伊勢市の終活情報登録事業は8月1日開始、対象は65歳以上

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三重県伊勢市では、高齢者が終活の情報をあらかじめ市に登録しておける制度が、2026年8月1日から始まりました。伊勢市終活情報登録事業と呼ばれるこの取り組みは、65歳以上でエンディングノートを記入済みの市民を対象に、緊急連絡先や遺言書の保管場所などを無料で預かり、本人が倒れた際に医療機関や消防、警察へ伝える仕組みです。病気や事故で本人が意思を伝えられなくなったとき、家族や関係機関が判断に迷う場面は珍しくありません。伊勢市はこれまでも独自のエンディングノートを配布してきましたが、今回はそこに登録という一手間を加え、書いた情報を実際に使える状態にしようとしています。制度の内容と、全国で広がりつつある同種の取り組みとの関係を整理します。

目次

伊勢市の終活情報登録事業は8月1日に受け付けを開始

伊勢市終活情報登録事業は、2026年8月1日から伊勢市福祉総合支援センター「よりそい」で受け付けが始まりました。対象は伊勢市に住民登録がある65歳以上の人のうち、市が配布するエンディングノート「思いライフケアノート」と「思いライフデザインノート」の両方を所持する人です。利用料金はかかりません。登録できる情報は、両ノートの保管場所、緊急連絡先、遺言書の作成の有無と保管場所などで、登録が済むと携帯用カードと自宅貼付用シートが交付されます。情報の開示先は医療機関、消防、警察、そして登録者があらかじめ指定した人に限られており、誰でも自由に照会できるわけではありません。

項目内容
開始日2026年8月1日
対象伊勢市在住の65歳以上でノート2冊を所持する人
利用料金無料
窓口伊勢市福祉総合支援センター「よりそい」
交付物携帯用カード、自宅貼付用シート

対象は65歳以上で二冊のノートを持つ市民に限定

この事業の対象は、伊勢市が配布する「思いライフケアノート」と「思いライフデザインノート」を両方とも持っている65歳以上の市民に絞られています。片方だけでは登録できません。市はこれまでもこの2冊のノートの普及を進めてきており、まずノートに記入して終活の入り口に立ってもらうことを前提にしているとみられます。登録したいという理由だけで窓口に来ても、ノートを持っていなければその場ではノート提供と記入案内から始まる流れになるでしょう。手続きに一定の準備期間が必要になる点は、利用を検討する人が押さえておきたいところです。

登録できる情報は緊急連絡先と遺言書の保管場所

登録の中心になるのは、ノートの保管場所、緊急連絡先、そして遺言書の作成の有無と保管場所です。ノートそのものを市が預かるのではなく、「どこにあるか」という所在情報を預かる点がこの制度の要になっています。遺言書を作成していても、その存在を家族が知らなければ相続の場面で活用されずに終わってしまうことがあります。登録によって遺言書の有無と保管場所を家族や関係者があらかじめ把握できるようになれば、こうした行き違いを防ぎやすくなります。

携帯用カードと自宅貼付シートで救急隊にすぐ伝わる

登録者に交付される携帯用カードと自宅貼付用シートは、この制度の実効性を支える道具です。カードを財布や手帳に入れておけば、外出先で倒れた場合でも救急隊が「登録者である」とその場で把握でき、市への照会につなげられます。自宅に貼るシートも同様に、自宅で倒れた際に駆けつけた家族や救急隊がすぐ気づける工夫です。書いただけのノートは、誰かがその存在に気づかなければ意味を持ちません。カードとシートは、その気づきを生む仕掛けだといえます。

思いライフケアノートと思いライフデザインノートに書く内容

伊勢市が配布する2冊のノートには、終末期医療・ケアの希望、銀行口座などの資産情報、認知症になった場合の財産管理に関する希望、葬儀や墓についての希望、ペットの引き取りや世話に関する希望といった項目が用意されています。名称から考えると、ケアノートは医療・介護に関する意思表示を、デザインノートは財産や葬儀など人生の締めくくり方全般に関する意思表示を担う構成になっているとみられます。

