60代に入ると、終活への意識が高まるとともに、具体的な年金受給額を把握して老後生活設計を立てることが極めて重要になってきます。2025年時点では、国民年金の満額支給は月額約6万9千円、厚生年金を含めたモデル世帯では月額約23万3千円となっており、これらの数字を基に現実的な生活プランを構築する必要があります。
60代という年代は、退職を控えるまたは迎えた重要な転換期であり、残りの人生をどのように過ごすかという根本的な問題に直面する時期でもあります。終活は単なる死への準備ではなく、これまでの人生を整理し、これからの時間を有意義に過ごすための準備として捉えることが大切です。
多くの60代の方が抱える不安として、「年金だけで生活できるのか」、「介護が必要になったらどうするか」、「家族に迷惑をかけずに済むのか」といった疑問があります。実際に、高齢夫婦世帯では月額約27万円の生活費が必要とされる一方で、年金収入は約25万円となっており、月々2万円程度の赤字が想定されています。この現実を踏まえ、早めの対策が求められているのです。

2025年最新:60代が知っておくべき年金受給額の現実
国民年金・厚生年金の受給額詳細
2025年度の年金制度では、国民年金(基礎年金)の満額支給額が月額69,308円(年額831,700円)となっています。ただし、1956年4月1日以前にお生まれの方は月額69,108円(年額829,300円)となります。これは前年度から増額されており、3年連続の上昇を記録している点は心強い材料と言えるでしょう。
厚生年金については、2025年度のモデル世帯(会社員の夫と専業主婦の妻の組み合わせ)において、夫が平均標準報酬45.5万円で40年間就業した場合、月額232,784円の支給となります。これは前年度比で4,412円の増額となっており、年金制度の着実な改善が図られていることがわかります。
在職老齢年金制度の2025年変更点
60代の働き方に大きく影響する在職老齢年金制度についても、2025年度から重要な変更が行われています。60歳以降に老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、「老齢厚生年金の月額」と「月給・賞与」の合計額が51万円を超えると年金が減額される仕組みになりました。2024年度の基準額50万円から1万円の引き上げにより、60代での働き方についてより柔軟な選択が可能となっています。
この変更は、60代で継続して働くことを希望する方にとって朗報と言えます。これまで年金減額を懸念して就労を控えていた方も、より積極的に働き続けることができるようになりました。
60代からの年金額増加戦略
継続就労による年金増額効果
60代においても厚生年金は70歳まで加入可能であるため、継続して働くことで年金額を大幅に増加させることが可能です。具体的な試算によると、60歳以降年収300万円で5年間働いた場合、受け取れる年金額は年82,000円増える計算となります。この効果は生涯にわたって継続されるため、老後の生活費確保において極めて重要な要素となります。
任意加入・付加年金の活用
国民年金の任意加入制度を利用することで、60歳以降も保険料を支払い続けることができます。満額に達していない場合、この制度により年金額を増やすことが可能です。
付加年金への加入も効果的な手段です。月額400円という少額の保険料で、将来的に「加入月数×200円」が年金額に加算される仕組みは、非常にコストパフォーマンスの高い投資と言えるでしょう。
年金繰り下げ受給の威力
2022年4月から最大75歳まで繰り下げ受給が可能となり、1ヶ月あたり0.7%が増額されます。例えば、10年間の繰り下げにより、受給額を約153万円に増やすことができるのです。健康状態と家計状況を総合的に判断して、この制度の活用を検討することが重要です。
終活の本質:60代からの人生整理術
なぜ60代が終活のベストタイミングなのか
60代は終活開始のリミットとも言える重要な時期です。体力や判断能力に衰えが出てくる前に、早めの準備を始めることが極めて重要になります。終活とは決して死への準備だけではなく、自分の人生の最終段階について考え、残りの人生をより豊かに過ごすための準備として捉えるべきです。
終活がもたらす3つの大きなメリット
家族の負担軽減は終活の最大のメリットの一つです。突然の病気や事故により意思疎通が困難になった場合でも、事前に準備をしておくことで、家族が混乱することを防げます。
自分の意思の明確化も重要な効果です。延命治療の希望、臓器提供の意思、葬儀の規模や形式など、重要な決定について自分の意思を残しておくことで、家族間でのトラブルを避けることができます。
