運転免許の自主返納は、タイミングの判断基準を6つに整理

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運転免許をいつ返納するべきかという問いに、年齢だけで答えを出すことはできません。判断の軸になるのは、日々の運転で感じるヒヤリとした場面が増えているかどうかと、車がなくても暮らしを回せる代替の移動手段があるかどうかです。長野県東御市では2026年6月28日に「運転の続け方・やめ方講座」が開かれ、講師を務めた自動車学校指導員の宮下卓也さんが、返納を一度に決める話ではなく段階的に進める考え方として紹介しました。ここでは、その講座の内容をもとに、自主返納のタイミングを考えるための具体的な判断基準を整理します。運転に不安を感じ始めた本人だけでなく、家族の運転を心配している人にとっても、判断の手がかりになる内容です。

目次

長野県東御市の「運転終活」講座は返納を段階的なプロセスと位置づけた

長野県東御市で2026年6月28日に開かれた「運転の続け方・やめ方講座」は、免許の返納を一度に決める話ではなく、自分の運転を見つめ直しながら段階的に運転の機会を減らしていく「運転終活」として位置づけました。講師を務めたのは、上田市の真田自動車学校で指導員をしている宮下卓也さん(38)です。宮下さんはもともと、事故でけがをした人の運転支援リハビリを担う認定理学療法士として働いていましたが、4年前に運転に特化した支援をしたいという思いから自動車学校の指導員に転職したという経歴を持っています。

講座に集まったのは、運転に不安を抱える高齢者やその家族でした。「終活」という言葉が持つ、まとめて一気に片づけるというイメージとは違い、宮下さんの言う「運転終活」は、緩やかなプロセスを指します。宮下さんは講座で「みんな同じ解決策はなかったとしても、一人一人考えることで、私らしい運転の続け方、やめ方につながっていく」と話しており、自主返納のタイミングに一律の基準を当てはめるのではなく、個々の状況に応じて考える姿勢を呼びかけました。

長野県内の事故のうち高齢ドライバーが31.1%を占める

長野県警によると、2025年の1年間に県内で発生した高齢ドライバーによる事故は1392件で、全体の31.1%を占めました。この事故で亡くなった人は20人にのぼり、県内の交通事故死者全体のほぼ半数を占めています。宮下さんはこの状況について、身体機能の変化という観点から「反射神経は確実に20代の頃より衰えている。目の力も衰えている。20代の頃と同じ感覚の走りをしていると、ヒヤっとすることが増えていてもおかしくない」と説明しています。加齢による反射神経や視力の低下は誰にでも起こりうる自然な変化であり、それ自体は珍しいことではありません。問題は、その変化を運転者本人が正確に自覚できていないケースが多い点にあります。

75歳以上の免許保有率は6割近くに対し返納は7132人にとどまる

長野県警のデータによれば、県内の75歳以上の高齢者で運転免許を保有している人は22万人にのぼり、人口比でみると6割近くがまだ免許を保有しています。一方、2025年の1年間に免許を返納した高齢者は7132人にとどまりました。車が生活の足として機能している地域では、返納の判断がどうしても難しくなり、返納が進みにくいというのが現状です。

この傾向は長野県だけの話ではありません。全国でみても、2025年の運転免許証の自主返納件数は43万5067件で、2年連続の増加となりました。このうち75歳以上の返納は26万915件で、全体の約6割を占めます。ただし、警察庁によれば75歳以上の免許保有者は2025年末時点で835万427人にのぼっており、返納件数はその一部にとどまっています。2019年には高齢ドライバーによる重大事故が相次いだことをきっかけに、過去最多となる60万1022件の返納がありました。事故報道が相次ぐと返納が増え、時間が経つと落ち着くという傾向は、返納の判断が本人の納得だけでなく社会的な空気にも影響されやすいことを表しています。

運転終活は「自己認識」と「運転の自粛」という2段階で進める

講座で宮下さんが呼びかけたのは、大きく2つのステップです。

第一のステップは、自分の運転を正しく認識することです。運転歴が長い人ほど、今まで大丈夫だったから今後も大丈夫という感覚に頼りがちになります。しかし衰えは年齢とともに確実に生じるものであり、日々の運転行動を振り返り、自分の運転を客観的に見つめ直す機会を持つことが重要だと宮下さんは指摘します。