ペットの引き取り先を記す欄も用意されている

ノートに「ペットについて」の項目がある点は見逃せません。全国では高齢者のみで犬や猫を飼っている世帯が258万世帯にのぼるとされ、飼い主が孤独死したり入院・入所を余儀なくされたりした場合に、残されたペットの世話が社会問題化しています。飼い主の孤独死から時間が経ってからペットが親族や大家に発見され、保護団体が対応にあたるケースも報告されています。引き取り先や世話の希望をあらかじめ書いておくことは、取り残されるペットを防ぐ観点からも意味を持ちます。

ノートを書くだけでは伝わらない、登録制度が必要な理由

エンディングノート自体はすでに広く普及しており、市販のノートを含めれば自治体の配布を待たずに入手できます。それでも、ノートの保管場所を家族が把握していない、本人が倒れた際に誰がノートを持っているか救急隊や病院が分からない、独居高齢者の場合はそもそも緊急連絡先を確認する手段がない、遺言書の有無自体が家族に伝わっていないといった課題は残ります。書くことと、使える状態にしておくことのあいだには大きな溝があります。伊勢市の登録制度は、ノートの現物ではなく所在や緊急連絡先、遺言書の有無・保管場所という要点情報を行政が預かることで、この溝を埋めようとする仕組みです。

窓口は福祉総合支援センターよりそい、電話0596-21-5583

登録の申請手続きや情報の保管は、伊勢市福祉総合支援センター「よりそい」が窓口です。同センターの副参事である田代友紀恵さんは、今回の制度について「この事業を通じて、自分らしく生きていくための生前準備をしていただきたい」とコメントしています。狙いは緊急連絡先の登録にとどまらず、高齢者本人が人生の終わり方について主体的に考える生前準備を後押しすることにあります。福祉総合支援センターよりそいは、主任ケアマネジャーや社会福祉士、保健師、看護師などが中心となり、高齢者の自立した生活を支える総合相談窓口としての役割も担っています。虐待防止や消費者被害の防止、成年後見制度の利用支援、認知症サポーター養成講座の開催なども業務に含まれており、地域包括支援センターとも連携しながら高齢者を多角的に支える体制を敷いています。問い合わせ先は同センター、電話0596-21-5583です。

先駆けは横須賀市、全国15自治体に広がる終活情報登録

自治体が高齢者の終活情報を預かり、緊急時に開示する制度は、近年全国の自治体に広がっている取り組みの一つです。先駆けとなったのは神奈川県横須賀市で、2018年5月に「終活情報登録伝達事業」、通称「わたしの終活登録」を始めました。緊急連絡先やかかりつけ医、ノートや遺言書の保管場所、生前契約した葬祭事業者・身元保証事業者の名称、墓の場所などを本人の意志で登録し、警察や救急、病院、福祉事務所から問い合わせがあれば市が代わって伝える仕組みです。横須賀市はさらに、資産が少なく頼れる親族もいない高齢市民を対象にした「エンディングプラン・サポート事業」も展開しており、内閣府の令和6年版高齢社会白書でも市民の尊厳を守る取り組みとして紹介されています。日本総研などの分析によれば、こうした事業は2018年の横須賀市を皮切りに広がり、2026年現在では15の自治体が実施しているとみられ、2023年以降に始める自治体が増えています。もっとも登録者数には課題があり、最も歴史の長い横須賀市でも約1000人にとどまり、他の自治体の多くは数人から数十人程度です。相談には訪れても登録には至らない高齢者が多いのが実情だとされます。2026年1月には愛媛県今治市が「終活サポート事業」を本格稼働させ、情報の登録に加えて出張講座を通じた取り組みにも力を入れています。

