終活で最初に整理すべきお金は、生活防衛資金と老後資金の2つです。生活防衛資金は生活費の3〜6か月分、独身なら100万円前後、夫婦2人なら100万円台前半が一つの目安になります。老後資金は総務省の家計調査をもとにすると、単身世帯で800万円台、夫婦世帯で1200万円台から1500万円台の取り崩しが必要になる計算です。
葬儀やお墓の準備、遺品整理ばかりに目が向きがちですが、多くの人が本当に不安に思っているのは「老後にいくら必要なのか」「もしものときの備えはいくらあればいいのか」という、もっと具体的な金額の話ではないでしょうか。この記事では、生活防衛資金と老後資金それぞれの目安額と計算方法、預け先の選び方、そして終活として今から着手できるお金の整理の進め方までをまとめました。

終活で最初に決めるべきは生活防衛資金と老後資金の違い
終活の資金整理でまず区別すべきなのは、生活防衛資金と老後資金という性質の異なる2種類のお金です。生活防衛資金は、病気やケガ、失業、災害など予期せぬ出来事に備える短期的な資金で、いつでも引き出せる安全性の高い形で持っておく必要があります。老後資金は、退職後の生活を何十年にもわたって支える長期的な資金で、ある程度の運用リスクを取りながら育てていくお金です。
この2つを同じ財布で管理してしまうと、いざというときに困ります。老後資金として投資信託に回していたお金を、病気で急に必要になったタイミングで解約すると、価格が下落している局面に当たってしまうかもしれません。逆に老後資金まで普通預金に置きっぱなしにすると、物価上昇によって実質的な価値が目減りしていきます。まずは生活防衛資金と老後資金を別の口座、別の商品で管理する発想を持つことが、終活における資金整理の出発点になります。
生活防衛資金の目安は生活費の3〜6か月分
生活防衛資金の目安は、生活費の3〜6か月分、または手取り月収の3〜6か月分です。毎月の生活費が16万〜24万円程度の会社員世帯であれば、独身一人暮らしの目安額はおよそ102万円、夫婦2人暮らしなら96万〜144万円程度、子どもがいる世帯では162万〜243万円程度が一つの基準になります。単身者に限っては、60万〜120万円程度を目安とする試算も見られ、生活費の何か月分に設定するかによって幅が出ます。
この金額はあくまで目安です。実際に必要な金額は、住宅ローンの有無や勤務先の福利厚生、本人のリスク許容度によって変わります。傷病手当金や雇用保険が手厚い会社員なら3か月分程度でも足りることがありますが、収入が不安定な人はもっと厚めに備えたほうが安心でしょう。
毎月の生活費が20万円の会社員を例にすると、3か月分で60万円、6か月分なら120万円が目安になります。子どもの教育費や住宅ローンの返済負担が大きい世帯ほど、支出総額に比例して生活防衛資金の必要額も増えていきます。
自営業・フリーランスは生活費の半年から1年分を確保
自営業やフリーランスには、会社員のような傷病手当金や、失業時の雇用保険(基本手当)といった公的なセーフティネットがほとんどありません。そのぶん、生活防衛資金は会社員より厚めに確保しておく必要があります。目安は最低でも生活費の半年分、できれば1年分です。
仕事の受注が急に途絶えたり、取引先の倒産で入金が滞ったりするリスクは会社員よりも高くなります。生活防衛資金の計算では、まず家賃や食費、光熱費、通信費、保険料、日用品費など、収入がなくても発生し続ける固定的な支出を洗い出し、その合計額に自分の働き方に応じた月数(会社員は3〜6か月、自営業・フリーランスは6〜12か月)を掛け合わせます。すでに加入している就業不能保険や傷病手当金の見込みがあれば、そのぶん必要額を調整して構いません。
生活防衛資金の預け先は安全性と流動性で選ぶ
生活防衛資金の預け先を選ぶ基準は、安全性と流動性の2つです。株式や投資信託のように値動きのある資産は、いざ現金化したいタイミングで価格が下落している可能性があり、解約から入金までにタイムラグが生じることもあるため、生活防衛資金の置き場所には向いていません。
具体的な預け先としては、普通預金、定期預金、個人向け国債の3つが代表的です。それぞれの特徴を整理すると、次のようになります。
| 預け先 | 流動性 | 特徴 |
|---|---|---|
| 普通預金 | いつでも引き出し可能 | 手元にあるとつい使ってしまう心理的なリスクがある |
| 定期預金 | 満期まで引き出しにくい | 普通預金よりわずかに金利が有利な場合がある |
| 個人向け国債(変動10年) | 発行から1年経過後に中途換金可能 | 半年ごとに適用利率が見直され、元本割れの心配がない |
直近で使う可能性が高い部分は普通預金に、1年以内に使う予定がある資金は定期預金に、1年以上寝かせておける部分は個人向け国債に、というように資金の性質に応じて配分する考え方が紹介されています。生活防衛資金は増やすためのお金ではなく、守るためのお金だという原則を忘れないようにしたいところです。