第二のステップは、運転を自粛することです。ここで強調されているのは、免許をすぐに返納するのではなく、段階的に運転の機会を減らしていくという考え方です。市街地や交通量の多い道を避けて運転しやすい道を選ぶこと、運転する時間帯を制限すること、目的地を限定することなどが工夫として挙げられます。

宮下さんはこの2ステップを繰り返す意義について、「運転を急にやめてしまうと、認知症になりやすくなったり、要介護度がつきやすくなったりする。一気に返納することはリスクがあるので、段階的に運転の機会を減らしてほしい。この2ステップを繰り返すと、安全運転寿命の延伸につながる可能性がある」と説明しています。免許の返納をゼロか百かの判断ではなく、グラデーションのある移行プロセスとしてとらえる視点は、返納のタイミングに悩む人にとって重要な指針になります。

判断基準1:内閣府の運転行動チェックリストで自分の運転を振り返る

自分の運転を正しく認識するための具体的な手段として、内閣府は高齢運転者向けの運転行動チェックリストを作成し、公開しています。これは、ここ半年程度の自身の運転状況について、該当する設問に丸をつけていく簡単な形式のもので、丸をつけた項目についてはアドバイスシートを参考にしながら、自分の運転能力を見直せる仕組みになっています。

チェックリストに含まれる代表的な項目には、右左折時に周囲の歩行者や自転車に気づかずヒヤリとしたことがあったか、車間距離が思ったように維持できないか、以前と比べて車庫入れに時間がかかるようになったか、といった内容が並びます。このほかにも、信号や標識の見落とし、アクセルとブレーキの踏み間違いへの不安、夜間運転時の見えにくさ、方向指示や確認、ハンドル操作を同時に行うことへの負担感など、日常の運転で誰もが感じうる小さな変化を可視化する設問が用意されています。自宅で数分あれば取り組める手軽さも、このチェックリストが自己認識のきっかけとして使いやすい理由の一つです。

大切なのは、これが合格・不合格を判定するテストではなく、自分自身の状態を振り返るためのセルフチェックである点です。丸がついた項目が多いからといって、すぐに運転をやめる必要はありません。ただし複数の項目に心当たりがある場合は、運転の頻度や範囲を見直すきっかけとして活用できます。免許保有者本人だけでなく、同乗する家族が一緒に確認することも有効です。本人が自覚しにくい変化に、日頃車に同乗する家族の方が先に気づいているケースは少なくありません。危ないと感じた場面を具体的に共有することが、本人の自己認識を後押しする材料になります。

判断基準2:走る道・時間帯・目的・頻度を4段階で絞り込む

段階的な運転自粛を実践する際は、4つの段階を意識すると取り組みやすくなります。

第一段階は、走る道を選ぶことです。交通量の多い幹線道路や、右折レーンが複雑な交差点、見通しの悪い住宅街の抜け道などを避け、走行に慣れた道や信号の少ない単純な道を優先します。

第二段階は、走る時間帯を選ぶことです。夕方から夜間にかけては視認性が下がり、通勤・通学時間帯は交通量が増えるため、日中の比較的空いている時間帯に運転を限定するという工夫が考えられます。悪天候時や雪道、路面が凍結する時期の運転を控えることも同じ考え方に含まれます。

第三段階は、走る目的を選ぶことです。買い物や通院など日常生活に必要な移動に運転の目的を絞り、遠出や長距離の運転、高速道路の利用は控えます。

第四段階は、運転する頻度そのものを減らすことです。毎日の運転を週に数回、さらには特定の用事があるときだけに減らしていくことで、運転をやめた後の生活を事前にシミュレーションできます。

こうして段階を分けて運転を減らしていくと、急に車を取り上げられるという感覚を避けながら、無理のないペースで生活を移行させられます。これは返納のタイミングを先延ばしにするための言い訳ではなく、返納後の生活へ心身を慣らすための準備期間としての意味を持ちます。

サポカー限定免許は2022年5月から運転継続の選択肢に加わった

自主返納以外にも、運転を続けながらリスクを下げる制度上の選択肢があります。その一つがサポカー限定免許です。これは従来の運転免許証に「普通車はサポカーに限る」という限定条件を追加するもので、2022年5月13日以降、運転免許センターなどで切り替えの申請ができるようになりました。

