相続した実家が空き家のまま残っていると、固定資産税の負担がいずれ重くなる可能性があります。空き家対策特別措置法の改正により、放置された家は住宅用地の軽減特例を外され、税額が最大で約6倍に増えるケースが出てきました。一方で、早めに動けば売却時の3,000万円特別控除や賃貸活用、自治体の補助金など、負担を抑える手段はいくつも残っています。2026年09月10日時点でわかっている制度の内容と、実家の空き家をどう扱うべきかの判断材料をまとめました。

全国の空き家は900万戸、空き家率13.8%で過去最多を更新した
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年時点の全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最多を更新しました。2018年時点の849万戸から5年間で51万戸増えた計算になり、およそ7戸に1戸が空き家という水準です。このうち賃貸用・売却用や別荘などを除いた、いわゆる放置されやすい空き家も385万戸にのぼっており、実家の空き家問題は決して他人事ではありません。
こうした背景もあり、行政は空き家対策特別措置法の改正や相続登記の義務化など、所有者に管理と手続きを求める方向で制度を整えてきました。実家が空き家のまま残っている場合、まず固定資産税の仕組みを理解しておくことが対策の出発点になります。
空き家放置で固定資産税が上がるのは住宅用地の特例が外れるから
固定資産税が跳ね上がる理由は、住宅用地に本来適用される軽減措置がなくなるからです。200平方メートル以下の小規模住宅用地は固定資産税評価額が6分の1に、200平方メートルを超える一般住宅用地は3分の1に軽減されており、都市計画税も小規模住宅用地で3分の1、一般住宅用地で3分の2に軽減されています。この特例があるおかげで、建物付きの土地は更地より税負担がかなり軽くなっています。
裏を返せば、この特例が外れた瞬間に税額は跳ね上がります。多くの人が「空き家を解体すると固定資産税が上がる」と語るのは、解体して更地になることで住宅用地の特例が使えなくなるためです。ただし今回問題にしたいのはそこではなく、建物を残したまま特例が剥がされてしまうケースのほうです。
特定空家等と管理不全空家等、どちらに指定されても特例は外れる
2015年に施行された空家等対策の推進に関する特別措置法により、倒壊のおそれがあるなど危険性や悪影響が特に大きいと市区町村が判断した空き家は「特定空家等」に指定されます。倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態、著しく衛生上有害となるおそれがある状態、適切な管理が行われず景観を著しく損なっている状態などが該当します。
2023年12月13日には同法の改正が施行され、特定空家等ほど深刻ではないものの放置すればそこに至りかねない空き家を対象とした「管理不全空家等」という区分が新たに設けられました。この改正によって、住宅用地特例が外れる対象は明確に広がっています。特定空家等・管理不全空家等のいずれかに指定され、さらに自治体から改善のための勧告を受けると、その土地は住宅用地特例の対象から除外され、固定資産税評価額に対する軽減がなくなります。結果として税額は最大で約6倍にまで増加する可能性があります。
増税が始まるのは勧告を受けた翌年の1月1日から
固定資産税は毎年1月1日時点の所有状況を基準に課税されます。勧告を受けた状態のまま1月1日を迎えると、その年度から住宅用地特例が適用されなくなり、税額が増加します。つまり勧告を受けてから実際に税額が上がるまでには一定の猶予があり、その間に修繕や管理、解体などの是正措置を行えば増税を回避できるということです。
自治体はいきなり勧告を出すわけではなく、まず所有者に助言・指導を行い、それでも改善が見られない場合に勧告、さらに命令、最終的には行政代執行による強制的な解体という段階を踏みます。助言・指導の段階であれば住宅用地特例は維持されるので、自治体から連絡が来た時点で早めに対応することが増税を避ける最初の分かれ目になります。
早期の管理で指定そのものを避けるのが最も負担の少ない対策
