遺言書は人生の最終段階において、自分の意思を確実に残すための重要な法的文書です。中でも公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が関与して作成されるため、法的効力が高く、偽造や紛失のリスクが極めて低いという大きなメリットがあります。しかし、その分作成には一定の費用がかかるため、事前にどの程度の予算を準備すべきか把握しておくことが重要です。2025年の最新情報をもとに、公正証書遺言の費用について詳しく解説していきます。適切な予算計画を立てることで、安心して遺言書作成に取り組むことができるでしょう。

公正証書遺言の作成にはどのくらいの費用がかかりますか?
公正証書遺言の作成費用は、自分で手続きを進める場合は10万円から15万円程度が一般的な相場とされています。この費用は主に公証役場へ支払う必要な費用で構成されており、遺産の総額や相続人の数によって変動します。
費用の内訳は大きく分けて3つのカテゴリーに分類されます。まず、必ず発生する費用として公正証書作成手数料(公証人手数料)、遺言書の交付手数料(正本・謄本代)、必要書類の取得費用があります。次に、状況に応じて発生する費用として証人2名への日当、公証人の出張費・日当・交通費があります。最後に、専門家に依頼する場合の費用として弁護士や司法書士、行政書士への報酬が加算されます。
具体的な費用例を挙げると、遺産総額8,000万円を配偶者に4,000万円、子ども2人にそれぞれ2,000万円ずつ相続させる場合、公証人手数料は86,000円となります。これに必要書類の取得費用約1万円、証人2名への謝礼1万6,000円程度を加えると、自分で手続きを進める場合は約11万円の費用がかかります。
専門家に依頼する場合は、さらに追加費用が必要になります。行政書士への依頼で5万円から20万円程度、司法書士で5万円から25万円程度、弁護士で20万円から100万円以上の報酬が相場となっています。つまり、専門家に依頼する場合の総費用は20万円から50万円程度を見込んでおく必要があります。
公正証書遺言の公証人手数料はどのように計算されるのですか?
公正証書遺言の公証人手数料は、「公証人手数料令」という政令によって全国一律で定められており、財産を引き継ぐ人(相続人または受遺者)ごとに計算し、その合計額が全体の手数料となります。
手数料の計算表は以下の通りです。100万円以下の場合は5,000円、100万円を超え200万円以下は7,000円、200万円を超え500万円以下は11,000円、500万円を超え1,000万円以下は17,000円、1,000万円を超え3,000万円以下は23,000円、3,000万円を超え5,000万円以下は29,000円、5,000万円を超え1億円以下は43,000円となっています。
重要なポイントは「遺言加算」です。相続財産の総額が1億円以下の場合、上記の計算で算出された手数料額に11,000円が自動的に加算されます。これは公正証書遺言特有の加算制度で、多くの方が見落としがちな費用です。
計算例を示すと、財産総額5,000万円を配偶者に1/2(2,500万円)、子2人に1/4ずつ(各1,250万円)相続させる場合を考えてみましょう。配偶者分2,500万円は23,000円、子A分1,250万円は23,000円、子B分1,250万円は23,000円となり、合計69,000円です。これに遺言加算11,000円を加えて、総額80,000円が公証人手数料となります。
同じ財産額でも相続人の数が増えるほど手数料は高くなる傾向があります。また、特定の金額範囲内であれば同じ手数料が適用されるため、500万円、1,000万円、3,000万円などの基準上限を意識した相続計画を立てることで、費用を節約できる可能性もあります。
専門家に公正証書遺言の作成を依頼した場合の費用相場は?