この免許で運転できる車両は、2020年度以降に製造され国土交通省から自動ブレーキとペダル踏み間違い時の加速抑制装置の両方について性能認定を受けた車、または2021年11月以降に国産車への搭載が義務付けられた衝突被害軽減ブレーキを備えた車に限られます。踏み間違いや発見の遅れによる事故のリスクを、車両側の安全装備によって補う仕組みだといえます。

また、過去3年間に交通違反歴がある75歳以上の運転者を対象に、自動車教習所で実技課題を受ける運転技能検査という制度もあります。これらは、免許をすぐに返納するか何も変えずに運転を続けるかという二択ではなく、その中間に位置する選択肢として判断基準の一つに加えられます。運転を続けながらリスクを下げる制度を表に整理すると、次のようになります。

制度名対象内容
サポカー限定免許申請すれば誰でも切り替え可能運転できる車両を安全装備搭載車に限定する
運転技能検査過去3年に違反歴がある75歳以上の運転者自動車教習所で実技課題を受検する
高齢運転者標識70歳以上(75歳以上は表示義務)車両の前後にもみじマークを表示する

高齢運転者標識の表示は75歳以上で義務になる

もう一つの中間的な取り組みが、高齢運転者標識、いわゆるもみじマークの表示です。対象は70歳以上の運転者で、70歳から74歳までは表示が努力義務、75歳以上になると表示が義務になります。表示自体を怠っても運転者への直接的な罰則規定はありませんが、高齢者マークを表示した車両に対して、危険防止のためやむを得ない場合を除いて幅寄せや割り込みをした他の運転者は道路交通法違反となり、罰則の対象になります。表示位置は地上0.4メートル以上1.2メートル以下の高さで、前面と後面にそれぞれ1枚貼ることと定められています。マークを表示することは、周囲の車に注意を促し、自分の運転に配慮を求めるサインとして機能し、運転を続けながら周囲の見守りを得やすくするという意味で、段階的な移行の一部に組み込めます。

免許更新時の高齢者講習と認知機能検査が返納判断の節目になる

自主返納のタイミングを考えるうえで避けて通れないのが、免許更新時に高齢者を対象に設けられている制度です。警察は免許更新の際、70歳以上の人に高齢者講習の受講を、75歳以上の人に認知機能検査の受検を義務付けています。75歳以上の場合、まず認知機能検査を受け、認知症ではないことが確認できた人だけが、その後の高齢者講習を受講できる仕組みです。

認知機能検査の内容には、16種類の絵を記憶し後で何が描かれていたかを回答する検査や、検査時点の年月日・曜日・時間を答える検査などが含まれます。更新期間満了日のおおむね6か月前には「高齢者講習等受講通知書」というはがきが郵送され、記載された講習実施場所へ電話で予約を取り、認知機能検査を受けたのちに高齢者講習を受講し、その後免許センターや警察署で更新手続きを行うという流れになります。

検査や医師の診断の結果、認知症と診断された場合には、免許の取り消しや効力の停止という措置が取られます。これは本人や家族の意思にかかわらず、制度上運転を続けられなくなる境界線が存在することを意味します。逆に、講習や検査で問題がなかったという結果は、今は運転を続けても大丈夫という一つの目安にはなりますが、これからも安心して運転を続けられることを保証するものではありません。検査結果に一喜一憂するのではなく、日常の運転行動を振り返る機会として活用する姿勢が大切です。

返納が進みにくい理由は車が生活の足になっている点にある

免許返納が進みにくい最大の理由は、車が生活の足として機能しているという事実そのものです。特に公共交通機関が限られる地方では、通院や買い物、家族や友人との交流など、日常生活のあらゆる場面で車が前提になっています。免許を返納した瞬間にこれらの移動手段が失われるという不安が、返納の判断を先延ばしにさせる大きな要因になっています。

宮下さんが指摘するように、多くの人は自分自身の運転の衰えを正確に認識できていません。私に限って大丈夫という感覚は、長年の運転経験があるほど強くなりやすいものです。講座に参加した80歳の参加者は「私に限って(大丈夫)というのはやめないと、と思った。乗り合いタクシーを充実してもらい、それに乗るしかない。講座を通して少し明日の不安がなくなった」と話しています。また76歳の参加者は「代替の移動手段をいろいろ検討しても不便。できる限りはいつまでも運転したいけど、自分でよく見つめ直すこと、実際いつまで運転できるか考えていかないと」と語っています。これらの声は、返納の判断が単純な怖いからやめるという話ではなく、暮らし全体の組み立てに関わる問題であることを表しています。