先取り貯蓄で生活防衛資金を専用口座に積み上げる
生活防衛資金をまとまった金額にするコツは、先取り貯蓄の仕組みを作ることです。給与が振り込まれたら、まず決めた金額を生活防衛資金専用の口座へ移し、残った金額の範囲で生活します。「余ったら貯める」という順番だと支出が先に膨らみ、なかなか貯まりません。貯める分を先に確保してしまう発想のほうが、結果的に続けやすくなります。
給与振込口座とは別に生活防衛資金専用の口座を用意し、給与日の直後に一定額が自動的に振り替えられるよう設定しておくと、意識しなくても着実に積み上がっていきます。通信費や保険料、サブスクリプションサービスなど固定費を見直して支出そのものを減らせれば、そのぶん先取り貯蓄に回せる金額も増やしやすくなるでしょう。生活防衛資金専用の口座は、投資用の証券口座や生活費の引き落とし口座とは分けて管理してください。目的の異なるお金を同じ口座に置いておくと、いざというときに使えるはずの資金が足りなくなることがあります。
老後資金は単身で800万円台、夫婦で1200万円台から1500万円台
老後資金は、退職後の生活全体を支える長期の備えです。総務省の家計調査に基づく試算では、65歳以上の無職単身世帯の1か月あたりの消費支出は平均で約14万9,286円、税金や社会保険料などの非消費支出約1万2,647円を加えると、支出合計は月あたり約16万1,933円になります。公的年金等を含めた実収入は月平均約13万4,116円にとどまり、月々の収支は約2万7,817円の赤字です。
この赤字が老後25年間続くと想定すると、取り崩しの総額は約834万5,100円になります。単身世帯は配偶者と生活費を分担できないぶん、一人あたりの固定費負担が重くなりやすい点に注意が必要です。
夫婦のみの高齢無職世帯についても、家計調査のデータでは可処分所得が月額約22万1,544円に対して消費支出は月額約26万3,979円で、毎月約4万2,434円の赤字が生じています。これが30年間続くと、不足額はおよそ1,500万円に達する計算です。より新しい集計では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均収入が約25.4万円、支出合計が約29.7万円で、毎月約4.3万円の赤字、老後30年でおよそ1,548万円が不足するという試算も出ています。ゆとりある老後生活を望む場合は、生命保険文化センターの調査で夫婦2人の必要生活費が月額39.1万円という水準が示されており、旅行や趣味、交際費を含めたゆとりを求めるほど必要額は膨らみます。
老後2000万円問題は今どうなっているのか
2019年に話題になった老後資金2000万円問題は、当時の高齢夫婦無職世帯の毎月約5.5万円の赤字を前提に、老後20〜30年間でおよそ1,300万〜2,000万円が不足するという試算に基づいていました。この数字は今も老後資金を考える際の代表的な指標として使われています。
一方、2024年の家計調査報告に基づく試算では、高齢夫婦無職世帯の赤字が20年間続いた場合の不足額は約816万円、30年間続いた場合でも約1,224万円程度とされ、当時よりも不足額の試算は縮小しています。老後資金1200万円問題と呼べる水準に近づいてきたとも言えますが、これはあくまで平均的な世帯の話です。住居費が持ち家か賃貸か、医療・介護費がどの程度かかるか、ゆとりある生活を望むかどうかによって、実際に必要な金額は一人ひとり大きく変わります。
年金だけで老後は暮らせるのか
2025年度時点の国民年金(基礎年金)の満額は月額69,308円です。夫婦がともに国民年金のみに加入していた場合、2人分を合わせても月額約14万2,000円程度にとどまり、これだけで生活費をまかなうのは厳しいのが実情です。
厚生年金は現役時代の平均年収や加入期間によって受給額が大きく変わります。夫婦ともに会社員として厚生年金に加入していたケース(世帯合計で月額約34万円程度)では、年金収入だけで平均的な生活費をカバーできる可能性があります。一方、会社員と専業主婦(夫)という組み合わせ(世帯合計で月額約25万円程度)では、毎月4万〜5万円程度の不足が生じ、貯蓄の取り崩しが必要になるケースが多いとされています。年金だけで老後の生活が成り立つかどうかは、現役時代の働き方や年金の加入形態によって左右されるということです。公的年金の見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで早めに確認しておきたいところです。
iDeCoとNISAを併用した老後資金の準備方法