特定空家等・管理不全空家等に指定される前に、適切な管理を続けることが最も基本的で効果的な対策です。定期的な換気や通水、庭木の剪定、郵便物の整理、外観チェックなどを続け、周辺に悪影響を及ぼさない状態を保っていれば、そもそも行政の指導・勧告の対象になりません。
遠方に住んでいて自分で通うのが難しい場合は、空き家管理サービスを提供する民間業者やシルバー人材センターに管理を委託する方法もあります。月数千円程度の費用で定期巡回と報告を受けられるサービスが多く、放置による資産価値の低下や増税リスクを考えれば、費用対効果は十分に見合います。
相続空き家の3,000万円特別控除は2027年12月31日までの売却が対象
相続した実家を売却する際に大きな節税効果を発揮するのが、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除、いわゆる相続空き家の3,000万円特別控除です。相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋を、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。建物を残したまま売却するなら耐震基準を満たすリフォームが条件になり、耐震性がない場合や老朽化が進んでいる場合は、建物を取り壊して更地として売却するほうが現実的です。
主な適用要件は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、区分所有建物ではないこと、相続開始直前において被相続人以外に居住者がいなかったこと、相続時から譲渡時まで事業用・貸付用・居住用に供されていないこと、売却代金が1億円以下であることの5点です。
令和6年1月1日以降の譲渡については、相続人が3名以上になる場合、特別控除額が1人あたり3,000万円から2,000万円に引き下げられました。一方で、以前は売却前に耐震改修または取り壊しを完了していることが要件でしたが、改正後は譲渡の翌年2月15日までに耐震改修または取り壊しを行えば適用対象になるよう緩和されています。適用期限は令和9年、つまり2027年12月31日までの譲渡とされているため、実家の売却を検討しているなら期限内に手続きを進める必要があります。
この特例を使うには、空き家の所在地を管轄する市区町村から被相続人居住用家屋等確認書の交付を受け、確定申告の際に必要書類とともに税務署へ提出します。書類の準備に時間がかかることもあるので、早めに自治体窓口へ相談しておくと安心です。
賃貸に出せば住宅用地の特例を維持したまま収入を得られる
解体すると固定資産税が上がるなら、そのまま貸してしまうという選択肢もあります。空き家をそのまま、あるいは最小限のクリーニングやリフォームをして賃貸に出せば、住宅用地の特例を維持しながら家賃収入を得られます。
老朽化が進んでいる場合でも、シェアハウス、民泊、戸建賃貸、貸店舗や貸工房といった活用方法があります。立地や建物の状態によっては、そのままの姿で貸すよりも一定のリフォームをしたほうが入居付けしやすくなることもあるため、不動産会社に相談しながら費用対効果を見極めるのがよいでしょう。
ただし賃貸に出すと「事業用・貸付用に供された」とみなされ、前述の3,000万円特別控除の要件から外れてしまいます。将来的に売却して控除を使う予定があるなら、賃貸に出す前によく検討したほうがよさそうです。
解体・リフォーム費用は自治体の補助金で抑えられる場合がある
老朽化が著しく修繕費用が資産価値に見合わない場合は、解体して更地として売却する、あるいはリフォームやリノベーションを施して売却するという選択肢があります。更地にすれば買い手の対象は広がりやすくなりますが、住宅用地特例が外れて固定資産税・都市計画税が増額される点は理解しておく必要があります。解体後すぐに売却できれば、増税の影響を受ける期間は限定的です。
多くの自治体では、老朽化した空き家の解体費用やリフォーム・耐震改修費用の一部を補助する制度を設けています。補助額や条件は自治体によって異なるため、実家がある市区町村の空き家対策窓口やホームページで最新の制度を確認することをおすすめします。解体前の申請が必須の制度がほとんどなので、着工前の早い段階で問い合わせておくべきです。