自治体開始時期登録者数の目安
横須賀市2018年5月約1000人
今治市2026年1月本格稼働記載なし
伊勢市2026年8月1日開始直後のため未集計

登録した情報を確実に使うには関係機関との連携が鍵になる

こうした先行事例に共通するのは、単身世帯や身寄りのない高齢者が緊急搬送された際に、本人の意思や必要な情報が医療現場に伝わらず、延命治療の方針決定や身元確認が難しくなるという課題への対応です。総務省消防庁の統計でも、救急搬送時に本人の身元や既往歴、緊急連絡先を確認できないケースが一定数報告されており、一人暮らし高齢者の増加に伴って「情報の空白」が全国的な課題として認識されるようになっています。個人情報保護法上の「個人情報」は生存する個人に関する情報を対象としており、本人の死後についてはこの法律の直接の保護対象から外れます。そのため、死後の情報の扱いをどう統一的なルールで管理するかは、自治体ごとに運用基準の整備が求められる分野です。実際の運用面でも、登録後に本人が亡くなった際、医療機関や警察からの照会がないまま時間が経ち、住民票の異動処理などを通じて自治体側が死亡の事実を後から把握するケースが報告されています。登録した情報がいざというときに確実に活用されるかという実効性は、各地の制度に共通する課題であり、伊勢市においても制度の周知や関係機関との連携体制の整備が、今後の運用を左右する重要な要素になるとみられます。

三重県内では四日市市が先行、伊勢市は複数自治体に続く

三重県内で終活情報登録事業を行うのは、伊勢市が最初ではありません。四日市市が県内で先に事業を始めており、65歳以上で身寄りのない市民などを対象に、緊急連絡先や葬儀の希望などを生前に登録できる仕組みを設けています。四日市市高齢福祉課の窓口では、ケースワーカーの経験を持つ職員が相談に応じながら、緊急連絡先や本籍、重要書類・遺言書の保管場所に加え、墓の所在や葬儀の生前契約内容などを記入できるといいます。厚生労働省がまとめた地域包括ケアシステムの構築に関する事例集でも、三重県内では四日市市、伊勢市、桑名市、鈴鹿市、いなべ市、菰野町、玉城町など複数の自治体が、高齢化社会に対応した地域包括ケアの取り組みを進める自治体として紹介されています。伊勢市の事業は、こうした県内自治体の先行的な取り組みと軌を一にするものです。

伊勢市の高齢化率は31.5%で三重県平均を4.3ポイント上回る

伊勢市は三重県南部に位置し、伊勢神宮の門前町として知られる都市ですが、他の地方都市と同様に人口減少と高齢化が進んでいます。三重県の統計資料によれば、伊勢市の高齢化率は令和元年10月1日時点で31.5%に達しており、三重県全体の27.2%を4.3ポイント上回ります。内閣府の令和7年版高齢社会白書によれば、日本全体の高齢化率は29.3%で、伊勢市の31.5%はこの全国平均も上回る水準です。単身高齢者世帯や高齢者のみの世帯も、増加傾向にあるとみられます。

地域高齢化率
伊勢市(令和元年10月1日時点)31.5%
三重県全体27.2%
全国(令和7年版高齢社会白書)29.3%

一人暮らし高齢者は2050年に男女とも3割前後まで増加

全国的には、高齢化と単身世帯化が同時に進んでいます。65歳以上で一人暮らしをしている人の割合は、1980年時点では男性4.3%、女性11.2%でしたが、2020年には男性15.0%、女性22.1%まで上昇しました。2050年には男性26.1%、女性29.3%に達すると推計されています。2024年の調査では、高齢者のいる世帯のうち単身世帯が占める割合はすでに32.7%、およそ3世帯に1世帯が高齢者の一人暮らし世帯という状況です。

男性の一人暮らし率女性の一人暮らし率
1980年4.3%11.2%
2020年15.0%22.1%
2050年(推計)26.1%29.3%

こうした流れを踏まえると、高齢化率が県平均・全国平均を上回る伊勢市では、緊急時に本人の意思や連絡先を把握できないリスクが顕在化しやすいといえます。伊勢市はこれまでも地域包括支援センターや福祉総合支援センターよりそいを中心に、高齢者の見守りや相談支援に力を入れてきました。今回の登録制度は、個別に行われてきたノートの配布・記入支援と、緊急時の情報伝達を制度としてつなぎ合わせるものです。

