成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が十分でない方を法的に保護・支援する重要な制度です。高齢化社会が進む中で、この制度の利用を検討する家族が増えていますが、申立て手続きは複雑で、必要な書類や費用について正確な情報を把握することが重要です。2025年現在、申立てから制度開始までの期間は多くの場合4か月以内とされており、適切な準備により円滑な手続きが可能です。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。申立てを行う前に、制度の特徴や手続きの流れ、必要な費用を十分理解し、本人や家族にとって最適な選択をすることが大切です。

Q1: 成年後見人の申立てに必要な書類は何ですか?取得方法と注意点も教えてください
成年後見人の申立てには多くの書類が必要で、大きく分けて5つのカテゴリーに分類されます。
申立書類では、後見開始申立書、申立事情説明書、親族関係図が必要です。これらは家庭裁判所で入手するか、裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。各都道府県の裁判所によって様式が異なるため、申立てを予定している家庭裁判所で確認することが重要です。
本人に関する書類として、戸籍謄本、住民票、登記されていないことの証明書が必要です。戸籍謄本は本人の身分関係を証明するもので、本籍地の市区町村役場で取得できます。費用は窓口や郵送で請求する場合は1通につき450円程度、コンビニ交付では250円程度です。住民票は現住所を証明するもので、居住地の市区町村役場で取得できます。登記されていないことの証明書は、本人が既に成年後見制度を利用していないことを証明するもので、法務局で取得でき、手数料は300円です。
医療関係書類として、医師の診断書及び診断書付票、本人情報シートが必要です。診断書は本人の判断能力について医学的見地から評価したもので、精神科医、神経内科医、老年科医などの専門医による作成が推奨されます。診断書には診断名、重症度レベル、テスト結果、脳萎縮や損傷の有無、回復の可能性などが記載され、費用は病院ごとに異なりますが数千円程度が一般的です。本人情報シートは、本人の生活状況や意思決定能力について、日常的に接している家族や支援者が記入するものです。
財産関係書類として、本人の財産目録及びその資料、相続財産目録及びその資料、本人の収支予定表及びその資料が必要です。財産目録には預貯金、不動産、有価証券、保険、借金などすべての財産を記載し、預貯金については通帳の写し、不動産については登記事項証明書、固定資産評価証明書、有価証券については残高証明書などの資料が必要です。
後見人候補者と親族に関する書類として、後見人候補者事情説明書、後見人候補者の住民票または戸籍の附票、親族の意見書または同意書が必要です。住民票や戸籍の附票は3か月以内に発行されたものを用意し、親族の意見書は親族が後見人候補者や申立てについてどのような意見を持っているかを確認するためのものです。
書類作成時の重要な注意点として、マイナンバーが記載されている場合はマスキングして見えないようにし、有効期限のある書類は申立ての日から3か月以内に発行されたものを提出する必要があります。
Q2: 成年後見人申立ての手続きの流れと期間はどのくらいかかりますか?
成年後見人申立ての手続きは、2025年現在、申立てから制度開始までの期間は多くの場合4か月以内となっており、具体的な流れは以下のようになります。
第1段階:書類準備と申立てでは、まず家庭裁判所で「後見申立手続書類セット」を入手し、必要書類の多くは裁判所のウェブサイトからダウンロードして作成できます。その後、家庭裁判所に申立書および関係書類一式を提出し、申立て手数料、登記手数料、郵便切手代などの費用を納付します。
第2段階:調査・面談では、家庭裁判所の調査官が申立人と後見人候補者に面談調査を行います。この面談では、申立ての動機、本人の生活状況、財産状況、後見人候補者の適格性などについて詳しく聞き取りが行われます。同時に、家庭裁判所が本人の家族などに、事実関係、親族間の紛争の有無、後見人候補者の適格性等を確認する親族調査も実施されます。
第3段階:医学鑑定(必要に応じて)では、家庭裁判所が専門医による医学鑑定を実施する場合があります。鑑定が必要かどうかは、提出された診断書の内容や本人の状況を総合的に判断して決定されます。鑑定が実施される場合、追加で10万円から20万円程度の費用が必要となり、鑑定完了まで1か月程度の期間を要します。
第4段階:審判・選任では、家庭裁判所が審判を行い、成年後見人等が選任されます。審判の内容は申立人、本人、成年後見人等に書面で通知され、審判書が成年後見人等に届いてから2週間以内に不服申立てがされない場合、成年後見等開始審判の法的な効力が確定します。
第5段階:登記・制度開始では、後見等開始の審判の確定後、家庭裁判所が東京法務局に審判内容を登記してもらうように依頼します。成年後見人等は、東京法務局又は東京以外の地方法務局本局で、登記事項証明書を取得することができ、この証明書は審判書が成年後見人等に届いて約1か月経過した後から取得できるようになります。
手続き期間に影響する要因として、医学鑑定の実施有無、親族間の意見対立の程度、財産状況の複雑さ、候補者の適格性の調査などがあります。親族間で意見が分かれている場合や、財産が複雑な場合は、より詳細な調査が必要となり、期間が延びる可能性があります。また、本人の陳述聴取が必要な場合も、追加の時間を要することがあります。
Q3: 成年後見人申立てにかかる費用の内訳と総額はいくらですか?
