある遺族の心理的な弱さにつけ込むかのような営業トークが、契約金額を押し上げる要因になっている実態がうかがえます。

これらの相談内容を分類すると、「高価格・料金」に関するものが最も多く、次いで「説明不足」「契約」「見積もり」に関する相談が続きます。いずれも共通しているのは、遺族が冷静な判断力を保ちにくい状況の中で、限られた時間内に重要な決定を迫られているという点です。

ユニクエストへの課徴金は1億180万円、イオンライフは179万円

こうした状況を受け、消費者庁も是正に乗り出しています。これまでに葬儀サービスをめぐる行政処分は複数の事業者に対して下されており、広告上は「追加料金不要」とうたいながら、実際には様々な名目で追加料金が発生していたケースが問題視されました。「小さなお葬式」のブランドを展開するユニクエストに対しては、景品表示法違反を理由に1億180万円の課徴金納付が命じられ、イオンライフに対しても179万円の課徴金納付命令が出されています。

これらの行政処分の存在は、「追加料金なし」「定額」といった広告表示を鵜呑みにすることの危うさを示しています。消費者としては、広告に記載された金額が最低条件を前提とした一例に過ぎない可能性を常に念頭に置き、実際の見積もりを取るまで安心しない姿勢が求められます。

さらに、消費者被害の未然防止や拡大防止を目的として活動する適格消費者団体も、葬儀サービスの料金トラブルに注目しています。内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体は、不当な勧誘や表示によって消費者の利益が害されるおそれがある場合に、事業者に対して差止請求を行う権限を持つ団体です。国民生活センターが公表した今回の注意喚起についても、複数の適格消費者団体が自団体のウェブサイトで取り上げ、地域の消費者に向けて注意を呼びかけました。葬儀サービスの料金トラブルは、一部の悪質な業者に限った話ではなく、業界全体として取り組むべき課題になっています。

家族葬・一日葬・直葬の費用は基本プランに含まれない項目で膨らむ

「家族葬」とは、遺族や親族などごく親しい人だけで行う小規模な葬儀を指す言葉として広く使われていますが、業界共通の明確な定義があるわけではなく、葬儀社によって想定される参列人数の目安や含まれるサービス内容が異なります。「一日葬」は、通夜を行わずに告別式と火葬を1日で済ませる形式で、時間や参列者の負担を抑えられる一方、宗教的な儀礼を簡略化することへの理解が親族間で得られているかが重要になります。「直葬(火葬式)」は、通夜や告別式を行わず、火葬のみで送るシンプルな形式です。

葬儀形態内容注意点
家族葬遺族や親族などごく親しい人だけで行う小規模な葬儀参列人数の目安やサービス内容は葬儀社によって異なる
一日葬通夜を行わず告別式と火葬を1日で済ませる儀礼の簡略化への親族間の理解が必要
直葬(火葬式)通夜や告別式を行わず火葬のみで送る名称だけでは費用の全体像がつかみにくい

いずれの形式も、名称だけを見ると費用を抑えられそうな印象を受けますが、実際には戒名料、僧侶へのお布施、返礼品、式場使用料、祭壇のグレード、ドライアイス代や搬送費用など、基本プランに含まれない項目が積み重なることで、当初の想定を大きく超える金額になりやすいという特徴があります。広告に表示されている金額がどの範囲までの費用を含んだものなのか、追加料金が発生し得る項目は何かを、契約前に必ず確認する必要があります。

かつての日本では、地域の寺院とその檀家という関係性の中で、葬儀の形式や費用はある程度自動的に決まっていました。徳川幕府が確立させた檀家制度は、選ぶ手間を排除する仕組みだったとも解釈できます。しかし現代の私たちは、その檀家制度なき時代を生きています。選択肢が増えたことは本来喜ばしいはずですが、選択肢が多いということは、それだけ比較検討の負担が消費者側に重くのしかかることも意味します。しかも葬儀という催しは、結婚式のように何か月も前から準備できるものではありません。このギャップこそが、葬儀トラブルが繰り返し発生し続ける原因になっています。

葬儀のクーリング・オフは原則対象外だが訪問販売なら8日以内に解除できる

葬儀サービスは、特定商取引法上のいわゆるクーリング・オフの対象外とされている商品・サービスに該当します。そのため、契約書にサインした後に「やはり高すぎるので解約したい」と申し出ても、無条件でキャンセルできるわけではありません。ただし例外もあり、葬儀社の営業所等以外の場所、たとえば自宅や病院などで契約を結んだ場合は、訪問販売に該当する可能性があります。この場合、法律で定められた書面を受け取った日を1日目として8日以内であれば、クーリング・オフによって契約を解除できる可能性があります。