返納前に代替手段を試すことが納得感のある選択につながる

宮下さんは、免許を返納する前の段階から車の代わりになる移動手段を試しておくことの重要性を強調しています。家族に運転を頼ること、自転車やバスを利用することなど、免許を持っている間に一度試しておくことで、返納後の生活を事前にシミュレーションできるという考え方です。

宮下さんは「免許を持っている時点でいろいろな移動方法を試してみることによって、返納後のシミュレーションができる。こうやって引き出しを増やしていけばいくほど、返納後も生き生きと生活できる可能性が出る。同じ返納でも納得した返納につながりやすい」と話しています。返納後にゼロから移動手段を探すのではなく、選択肢をあらかじめ複数持っておくことが、納得感のある返納につながるという指摘は、タイミングを考えるうえでの実践的なヒントになります。

地方によっては、自治体が運行する送迎サービスや、事前予約制で運行するデマンドタクシーなども利用できます。福祉施設や地域包括支援センターと連携した移動支援の仕組みが整っている地域もあり、移動手段の確保と同時に、健康相談や生活支援サービスへのアクセスがしやすくなるケースもあります。

運転経歴証明書と自治体の返納支援策も判断材料になる

免許を返納した人には、運転免許証と同じ大きさ・形・材質の運転経歴証明書が交付されます。氏名、生年月日、住所、自主返納を受理された日などが記載されたもので、2012年以降は公的な身分証明書としても使えるようになっています。運転をやめた後も身分確認の手段が失われるわけではない点は、返納をためらう理由の一つを取り除く材料になります。銀行や役所での手続き、病院の受診手続きなど、身分証明書の提示を求められる場面は日常生活の中に多くあるため、この証明書の存在を事前に知っておくことは、返納への心理的なハードルを下げることにつながります。

さらに、全国の自治体や企業では、自主返納者向けの支援施策が用意されています。運転経歴証明書を提示することで、タクシー・バス・電車の利用費補助や、地域によっては定額での乗り放題サービス、提携スーパーでの宅配サービス利用料の優遇、商業施設やホテルでの割引を受けられる場合があります。こうした特典の内容は自治体ごとに異なるため、返納を検討する段階で、居住している自治体の窓口や警察のホームページで具体的な支援内容を確認しておくとよいでしょう。返納後に慌てて調べるのではなく、運転を続けている段階からあらかじめ受けられる特典や支援を把握しておくことが、返納のタイミングを検討する際の安心材料になります。

家族が返納を切り出す際は共感を土台にした対話が有効

自主返納のタイミングは本人だけの問題ではなく、家族との対話の中で決まっていくことも多いテーマです。ただし家族から本人へ返納を切り出す際は、伝え方によって受け止められ方が大きく変わります。専門家の解説によれば、高齢者本人のプライドを傷つけるような言い方は逆効果になりやすく、頭ごなしに「もう運転しないで」と迫るのではなく、心情的な共感を土台にした対話が有効だとされています。

具体的な工夫としては、説得する側の家族が「自分もその年齢になったら運転をやめる」と先に自分自身の将来の姿勢を示すことで、本人だけに返納を強いているわけではないという印象を伝える方法があります。また、本人が頭の上がらない親戚や、かかりつけ医などの第三者から助言してもらうことも、本人が納得しやすくなる手段の一つです。医師の診断のような第三者的な視点が入ることで、家族間の感情的な対立を避けながら、円満に返納の話を進めやすくなります。

返納後の生活についても、事前に具体的な約束を交わしておくことが望ましいといえます。子世代が定期的に送迎する日を決めておく、自治体が提供する外出支援サービスの利用方法を一緒に確認しておくといった準備です。運転をやめることで懸念される脳への刺激の減少や活動量の低下についても、散歩や趣味の活動、ボランティアや地域の集まりへの参加など、安全な形で代わりの刺激を得る方法を一緒に考えておくと、返納後の生活の質を保ちやすくなります。車がないと生活が不便になることへの不安が、返納をためらう最大の理由になっているケースは多いものです。だからこそ家族が運転をやめた後の暮らしを具体的にイメージできるよう一緒に準備することが、本人にとって取り上げられたのではなく納得して選んだ返納につながります。