成年後見人申立てにかかる費用は、基本的な費用と追加費用に分けられ、総額は約1万円から30万円程度の幅があります。
基本的な費用として、申立て手数料は収入印紙800円分が必要で、申立書に貼付して提出します。登記手数料は収入印紙2600円分が必要で、これは後見登記のために必要な費用です。郵便切手代は約4000円程度必要ですが、金額は各家庭裁判所により異なり、東京家庭裁判所では3270円、大阪家庭裁判所では3440円となっています。登記されていないことの証明書の発行手数料として収入印紙300円分が必要で、これは本人が既に成年後見制度を利用していないことを証明するために必要な書類です。
追加で発生する可能性のある費用として、医学鑑定が必要な場合は、鑑定料として10万円から20万円程度の費用を納める必要があります。ただし、鑑定を行う場合は個々の事案によって異なり、ほとんどの場合10万円以下となっています。鑑定が実施されるケースは、提出された診断書の記載が薄い場合、診断書の内容と申立ての趣旨に齟齬がある場合、親族から意見が出ている場合などです。
専門家報酬として、手続きを司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合は、追加で10万円から30万円程度の報酬を見積もっておく必要があります。専門家への報酬は事務所によって異なりますが、申立て手続きの複雑さや財産額に応じて決定されることが一般的です。
書類取得費用も考慮する必要があります。戸籍謄本は1通450円程度(コンビニ交付の場合は250円程度)、住民票は約300円程度、診断書は数千円程度が一般的です。不動産がある場合は、登記事項証明書(1通600円程度)、固定資産評価証明書(1通300円程度)も必要となります。
費用支援制度も利用可能で、経済的に困窮している方には法テラスの民事法律扶助制度があり、資力が乏しい方について弁護士費用等の立替えなどの援助を受けることができます。また、市町村の成年後見制度利用支援事業では、申立てに要する費用や成年後見人等の報酬の全部または一部を助成している自治体があります。社会福祉協議会でも、成年後見制度の利用に関する相談や支援を行っており、市民後見人の養成や紹介も行っています。
最終的な費用負担者は、鑑定に要した費用を含めて、最終的には申立人か本人かのいずれかの負担となります。
Q4: 成年後見人申立てができる人の条件と範囲について教えてください
成年後見人申立てができる人は法律で明確に定められており、限定的な範囲の人のみが申立て権限を有しています。
申立て権限を有する人として、本人による申立ては、判断能力が残っている場合に可能です。軽度の認知症や知的障害の方で、まだ一定の判断能力がある場合には、本人自らが申立てを行うことができます。配偶者による申立ては最も一般的なケースで、夫婦の一方が認知症などになった場合に、もう一方の配偶者が申立てを行います。
4親等内の親族による申立ても可能で、具体的には子ども、孫、ひ孫、親、祖父母、曽祖父母、兄弟姉妹、甥姪、おじおば、いとこまでが含まれます。特に子どもや兄弟姉妹による申立てが多く見られ、遠方に住んでいる場合でも申立て権限を有します。
既に選任されている成年後見人等、任意後見人、任意後見受任者、成年後見監督人等も申立てが可能で、これは制度の見直しや類型変更が必要な場合に活用されます。
区市町村長による申立ては、身寄りがないなど親族による後見等開始の審判の申立てができない場合に行われます。これは成年後見制度利用支援事業の一環として実施されており、高齢者や障害者の権利擁護を図る重要な制度です。地域包括支援センターや社会福祉協議会からの情報提供により、必要性が認められた場合に市町村長が申立てを行います。
検察官による申立ても法律上可能ですが、実際にはほとんど活用されていません。