空き家バンクへの登録で移住希望者とマッチングする方法もある
過疎地域や地方都市を中心に、多くの自治体が空き家バンク制度を運営しています。空き家の所有者と、移住や二拠点生活を目的に空き家を探している利用希望者とをマッチングする仕組みです。登録には審査がありますが、成約すれば自治体によっては引っ越し費用やリフォーム費用の補助を受けられる場合もあり、売却・賃貸の両面で活用の可能性が広がります。
固定資産税は相続人全員が法定相続分に応じて連帯納税する
実家の名義人が亡くなった後、相続人が複数いる場合は、固定資産税を誰が払うのかという問題も見落とされがちです。遺産分割協議がまだ成立していない未分割の状態では、相続人全員が法定相続分に応じて納税義務を負うのが原則です。市区町村は法定相続人のうちの代表者宛てに納税通知書を送付することが多いものの、これはあくまで便宜的な措置で、法律上は相続人全員が連帯して納税義務を負っています。
遺産分割協議で「誰が実家を相続し、固定資産税を負担するか」を相続人間で取り決めることは可能ですが、この取り決めは相続人間の内部的な合意にすぎず、市区町村に対して直接の効力を持ちません。協議で負担者を決めていても、他の相続人に滞納があれば連帯納税義務者として支払いを求められる可能性があります。空き家を巡るトラブルを避けるためにも、遺産分割協議の内容は書面に残し、相続人全員で共有しておくべきです。
相続登記は2024年4月1日から義務化され2027年3月31日までの経過措置が続く
2024年4月1日から、相続登記の申請が法律上の義務になりました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料が科される可能性があります。
この制度は2024年4月1日より前に相続した不動産にもさかのぼって適用され、経過措置として2027年3月31日までに登記を完了させる必要があります。実家が空き家のまま相続登記もされていないケースは非常に多く、相続人がさらに増えて権利関係が複雑化する所有者不明土地・空き家問題の温床になっています。固定資産税の納税義務者を明確にする意味でも、空き家対策の第一歩として早期の相続登記を済ませておいたほうがよいはずです。
京都市は独自の空き家税として非居住住宅利活用促進税を導入した
固定資産税とは別に、独自の空き家税を導入する自治体も出てきました。京都市では、居住者のいない住宅を対象とした非居住住宅利活用促進税が導入されており、全国的にも珍しい取り組みです。空き家問題が深刻な他の自治体でも同様の税制が今後検討される可能性があるため、実家のある地域の税制動向は継続的にチェックしておいたほうがよいでしょう。
実家じまいの総費用は数十万円から300万円超まで幅がある
節税対策を検討する前提として、実家を片付ける実家じまい自体にかかる費用感も把握しておく必要があります。実家じまいの総費用は、家財の量や解体の有無によって数十万円から300万円を超えるケースまで幅があり、最大の要因は自分たちでどこまで作業するかと、建物を解体するかどうかの2点です。
自分たちで家財の処分を行う場合、3LDK程度の住宅であればゴミ処分費だけで3万から5万円程度が目安で、交通費や梱包資材代を加えると4万円以上が見込まれます。業者に遺品整理や生前整理を依頼する場合は、間取りや荷物の量に応じて費用が変動し、立地が遠方であれば出張費が上乗せされる点にも注意したいところです。
親が存命のうちに本人が自ら持ち物を整理しておく生前整理を進めておくと、遺品の量そのものが減り、相続発生後の遺族の負担や業者への依頼費用を抑えられます。実家の片付け費用は、解体費用や譲渡所得税の試算とあわせて、早い段階でトータルの資金計画を立てておくと無駄な出費を防ぎやすくなります。
相続放棄と相続土地国庫帰属制度は税負担より管理義務からの解放が目的
そもそも実家を相続したくないという場合の選択肢として、相続放棄や相続土地国庫帰属制度が検討されることもあります。相続放棄は、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をあわせたすべての相続権を放棄する手続きで、実家だけを選んで放棄することはできません。相続放棄をしても、次順位の相続人に管理が引き継がれるまでの間は一定の管理義務が残る点には注意が必要です。