自主返納の判断基準は6つに整理できる

ここまでの内容を踏まえ、自主返納のタイミングを考える際の判断基準を整理すると、次の表のようになります。

判断基準具体的な内容
運転行動の客観的な振り返り内閣府のチェックリストで、ヒヤリとした経験や駐車のしづらさ、反応の遅れがないか定期的に確認する
続けるリスクとやめるリスクの比較事故のリスクと、急にやめることで認知機能や要介護度に影響が出るリスクの両方を見比べる
代替の移動手段を返納前に試す家族の協力、自転車、バス、デマンドタクシーなど複数の選択肢を実際に体験しておく
中間的な制度の活用サポカー限定免許や運転技能検査など、完全な返納の前に運転を継続できる制度を検討する
家族との対話本人が気づいていない変化を家族が共有し、頭ごなしでなく共感を土台にした対話や第三者の助言を活用する
更新時の講習・検査結果の活用高齢者講習や認知機能検査の結果を安心材料にとどめず、次の更新までを運転行動を見直す期間として位置づける

これら6つの基準は、どれか一つだけを満たせば十分というものではありません。複数の基準を組み合わせながら、自分の状況に合わせて優先順位をつけていくことが、納得できるタイミングを見つける近道になります。

返納だけでは高齢ドライバーの事故は減らないという指摘もある

ここまで自主返納のタイミングと判断基準について整理してきましたが、返納そのものが万能の解決策ではないという指摘も押さえておく必要があります。ある調査では、免許を返納した人のうち6割を超える人が、返納後の生活について不便になったと回答しています。代替の移動手段を十分に準備せずに返納してしまうと、生活の質が大きく下がってしまうリスクがあることがわかります。

また、75歳以上の運転者による死亡事故件数は過去10年ほどの間ほぼ横ばいで推移しており、返納を促す取り組みそのものが事故全体を大きく減らしているとまでは言い切れないという学術的な見方もあります。これは自主返納という制度自体を否定するものではなく、返納の呼びかけだけでは高齢運転者の事故を根本的に減らすには不十分であり、チェックリストによる自己認識、段階的な運転自粛、サポカー限定免許や高齢者マークの活用、代替移動手段の整備といった複数の取り組みを組み合わせる必要があることを表しています。だからこそ、いつ返納するかという一点だけに注目するのではなく、運転を続けながら安全性を高める工夫と、返納後の生活を支える準備の両方を、時間をかけて並行して進める視点が欠かせません。

年齢ではなく運転環境と生活の実態で返納のタイミングを決める

運転免許の自主返納は、年齢や一つの出来事で機械的に決まるものではなく、本人の身体的な変化への自覚、生活環境、代替手段の有無など複数の要素を組み合わせて判断すべきテーマです。同じ75歳でも、日常的に交通量の少ない道しか走らない人と、毎日高速道路で長距離を移動する人とでは、抱えているリスクの大きさがまったく違います。年齢という単一の指標だけで判断するのではなく、その人固有の運転環境や身体状況、生活の中で車が果たしている役割まで含めて考える必要があります。長野県東御市の講座が伝えたのも、この一点に集約されます。誰かが決めた基準に自分を合わせるのではなく、自分自身の運転と生活を見つめ直し、自分の言葉で納得できる答えを見つけていくことが、運転終活の核心だといえます。

全国的にも自主返納の件数は増加傾向にありますが、75歳以上の免許保有者数と比べればまだ一部にとどまっており、今も多くの人が同じような迷いを抱えていることがうかがえます。内閣府のチェックリストで自分の運転を定期的に振り返ること、段階的に運転の範囲を狭めていくこと、そして返納前から代替の移動手段を試しておくこと。これらを組み合わせることで、返納のタイミングは怖くて仕方なく決めさせられる日ではなく、自分で納得して選ぶ日へと近づいていきます。宮下さんの言葉にあるように、一人一人が自分自身の状況を考え抜くことが、私らしい運転の続け方、やめ方を見つける第一歩になります。

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