老後資金を準備する代表的な手段は、iDeCoとNISAです。iDeCoは掛金の全額が所得控除の対象になり、加入して掛金を払った時点で所得税・住民税の軽減効果が確実に得られます。運用益も非課税になり、老後資金づくりに特化した制度設計になっていますが、原則として60歳になるまで引き出せない制約があるため、老後資金専用の資金として位置づける必要があります。
NISAは投資による利益が非課税になる制度で、iDeCoと違っていつでも引き出せる流動性の高さが特徴です。iDeCoとNISAは制度としての性質が異なるため、両方を併用しても構いません。所得控除の効果が確実なiDeCoを優先的に活用し、余裕資金でNISAを積み立てるという組み合わせが定石とされています。どちらも長期・積立・分散を基本方針にすることで、価格変動リスクを抑えながら老後資金を育てていけます。
iDeCoは受け取り方によって手取り額も変わります。老齢給付金は、一括で受け取る老齢一時金、5年以上20年以下の期間で受け取る老齢年金、両方を組み合わせる併用方式の3つから選べます。一時金として受け取る場合は退職所得控除を差し引いたうえで、さらに残額の1/2にした金額が課税対象になるため、税負担を抑えやすくなります。退職所得控除の額は、加入年数が20年以下であれば40万円×加入年数(最低80万円)、20年を超える部分については800万円+70万円×(加入年数−20年)で計算されます。年金方式で受け取る場合は雑所得として扱われ、公的年金等控除の対象にはなるものの総合課税です。会社の退職金と受け取り時期が近いと退職所得控除の重複調整が入り、控除額が目減りする場合があるため、受け取り時期は事前にシミュレーションしておくと安心です。
老後資金には介護費用として約540万円を見込んでおく
老後資金の試算で見落とされがちなのが、介護にかかる費用です。介護用ベッドや住宅改修など一時的にかかる費用の平均は約47万円、月々の費用の平均は約9万円、介護期間の平均は約55か月(4年7か月)とされています。一時費用約47万円に月9万円×55か月分(約495万円)を加えると、総額はおよそ540万円前後になる計算です。要介護度が上がるほど費用も増加し、要介護4〜5になると月10万円を超えるケースも珍しくありません。
介護保険の自己負担割合は所得に応じて1割から3割の範囲で決まり、医療保険と介護保険の自己負担を合算して一定額を超えた分が払い戻される高額療養費・高額介護合算療養費制度もあります。それでも数百万円単位の自己負担が発生し得ることを踏まえると、老後資金の試算には生活費の不足分だけでなく、介護費用として数百万円単位の予備費を別枠で見込んでおいたほうがよさそうです。
退職金は1000万〜2000万円が相場、受け取り後は用途ごとに管理
退職金は老後資金の重要な原資になりますが、水準は勤務先の規模で大きく差が出ます。中小企業の退職金の相場はおおむね1,000万円前後、大企業ではおおむね2,000万円前後です。ただし退職金の水準は全体として減少傾向にあり、退職金制度自体を設けていない企業も増えています。退職金があることを前提に老後資金計画を立てるのではなく、まずは自分の勤務先の退職金制度の有無と見込み額を早めに確認しておくべきでしょう。
退職金をまとまった形で受け取ったら、使い道を項目ごとに分けて管理するのがおすすめです。生活費の補填に充てる分、住宅ローンの繰り上げ返済やリフォームに充てる分、将来に向けて運用に回す分というように、あらかじめ用途を明確にしたうえで取り崩していくと、資金が目減りするペースを把握しやすくなります。退職金や老後資金全体の取り崩しでは、値動きのある資産から先に取り崩し、現金や預金など安全資産は最後まで残しておく考え方が一般的です。生活防衛資金と同じように、守るお金と増やす・使うお金を分けて管理する発想がここでも役に立ちます。
終活の資金整理は財産目録の作成から始める
終活における資金整理の第一歩は、資産と負債を一覧化する財産目録の作成です。現金・預貯金、株式や投資信託などの有価証券、生命保険、不動産、自動車、貴金属といった動産、そして住宅ローンやカードローンなどの負債まで、保有しているものと抱えている負債をすべて洗い出し、金額とあわせて記録します。これにより、自分が今どれだけの資産を持っていて、老後資金や生活防衛資金として何にいくら振り分けられるのかを客観的に把握できるようになります。
やることリストは、持ち物の整理、通帳や証券口座・保険証券などの書類整理、資産・負債の整理、家族や関係者の連絡先の整理、葬儀やお墓など死後の希望の整理、といった項目に分けて進めると取り組みやすくなります。資産整理は特に、家族が万一のときに困らないよう、どの金融機関にどの口座があるか、どんな保険に加入しているかを一覧化しておくことが、残される家族への助けになります。資産整理が複雑な場合や相続・税務が絡む場合は、ファイナンシャルプランナーや税理士、弁護士に相談することで時間や手間を大きく節約できます。不動産や事業用資産を持っている場合は、専門家の助言を受けながら進めたほうが後々のトラブルを防ぎやすいでしょう。