財産整理と相続対策により、どのような財産があり、どのように分割するかを明確にしておくことで、相続時のトラブルを防ぐことが可能になります。
エンディングノート作成の完全ガイド
エンディングノートの重要性
エンディングノートは終活の代名詞とも言えるほど重要度の高いツールです。法的な強制力はありませんが、家族とのコミュニケーションツールとして非常に有効であり、自分の思いを確実に伝える手段として機能します。
記載すべき7つの重要項目
- 基本情報:名前、住所、生年月日、本籍、血液型などの個人情報
- 契約関係情報:携帯電話の契約内容、運転免許証の有無、各種保険の加入状況
- 医療・介護希望:延命治療や臓器提供の希望、持病やアレルギー、かかりつけ医の情報
- 葬儀・納骨希望:葬儀規模の希望、菩提寺の情報、葬儀に呼んでほしい人のリスト
- 相続財産情報:預貯金の銀行名と口座番号、有価証券の詳細、不動産情報、借金の有無
- 遺言書関連:遺言書の有無、種類、保管場所
- デジタル資産:パソコンやスマートフォンのパスワード、オンラインアカウント情報
遺言書作成:法的効力を持つ意思表示
遺言書の3つの種類と特徴
自筆証書遺言は、全文を自分の手で書き、日付と氏名を記入し、押印する必要があります。費用がかからず、内容を秘密にできるメリットがありますが、形式に不備があると無効になる可能性があります。
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言書で、2人以上の証人の立会いが必要です。法的確実性が高く、紛失の心配がないメリットがありますが、費用と証人が必要というデメリットがあります。
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にしながら、遺言書の存在を証明できる方式ですが、手続きが複雑で、あまり利用されていません。
老後資金の現実:必要額と確保戦略
老後生活費の詳細分析
2025年のデータに基づくと、65歳以上の高齢夫婦世帯では月額約268,508円(消費支出236,696円+非消費支出31,812円)が必要とされています。一方、単身世帯では月額約155,495円となっています。
実収入は夫婦世帯で246,237円、単身世帯で134,915円となっており、月々の収支は夫婦で約22,271円、単身で約20,580円のマイナスとなっています。
「老後2,000万円問題」の実態
この収支のマイナス分から計算される「老後2,000万円問題」は、高齢者夫婦世帯において収支が月々約5万円のマイナスとなることから、25年間で約1,300万円、30年間で約2,000万円の不足が想定される問題です。
しかし、ゆとりある老後を送るためには、さらに多くの資金が必要です。生命保険文化センターの調査によると、ゆとりある老後に必要な生活費は月額約379,000円で、最低日常生活費232,000円に対してプラス約147,000円が必要とされています。
医療・介護費用の準備
医療費については、75歳以上の後期高齢者医療制度では、一般所得者は1割負担、一定以上の所得がある人は2割負担(2022年10月から)、現役並み所得者は3割負担となります。
介護費用については、世帯主または配偶者が要介護状態となった場合の公的介護保険の範囲外費用として、平均172,000円が必要とされています。有料老人ホームの場合、入居一時金は数百万円から1億円以上、月額利用料も施設によって大きく異なります。
資産管理と投資戦略
60代の平均資産状況
現在の60代世帯の平均貯蓄額は1,745万円、中央値は875万円となっています。この数字から、多くの世帯が老後資金に不安を抱えていることがわかります。
iDeCo・NISAの活用
iDeCo(イデコ)やNISA(ニーサ)の活用は、税制上の優遇を受けながら老後資金を積み立てる有効な手段です。60代では運用期間が限られるため、リスクを抑えた運用を心がけることが重要です。
支出見直しによる資金確保
現在の支出を見直し、不要な支出を削減することで、月数万円の節約が可能な場合があります。特に保険料、通信費、娯楽費などは見直しの余地があることが多く、効果的な節約策となります。
住居の見直しとダウンサイジング戦略
ダウンサイジングのメリット
50代から60代の住み替えでは、夫婦だけ、一人暮らしで住むことを考えてコンパクトなマンションへ移るダウンサイジングが多く見られます。
住居費の削減効果は大きく、都心から郊外に移り住めば、売却したお金の一部を老後資金としてストックできる可能性があります。維持管理の負担軽減により、清掃や修繕にかかる時間と費用を削減できます。