エンディングノートと遺言書の違いは法的効力の有無

エンディングノートは、人生の終末期を迎えるにあたっての希望や考えをまとめて書き記しておくノートを指します。医療や介護に関する希望、葬儀の形式、財産の分配に関する考え方を自分の言葉で残すことで、要望を明確にし、残される家族に伝えられます。作成する過程で資産状況や交友関係、加入している保険などを整理できる副次的なメリットもあります。もっとも、エンディングノートに記載した内容に法的拘束力はありません。財産の分配方法を確実に実現したい場合は、別途、公正証書遺言などの法的な手続きが必要です。伊勢市が配布する2冊のノートも、本人の意思を整理し家族や関係者に伝えるためのツールであり、法的な効力を持つ遺言書とは性質が異なります。今回の登録制度は、この「意思を伝える」役割を、行政の関与によって確かなものにしようとする取り組みだと理解すると分かりやすいでしょう。

人生会議ことACPの考え方を地域で実践する取り組み

救急搬送された際、本人が意思表示できない状態でも、終末期医療に関する希望が事前に登録されていれば、医療機関は本人の意思を尊重した治療方針を検討しやすくなります。厚生労働省は「人生会議」という愛称で、アドバンス・ケア・プランニング、略してACPの普及を進めています。ACPとは、将来の判断能力の低下に備え、本人を中心に家族や医療・ケアチームが繰り返し話し合いを重ね、本人の意思決定を支える取り組みです。厚生労働省は2015年、「終末期医療」という言葉を「人生の最終段階における医療」に改め、最期までその人らしい生き方を尊重する医療・ケアの重要性を強調しました。伊勢市のノートに終末期医療の希望を書き、それを登録制度で関係機関に伝わる形にしておくことは、ACPの考え方を地域レベルで実践する取り組みの一つと位置づけられます。本人の意思が不明なまま延命治療の可否や葬儀の方針を家族だけで決めなければならない状況は、大きな精神的負担を伴います。事前登録によって「本人はこう望んでいた」という拠り所が得られることは、家族にとって支えになるはずです。

制度を使う前にノート記入という準備期間が必要

この制度を利用するには、まず「思いライフケアノート」と「思いライフデザインノート」の両方を所持していることが条件になります。まだノートを持っていない人は、市からノートの提供を受け、記入を済ませる必要があります。終末期医療や財産管理、葬儀・お墓、ペットのことなど、これまで向き合ってこなかった事柄を考える時間が要るため、利用開始までにはある程度の準備期間を見込んでおきたいところです。登録した情報は、状況が変わるたびに更新することが望ましく、緊急連絡先が変わった場合や遺言書を新たに作成・変更した場合は、速やかに窓口へ連絡して内容を最新に保つ必要があります。情報が古いままでは、いざというときに正確な内容が伝わらず、制度本来の目的を果たせません。

財産管理や相続に法的な効力を確実に持たせたい場合は、公正証書遺言の作成や成年後見制度・任意後見制度の利用など、別途の法的手続きも検討の対象になります。成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。法定後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などですでに判断能力が不十分になった人を対象に、家庭裁判所が選んだ後見人が財産管理や身上保護を代わりに行う制度です。任意後見制度は、本人の判断能力があるうちに将来に備えて信頼できる人を後見人として選び、あらかじめ契約を結んでおく制度で、後見人を自由に選べる点や委任する権限の範囲を必要に応じて限定・拡張できる点に特徴があります。法定後見制度では自宅など居住用不動産の売却や賃貸借の解除に家庭裁判所の許可が必要になるのに対し、任意後見制度ではその許可が不要です。ノートに認知症になったときの財産管理について希望を書く際は、こうした制度の違いも踏まえたうえで、必要であれば司法書士や弁護士に相談し、任意後見契約の締結など具体的な手続きにつなげることも選択肢になります。

伊勢市の終活情報登録事業は、こうした法的手続きを補完し、本人の意思を関係者に伝えやすくするための仕組みです。子どもが遠方に住んでいる場合や身寄りがない場合、行政が仲介役を担ってくれることの意味は小さくありません。すでに横須賀市など先行事例がある分野だけに、伊勢市の事業が根づけば、三重県内や近隣自治体に同様の制度が広がっていく可能性も考えられます。伊勢市に該当する家族や知人がいる場合は、8月1日の制度開始を機に、ノートの記入や登録について福祉総合支援センターよりそい、電話0596-21-5583に問い合わせてみてはどうでしょうか。

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