葬儀がすでに執り行われた後になって「思っていたより費用が高い」と感じても、単に「高い」という理由だけで減額交渉を進めるのは難しいのが実情です。しかし、家族の予算や希望を事前に明確に伝えていたにもかかわらず一方的に高額なプランを勧められていた場合や、見積書に総額のみが記載され内訳の明細が示されていなかった場合には、その点を具体的に指摘した上で葬儀社と話し合う余地があります。依頼した覚えのないサービスや商品を追加され高額の請求をされたケースや、「一番安いランクでよい」と伝えたにもかかわらず次々と付属品や有料オプションを付けられて高額になったケースなども、実際の相談事例として報告されています。

こうしたケースでは、当初のやり取りをできる限り記録に残しておくこと、そして一人で交渉を抱え込まず消費生活センター等の専門家に相談することが、解決への近道になります。

トラブルを防ぐには生前見積もりと複数人での打ち合わせが有効

国民生活センターは消費者に向けて、トラブルを未然に防ぐためのアドバイスをまとめています。まず重要なのは、事前に葬儀の希望やイメージを固め、情報収集をしておくことです。どのような規模で、どのような形式の葬儀を行いたいのか、家族の間であらかじめ話し合っておくことで、いざというときに冷静な判断がしやすくなります。費用や希望をかなえてくれる葬儀社を、余裕のあるうちに探しておくことも欠かせません。実際に亡くなってから複数社を比較する時間はほとんどないため、元気なうちに候補となる葬儀社をいくつか把握しておくことが望ましいでしょう。

葬儀社との打ち合わせは、一人で抱え込まずに親族や第三者など複数人で行うことも重要です。悲しみの渦中にある一人だけで契約内容を判断すると、冷静な判断力が失われがちになります。複数の目で確認することで、不要なオプションの追加や説明不足による誤解を防ぎやすくなるでしょう。見積書の内容を必ず確認することも欠かせません。特に参列者の人数によって金額が増減する項目(返礼品、料理、式場使用料など)については、想定人数が変わった場合にどの程度費用が変動するのかを、契約前にしっかり確認しておく必要があります。口頭の説明だけでなく、書面で内容を残してもらうことも重要なポイントです。

具体策として近年注目されているのが、「生前見積もり」や「葬儀の生前契約」です。生前見積もりとは、まだ誰も亡くなっていない段階で、希望する葬儀の規模やプラン内容を葬儀社に伝え、あらかじめ概算の見積もりを取っておくことを指します。これにより、実際に葬儀が必要になった際、慌てて1社だけの提示条件を鵜呑みにするのではなく、事前に把握していた相場観と照らし合わせながら判断できます。互助会や葬儀社が提供する生前契約・積立制度を利用すれば、費用の一部をあらかじめ準備しておくことも可能です。ただし、こうした制度にも解約条件や返戻金の扱いなど、契約前に確認すべき注意点は少なくありません。積立金額がそのまま葬儀費用全額をまかなえるとは限らず、追加費用が発生するケースもあるため、生前契約であっても契約内容を定期的に見直す姿勢が求められます。燦ホールディングスの調査結果が示すように、8割近くの人が比較検討をしないまま1社だけで契約を決めている現状を踏まえれば、生前見積もりを複数社から取っておくことは決して大げさな備えとは言えないでしょう。

相談は全国共通の消費者ホットラインで最寄りの窓口につながる

万が一トラブルになってしまった場合は、一人で悩まず消費生活センターなどの公的機関に相談することが解決の糸口になります。全国共通の消費者ホットラインに電話をかければ、最寄りの消費生活センター等を案内してもらえます。契約前はもちろん、契約後にトラブルが発覚した場合でも、専門の相談員に状況を伝えることで解決の糸口が見つかることがあります。国民生活センターや各地の消費生活センターには、葬儀に関する専門知識を持つ相談員が在籍しており、事業者との交渉方法についても具体的な助言を受けられる可能性があります。

葬儀をめぐるトラブルの根本的な原因は、時間のなさにあります。ご逝去から葬儀社を決定するまでの時間が、平均してわずか数時間から半日程度しかないという実態がある以上、事後に慌てて情報収集をしても手遅れになりかねません。健康なうちから、あるいは家族が元気なうちから葬儀に関する情報を集め、信頼できる葬儀社の候補を持っておくことが、残される家族が冷静な判断を下せるようにするための備えになります。国民生活センターが繰り返し注意喚起を行っているという事実そのものが、この問題がいまだに解決されていないことの裏返しでもあります。「家族葬だから安い」という思い込みは危険であり、広告に記載された金額はあくまで目安に過ぎないという意識を、一人ひとりが持つ必要があるでしょう。

葬儀は誰にとっても避けられない出来事であり、多くの場合、人生で何度も経験するものではありません。だからこそ知識や経験が不足しがちで、業者側との情報量の差が生まれやすくなっています。あらかじめ複数の葬儀社を比較し、家族間で希望を共有しておくことが、いざというときに慌てず、後悔のない選択をするための最も確実な備えになるはずです。

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