申立ての条件と注意点として、申立てをする人は本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があります。また、申立て権限を有する人であっても、申立ての動機や必要性について家庭裁判所での審理を受けることになります。
親族間での調整が重要で、複数の親族が申立て権限を有する場合、事前に話し合いを行い、申立人を決定することが望ましいです。親族間で意見が分かれている場合、家庭裁判所が第三者後見人を選任する可能性が高くなります。
申立ての取下げ制限について、一度申立てを行うと、家庭裁判所の許可がなければ取り下げることはできません。そのため、申立て前に親族間で十分話し合い、制度利用の必要性について合意を得ておくことが重要です。
代理申立てについては、申立て権限を有する人が高齢や病気などで自ら手続きができない場合、司法書士や弁護士などの専門家に委任して申立て手続きを行うことも可能です。
Q5: 成年後見人が選任された後の継続費用と報酬はどのくらいですか?
成年後見人が選任された後は、継続的に費用が発生し、その金額は後見人の種類や管理財産額によって大きく異なります。
基本報酬の目安として、家庭裁判所が決定する成年後見人への報酬は、管理財産額によって異なります。管理財産が1000万円以下の場合は月額2万円、1000万円を超え5000万円以下の場合は月額3万円から4万円、5000万円を超える場合は月額5万円から6万円が目安となります。これらの報酬は年額では24万円から72万円程度となり、本人が亡くなるまで継続的に発生します。
親族後見人と専門職後見人の違いとして、家族や親族が成年後見人になる場合は報酬が発生しないことも多くあります。ただし、特別な事情がある場合や、複雑な財産管理を行った場合は、家族後見人にも報酬が認められることがあります。一方、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職後見人の場合は、上記の基本報酬が必ず発生します。
付加報酬の仕組みとして、基本報酬に加えて、身上監護に関する特別な事務を行った場合や、財産管理で特に困難な事務を行った場合は、付加報酬が認められることがあります。例えば、不動産の売却、遺産分割協議への参加、訴訟対応などを行った場合は、基本報酬の50%の範囲内で付加報酬が認められる可能性があります。
後見監督人の報酬として、後見監督人が選任された場合は、後見監督人に対する報酬も別途発生します。後見監督人の報酬は月額1万円から3万円程度が一般的で、年額では12万円から36万円程度となります。後見監督人は、成年後見人の職務を監督する役割を担い、特に親族後見人の場合に選任されることが多くあります。
その他の継続費用として、定期的な報告書作成や家庭裁判所への提出に関する費用が発生する場合があります。また、財産管理のための銀行口座維持費、各種手続きにかかる実費なども本人の財産から支出されます。
報酬の決定プロセスとして、成年後見人は年1回程度、家庭裁判所に対して後見事務報告書とともに報酬付与の申立てを行います。家庭裁判所は、管理財産額、後見事務の内容、困難性などを総合的に判断して報酬額を決定します。
費用軽減のための支援制度として、経済的に困窮している場合は、市町村の成年後見制度利用支援事業により、成年後見人等の報酬の全部または一部を助成している自治体があります。また、社会福祉協議会では市民後見人の養成や紹介を行っており、専門職後見人よりも低額で利用できる場合があります。
長期的な費用計画として、成年後見制度は本人が亡くなるまで継続するため、10年間利用した場合は240万円から720万円程度、20年間では480万円から1440万円程度の報酬が発生する可能性があります。そのため、制度利用前に長期的な費用計画を立てることが重要です。
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