バリアフリー住宅の重要性
加齢に伴う身体機能の低下を考慮すると、バリアフリー対応の住居選択は重要です。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、バリアフリー構造になっており、見守りサービスなどが付いて、必要に応じて介護サービスを受けられます。
健康管理とセカンドライフの充実
健康寿命を延ばす生活習慣
60代からのセカンドライフにおいて、健康管理は最も重要な要素です。厚生労働省は、高齢者の健康づくりについて、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動を週3回以上行うことを推奨しています。
ウォーキングや水泳、軽いジョギングなどの有酸素運動に加えて、筋力を維持するための軽い筋力トレーニングを組み合わせることが理想的です。
生きがいを見つける重要性
60・70代で生きがいを感じている人は7割を超えているという調査結果があります。生きがいを感じる時として、以下のような場面が上位に挙げられます:
- 「趣味やスポーツに熱中している時」
- 「孫など家族との団らんの時」
- 「友人や知人と食事、雑談している時」
- 「おいしい物を食べている時」
60代から始める趣味と社会参加
身体活動系の趣味
ウォーキングや登山、釣りなどが人気です。特にウォーキングは手軽に始められ、継続しやすい運動として多くの方に愛されています。最近注目を集めているのがサーフィンで、海との一体感や自然の力を感じられるスポーツとして、60代から始める方も増えています。
ヨガも60歳を過ぎてから始める方が多い活動の一つです。柔軟性の向上や精神的なリラックス効果が期待でき、体力に合わせて無理なく続けられる点が魅力です。
創作・学習系の趣味
カフェミナージュが60代、70代からでも気軽に始められる習い事として注目を集めています。手先を使う作業は脳の活性化にも効果的です。
ジオラマ制作も人気が高まっています。細かい作業に集中することで、時間を忘れて没頭できる楽しみがあります。最近では、作品をSNSで発信して他の愛好者との交流を楽しむ方も多くなっています。
社会参加と資格取得
ボランティア活動は、人の役に立つことにやりがいを感じる方にとって非常に意義深い活動です。地域の清掃活動、高齢者施設での支援、子どもたちへの読み聞かせなど、多様な分野でボランティアの機会があります。
資格取得にチャレンジする方も増えています。アクティブシニアに人気の資格として、行政書士、司法書士、税理士、社会保険労務士などが挙げられます。
相続対策と税務対策
相続税の基本知識
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となっており、これを超える財産がある場合は相続税の対象となります。
生前贈与の活用
年間110万円までの贈与は贈与税がかからないため、計画的な贈与を行うことで税負担を軽減できます。また、相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円まで贈与税をかけずに財産を移転することも可能です。
デジタル資産の整理
現代の終活における重要課題
現代の終活において見落とされがちなのが、デジタル資産の整理です。パソコンやスマートフォンに保存されている写真や動画、各種アカウントの情報、オンラインバンキングの情報などを整理しておく必要があります。
パスワードの管理方法について家族と共有し、必要な場合にアクセスできるよう準備しておくことが重要です。
地方移住という選択肢
地方移住のメリット・デメリット
都市部での生活費の高さや環境の問題から、地方移住を検討する60代の方も増えています。
メリットとして、生活費の削減効果、自然豊かな環境での生活、地域コミュニティとのつながりがあります。
デメリットとして、医療機関の選択肢が限られる可能性、交通の便の問題、家族や友人との物理的距離などがあります。
地方移住を成功させるためには、事前の十分な準備と下見が重要です。お試し居住制度を活用して、実際にその地域での生活を体験してみることをお勧めします。
家族とのコミュニケーション
終活における最重要要素
終活において最も重要な要素の一つが、家族とのコミュニケーションです。自分の意思や希望を家族に伝え、理解してもらうことで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
定期的な家族会議を開催し、終活の進捗状況や自分の意思について話し合うことをお勧めします。特に相続に関しては、早い段階から家族全員で話し合いを行い、透明性を保つことが重要です。