専門家に公正証書遺言の作成を依頼する場合の費用は、専門家の種類や業務範囲によって大きく異なります。最も重要なのは、それぞれの専門家の得意分野を理解して適切に選択することです。
行政書士への依頼が最も費用を抑えられる選択肢で、5万円から20万円程度が相場です。遺言書の起案や作成のみであれば平均5万円程度、必要書類の代行収集なども含めて丸ごと依頼すると20万円前後になります。行政書士は書類作成の専門家で、相続トラブルの可能性が低く、遺言内容がシンプルな場合に適しています。
司法書士への依頼は5万円から25万円程度で、公正証書遺言の作成サポートをまるごと依頼すると20万円前後が一般的です。司法書士は不動産登記が専門のため、相続財産に不動産が含まれる場合に特に推奨されます。不動産に関する複雑な権利関係に対応した遺言書の起案が可能です。
弁護士への依頼は20万円から100万円以上と最も高額になりますが、一般的なケースでは20万円から30万円程度です。弁護士は法律のプロとして、相続に関する複雑な法律問題に対応し、相続トラブルの解決や訴訟代理人となることができます。紛争性の高い案件や相続トラブルの可能性がある場合は、弁護士が最適です。
信託銀行の遺言信託サービスは30万円から100万円以上と高額ですが、遺言書作成から保管、相続開始後の遺言執行業務までをサポートします。ただし、担当者の異動リスクや定型的な遺言書になりがちという課題もあります。
専門家選択の際は、相続税対策が必要な場合は税理士との連携も重要です。法律家が作成する遺言書では相続税が考慮されていないことが多いため、大きな資産を持つ場合は税理士への相談も不可欠です。
公正証書遺言の費用を安く抑える方法はありますか?
公正証書遺言の費用を効果的に抑えるには、「状況に応じて発生する費用」を削減することが最も有効な方法です。具体的には3つのポイントがあります。
第一に、証人を自分で用意することです。公正証書遺言の作成には2人以上の証人の立ち会いが必要ですが、公証役場で紹介してもらうと証人1人につき6,000円から1万円程度の日当がかかります。信頼できる友人や知人に証人を依頼できれば、最大で2万円近く費用を抑えることが可能です。ただし、未成年者、推定相続人やその配偶者・直系血族、財産を譲り受ける人やその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族は証人になれないので注意が必要です。
第二に、公証役場に出向くことです。遺言者が病気や高齢などの理由で公証役場に赴けない場合、公証人に自宅や病院などへ出張してもらうことは可能ですが、通常の手数料に50%が加算され、さらに公証人の日当として1日2万円(4時間以内は1万円)と往復の交通費が実費で請求されます。体力や時間に余裕がある場合は、自身で公証役場に出向くことで費用を約1.5倍から通常料金に抑えることができます。
第三に、無料相談を積極的に活用することです。遺言内容の検討や財産の分配に関する相談は、弁護士や行政書士などの専門家が提供する無料相談サービスを活用することで、相談料の負担を軽減できます。多くの専門家が初回相談無料や30分無料相談などのサービスを提供しているため、これらを上手く活用して事前準備を進めることができます。
さらに、必要書類の取得においてもコンビニ交付やオンライン申請を利用することで、手数料を少し抑えることも可能です。また、相続人の数や財産の分配方法を工夫することで、公証人手数料の計算における基準額を意識した効率的な相続計画を立てることも重要です。
自筆証書遺言と比較して公正証書遺言の費用対効果はどうですか?
公正証書遺言と自筆証書遺言の費用対効果を比較すると、初期費用は公正証書遺言の方が高額ですが、長期的な安全性と確実性を考慮すると、公正証書遺言の方が優れた選択肢と言えます。
自筆証書遺言の費用は基本的に0円で、必要書類の取得費用として数千円程度しかかかりません。2020年7月から開始された法務局での保管制度を利用する場合でも、1通につき3,900円の手数料のみです。一方、公正証書遺言は10万円から15万円程度の費用がかかるため、初期コストの差は明確です。
しかし、リスクと手間を考慮すると状況は大きく変わります。自筆証書遺言は形式や記載内容に不備があると無効になる可能性があり、保管制度を利用しない場合は偽造・変造・紛失・破棄のおそれがあります。また、相続開始後には家庭裁判所での検認手続きが必要で、この手続きには数ヶ月の時間と手数料(数千円)、さらに専門家に依頼する場合は追加費用がかかります。
公正証書遺言の大きなメリットは、法律の専門家である公証人が作成するため、遺言書が形式不備によって無効になるリスクが極めて低いことです。遺言書の原本は公証役場に厳重に保管されるため、偽造・変造・紛失のおそれがなく、検認手続きも不要なため、相続開始後の手続きがスムーズに進みます。
費用対効果の観点から見ると、相続財産が高額であったり、相続人間でトラブルが予想される場合、または確実に自分の意思を実現したい場合は、公正証書遺言の方が圧倒的に有利です。10万円程度の追加費用で、法的確実性と家族の安心を得られるなら、十分に価値のある投資と考えられます。
一方、財産が少額で相続関係が単純、かつ費用を最小限に抑えたい場合は、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言も有効な選択肢です。重要なのは、自分の状況と優先順位に応じて適切な形式を選択することです。
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