財産目録に加えて、エンディングノートにお金の情報を書き残しておくと、家族が慌てずに済みます。銀行口座なら金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、キャッシュカードの保管場所までを具体的に記し、生命保険や医療保険についても契約内容と証書のありかをセットで書いておくと、家族が保険会社に連絡する際にスムーズです。ただし、キャッシュカードの暗証番号やインターネットバンキングのパスワードは、エンディングノート本体には書かないほうがよいとされています。ノートを紛失したり第三者の目に触れたりした場合、暗証番号まで一緒に知られると不正利用のリスクが生じるためです。パスワード類は別紙に控えて封をする、あるいは専用のパスワード管理ツールを使うなど、財産情報とは分けて管理する工夫が必要です。
おひとりさま終活は資金の管理体制まで準備しておく
配偶者や同居家族がいないおひとりさまの場合、老後資金・生活防衛資金の目安額そのものは基本的な考え方と変わりません。ただし、資金を誰がどのように管理するかという点で、追加の備えが必要になります。判断能力が十分なうちに、将来認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、公正証書によって任意後見契約を結んでおく方法があります。任意後見人への報酬は月2万〜6万円程度、任意後見監督人への報酬も別途月1万〜3万円程度が相場とされ、この費用も老後資金の一部として見込んでおく必要があります。
判断能力があるうちから財産管理を第三者に委任する財産管理等委任契約、死後の諸手続きを第三者に依頼する死後事務委任契約、身元保証や安否確認をカバーする身元保証サービスなど、複数の制度を組み合わせれば、身寄りに頼れない場合でも資金管理と生活の安心を確保できます。おひとりさまの終活では、老後資金・生活防衛資金の金額を確保するだけでなく、その資金を実際に誰が本人のために使ってくれるのかという管理体制まで含めて準備しておくことが欠かせません。
生命保険の見直しで老後資金に上乗せする
終活の資金整理では、加入している生命保険を見直すことも重要な項目です。子どもが独立したあとや住宅ローンを完済したあとは、当初契約した死亡保障の必要額が下がっていることが多く、ライフステージの変化に応じて不要になった保障を解約・減額すれば、毎月の保険料負担を軽くできます。
終身保険は、契約時に定めた保険料払込期間が満了すると、それ以降は解約返戻金の額が払い込んだ保険料の総額を上回る場合があります。この解約返戻金は、一生涯の死亡保障として持ち続けるだけでなく、老後の生活資金や介護資金、孫の教育資金などに充てる選択肢にもなります。低金利の時期に契約した貯蓄型保険は新NISAの運用利回りに見劣りすることも多いため、解約返戻金の推移を確認したうえで、より効率のよい貯蓄型保険への切り替えや新NISAの運用原資への組み替えを検討する余地があります。解約返戻金と払い込んだ保険料の累計額との差益が50万円を超えると、その差益部分に所得税がかかる点には注意してください。保障を減らしすぎて万一の際に困ることのないよう、必要な保障額を確認したうえで、老後資金全体のバランスの中で判断することが大切です。
生活防衛資金と老後資金を分けて管理する
生活防衛資金と老後資金は、目的も性質もまったく異なる資金です。生活防衛資金は病気・失業・災害など予期せぬ短期的な事態に備えるための資金で、生活費の3〜6か月分(自営業・フリーランスは半年〜1年分)を目安に、安全性・流動性を最優先にして普通預金や定期預金、個人向け国債などで確保します。老後資金は退職後の長期にわたる生活を支えるための資金で、単身世帯なら800万円台、夫婦世帯なら1,200万〜1,500万円台という試算が一つの目安になり、ゆとりある生活を望む場合はさらに上乗せが必要です。
老後資金は準備までの時間を長く取れることが多いため、iDeCoやNISAを活用して、ある程度のリスクを取りながら育てていく資金として位置づけるのが合理的です。この2つの資金を混同せず、それぞれ別の財布として管理することが終活の資金整理の基本になります。生活防衛資金を老後資金の運用に回してしまうと、いざというときに現金化に時間がかかったり、価格下落局面で売却せざるを得なくなったりします。逆に老後資金まで普通預金に置いたままにしておくと、物価上昇によって実質的な価値が目減りしていくリスクを見過ごすことになります。「いくら必要か」という数字の目安を知ることは、不安を減らす第一歩です。そのうえで自分のライフスタイルやリスク許容度に合わせて、具体的な金額と置き場所を決めていくことが、終活における資金整理の本質だと言えるでしょう。