終活の具体的手順とチェックリスト
60代での終活が最重要な理由
60代は気力・判断力があるうちに終活を完成させる最後のチャンスと言えます。人によっては体力が低下し「思うように体が動かない」と感じる機会が多くなる前に、エンディングノートや遺言書を確実に完成させることが重要です。
エンディングノート作成の詳細チェックリスト
基本情報の記載項目として以下が必要です:
- 名前:フルネームを漢字と読み仮名で明記
- 生年月日:西暦で記載し、年齢も併記
- 住所:現在の正確な住所
- 連絡先:固定電話、携帯電話、メールアドレス
- 家族構成:配偶者や子供、兄弟姉妹の名前と連絡先
財産・資産関係の詳細記録では:
- 生命保険:保険名、保険会社名、連絡先、契約者名、被保険者名、保険金受取人
- 借入金・ローン:借入先、借入額、借入残高、毎月の返済額、返済方法
- 金融口座:銀行名、支店名、口座番号、通帳・印鑑の保管場所
医療・介護に関する希望の明確化:
- 病名告知:病名も余命も告知希望、病名のみ告知希望、告知不要のいずれかを明記
- 延命治療:延命治療の希望有無、尊厳死宣言書や事前指示書の有無
- 臓器提供:臓器提供の意思表示
見落としがちな重要事項
公共料金や各種サービスの自動引き落としについて、詳細な記録が必要です。本人が亡くなると口座は凍結され、引き落としができなくなります。特にサブスクリプションサービスは自動更新の場合、解約手続きを行わなければ料金の引き落としが継続される可能性があります。
デジタル関連の整理も重要で、パソコンやスマートフォンのパスワード、クラウドサービスのアカウント情報、SNSアカウントの処理方針なども明記しておく必要があります。
2025年の年金制度最新情報
実際の年金受給額の現実
2025年度の制度上の満額と、実際の平均受給額には大きな差があることを理解しておく必要があります。実際の受給額の平均は、国民年金が57,584円、厚生年金(国民年金含む)が146,429円となっており、制度上の満額より大幅に少ないのが現実です。
厚生年金の具体的計算方法
老齢厚生年金の金額は、おおよそ「平均年収÷12×0.005481×加入月数」という式で計算できます。例えば、平均年収400万円で40年間加入した場合、年額約876,960円となり、国民年金と合わせると年金額の合計は1,708,660円になります。
高年齢雇用継続基本給付金の2025年変更点
2025年度から高年齢雇用継続基本給付金の支給率が引き下げられており、60歳時点の給与が64%以下になった場合は、60歳以降の賃金の10%の給付金が支給される仕組みに変更されています。
60代の就業状況の劇的変化
就業率の大幅上昇
男性の60代前半(60~64歳)の就業率は、2012年の71.3%から2022年には83.9%へ大幅に上昇しています。さらに60代後半(65~69歳)においても、46.9%から61.0%へと大幅な上昇を見せており、60代での働き方が一昔前とは大きく様変わりしていることがわかります。
働き続ける具体的メリット
「できる範囲で、なるべく長く働くこと」が老後資金確保の最も確実な方法です。厚生年金に再加入して働き続けることで、年金受給額を着実に増やすことができ、同時に毎月の生活費も確保できるため、二重のメリットがあります。
60代の資産状況と二極化現象
貯蓄額の現実と格差
60代の平均貯蓄額は1,819万円となっていますが、この数字の背後には深刻な資産格差が存在します。資産のある世帯とない世帯の二極化が進んでおり、平均値だけでは実態を把握できない状況となっています。
この現実を踏まえ、個人の具体的な状況に応じて最適な終活・老後生活設計を立てることが極めて重要になっています。
終活を成功させるための心構え
段階的アプローチの重要性
エンディングノートの作成においては、「どの項目からでもいいので、書けるところから埋めていく」ことが重要です。一度に全部書かなくても良いし、自分にとって必要のない項目は空白のままでも構いません。
完璧を求めすぎず、継続的に見直しを行いながら、少しずつ充実させていくアプローチが成功の鍵となります。
エンディングノートと遺言書の使い分け
エンディングノートは気軽に作成できる点が特徴ですが、法的拘束力はありません。特に遺産相続について法的効力を持たせたい場合は、別途遺言書の作成が必要であることを理解しておきましょう。
60代は体力や判断力がまだ十分にある最後の時期として、エンディングノートの作成と合わせて具体的な終活を確実に進めることが重要な年代なのです。









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