2023年4月27日に施行された相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって取得した土地を、一定の負担金を納めることで国庫に帰属させる制度です。この制度は建物が建っている土地は対象外で、審査手数料に加えて10年分相当の土地管理費用に相当する負担金を納付する必要があります。境界が不明確な土地や担保権が設定されている土地、土壌汚染がある土地なども対象外となるため、実家の建物を解体し更地にした上で申請するケースが中心になります。
相続放棄も国庫帰属制度も、税負担を軽くするというより将来的な管理義務や納税義務そのものから離れるための手段です。実家の資産価値や思い出との兼ね合いも含めて、他の選択肢と比較しながら判断したほうがよさそうです。
空き家の火災保険は審査で加入を断られることがある
節税や活用方法とあわせて見落とされがちなのが、空き家の火災保険です。空き家は放火や老朽化による損傷、台風などの自然災害のリスクを抱えているにもかかわらず、誰も住んでいないからという理由で火災保険を解約したり未加入のままにしたりしているケースが少なくありません。
空き家が火災を起こして近隣の建物に延焼した場合や、老朽化した外壁や屋根の一部が崩落して通行人や隣家に被害を与えた場合、所有者は損害賠償責任を問われる可能性があります。近隣への損害賠償額が数千万円規模に及んだケースも報告されており、無保険のまま放置するのは大きな経済的リスクです。
火災保険に加入していれば、火災による損害だけでなく修繕費用や解体費用、近隣への損害賠償に保険金を充てられる場合があります。一方で老朽化が進んだ空き家や長期間放置された建物は、保険会社の審査で加入を断られたり、通常の居住用物件とは異なる空き家用の保険商品への加入が必要になったりすることもあります。管理状況や今後の活用方針を保険会社に正確に伝え、早めに加入可否を確認しておくべきです。
譲渡所得税の計算では概算取得費5%だと税額が膨らみやすい
実家を売却して利益、つまり譲渡所得が出た場合には譲渡所得税と住民税がかかります。譲渡所得は譲渡価額から取得費と譲渡費用を引いて計算し、そこから3,000万円特別控除を差し引いた金額に税率を掛けて税額が算出されます。
古い実家の場合、購入時の売買契約書や領収書が見つからず、取得費がわからないケースが少なくありません。取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を概算取得費として計算することが認められています。ただしこの概算取得費はあくまで簡便的な計算方法で、実際の購入価格よりかなり低く見積もられることが多く、結果として譲渡所得が実態以上に大きく算出されてしまいがちです。
税率は所有期間によって異なり、所有期間が5年を超える長期譲渡なら所得税・復興特別所得税・住民税をあわせて20.315%、5年以下の短期譲渡なら39.63%というかなり高い税率が適用されます。親から相続した実家は被相続人の取得時期と取得費をそのまま引き継ぐ扱いになるため、多くの場合は長期譲渡に該当しますが、いずれにしても数百万円単位の税負担が生じ得る点は押さえておく必要があります。
取得費が不明で概算取得費に頼らざるを得ない実家ほど譲渡所得が大きく計算されがちで、だからこそ相続空き家の3,000万円特別控除を適用できるかどうかが最終的な手取り額を大きく左右します。売買契約書や工事関係書類が実家に残っていないか、売却前に一度確認しておくとよいはずです。
実家の空き家対策で押さえておきたいのは、特定空家等や管理不全空家等に指定される前の管理、売却時の3,000万円特別控除、賃貸活用や補助金の利用、そして相続登記という5つの動き方です。固定資産税の増税リスクも各種特例による節税メリットも、結局は早く動いたほうが有利に働きます。実家が空き家になったら放置せず、できるだけ早い段階で管理・活用・売却のどの方向に進むかを家族で話し合い、必要に応じて税理士や不動産会社、自治体の空き家対策窓口に相談するのが、負担の少ない選択につながります。








