家族信託の信託口口座、開設できる銀行と選び方のコツ

当ページのリンクには広告が含まれています。

家族信託で信託財産を管理するには、委託者と受託者の名前を並べた信託口口座を開設するのが基本です。信託口口座は受託者個人の財産と法的に切り離されて管理されるため、受託者が破産しても信託財産が差し押さえの対象になりません。ただし対応する銀行はまだ少なく、金融機関ごとに最低預入金額や手数料、審査の期間が大きく異なります。銀行選びを誤ると、口座開設だけで数カ月が過ぎてしまうこともあります。この記事では、信託口口座と信託専用口座の違いから、開設できる銀行の探し方、費用や必要書類、開設までの流れまで、家族信託の口座選びで押さえておきたいポイントをまとめます。

目次

信託口口座は受託者の破産や急死から信託財産を守る

信託口口座とは、信託契約に基づいて管理する金銭を保管するために金融機関に開設する口座のことです。名義は「委託者〇〇受託者△△信託口」のような形式になり、委託者と受託者の名前が並記されます。一般的な普通預金口座と違い、金融機関のシステム上で受託者個人の財産とは明確に区別して管理される点が最大の特徴です。

この区別があるおかげで、受託者が多額の借金を抱えて自己破産しても、信託口口座の中にある資金は「親の信託財産」として法的に守られ、差し押さえの対象になりません。これを倒産隔離機能と呼びます。受託者が信託の途中で亡くなった場合も、契約に後継受託者の定めがあれば口座は凍結されず、次の受託者へそのまま引き継げます。家族信託を専門とする司法書士や弁護士の多くが、できる限り信託口口座を開設するよう勧めるのは、この保護の強さが理由です。

信託専用口座は手軽だが受託者の差し押さえに巻き込まれる

信託口口座の開設が難しい場合の代用として使われるのが、信託専用口座です。これは受託者個人の名義の普通預金口座を、信託契約書の中で「信託財産の管理に用いる」と定めて代用する方法で、通常の口座開設と同じ感覚で作れるため対応できる金融機関が多いという利点があります。

ただしこの方法には弱点があります。外形上はあくまで受託者個人名義の口座にすぎないため、倒産隔離機能を持ちません。受託者が税金を滞納して差し押さえを受けた場合、信託専用口座にある信託財産まで受託者個人の財産とみなされ、差し押さえの対象になってしまうおそれがあります。受託者が信託の途中で急死したときも、金融機関が口座を凍結し、後継受託者への引き継ぎがスムーズに進まない事態が起こり得ます。信託財産の額が大きい家庭や、長期間にわたって信託を続ける予定がある家庭ほど、信託口口座を選ぶ重要性は高くなります。

家族信託は本人の判断能力があるうちに家族だけで契約を結べる

財産管理の対策としては、家族信託のほかに成年後見制度もあります。成年後見制度は本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立て、裁判所が選んだ後見人が財産を管理する制度です。家族信託は本人に判断能力があるうちに、本人自身が受託者を選び、契約によって財産管理の内容を自由に設計できる点で大きく異なります。

成年後見制度では、後見人は家庭裁判所の監督のもとで財産を維持・保全することが基本で、資産運用や相続税対策のための贈与は原則認められません。家族信託は契約の範囲内であれば資産運用や柔軟な承継設計も可能で、この自由度の高さが評価されています。一方で、成年後見制度には本人の生活や療養看護に関わる身上保護の権限が民法で定められているのに対し、家族信託の受託者にはこの権限がありません。財産管理は家族信託、身上保護が必要な場面では成年後見制度というように、場面に応じて使い分けたり併用したりする家庭もあります。信託口口座を開設して財産管理の受け皿を整えても、身上保護の対策は別に必要になる場合がある点は押さえておきたいところです。

信託口口座に対応する銀行は千葉銀行や武蔵野銀行など一部にとどまる

信託口口座には大きなメリットがある一方、開設のハードルは低くありません。最大の理由は、取り扱う金融機関がまだ限られていることです。家族信託はここ10年ほどで広まった比較的新しい制度で、金融機関側の対応体制の整備が追いついていないのが実情です。都市部のメガバンクは支店によって対応が分かれたり、個人の家族信託にそもそも対応していなかったりするケースが目立ちます。

一方で、家族信託に積極的に取り組む金融機関も増えています。千葉銀行は「ちばぎんのファミリートラストサポートサービス」、武蔵野銀行は「むさしの家族信託」という名称で、それぞれ独自の口座商品と相談窓口を用意しています。関東近郊では京葉銀行も家族信託を扱っており、三菱UFJ信託銀行を所属信託会社として口座開設を進める体制を取っています。信託銀行の分野では三井住友信託銀行やみずほ信託銀行が、民事信託のサポートサービスの中で信託口口座の開設を案内しています。ネット銀行では数少ない対応例としてオリックス銀行があり、「eダイレクト預金〈家族信託預金特約〉」という商品名で、来店不要のオンライン中心の手続きに対応しています。信用金庫では飯能信用金庫のように地域密着型で家族信託口座サービスを提供する金庫も出てきており、地域によっては信用金庫が最も相談しやすい窓口になることもあります。

これらのサービス名や取扱窓口は年々変わる可能性があるため、実際に利用を検討する際は各金融機関の最新の公式情報や窓口への問い合わせで確認する必要があります。対応状況は金融機関ごと、さらには同じ金融機関でも支店ごとに差があるのが実態で、近くの銀行に行けば必ず開設できるというものではありません。

ゆうちょ銀行では信託口口座を開設できなかった

2025年時点では、ゆうちょ銀行は家族信託のための信託口口座を開設できませんでした。親の主要な取引銀行がゆうちょ銀行だという理由で対応に苦慮する家庭は少なくありません。ゆうちょ銀行で信託口口座が作れない場合、信託契約の中で預金を一旦解約し、信託口口座のある別の金融機関に資金を移すか、信託専用口座での代用を検討するといった代替策を、専門家と相談しながら決めていく必要があります。親のメイン口座がどの金融機関かは、家族信託を検討し始めた早い段階で確認しておいたほうがよいでしょう。

銀行選びでまず確認すべきは対応可否と最低預入金額

信託口口座を開設する金融機関を選ぶ際、最初に確認すべきは信託口口座そのものの取り扱いがあるかどうかです。窓口担当者が家族信託という言葉自体を知らないこともあるため、電話やホームページで「信託口口座(民事信託口座)の取り扱いがあるか」を明確に確認しておく必要があります。取り扱いがあっても地域の本部でしか対応しておらず、通常の支店では手続きできないケースも珍しくありません。

次に確認すべきは最低預入金額です。金融機関によっては信託口口座の開設にあたり1000万円以上という高額の最低預入金額を設定しているところもあります。信託する金銭の総額がそれほど多くない家庭にとって、この条件は開設のハードルになり得るため、信託財産の規模に見合った金融機関を選ぶ必要があります。

手数料と使い勝手も金融機関ごとに差が大きい

信託口口座は通常の普通預金と異なり、口座を維持するために毎月または毎年の手数料が発生する金融機関があります。長期間にわたって信託を続ける場合、この手数料は無視できないコストになるため、事前に手数料体系を確認し、複数の金融機関を比較することが望ましいです。開設時にも5万円から10万円程度の事務手数料を設定している金融機関があり、これも事前確認が欠かせません。

キャッシュカードが発行されるか、ATMでの入出金が可能か、インターネットバンキングに対応しているかも金融機関によって大きく異なります。受託者は生活費や医療費の支払いのために頻繁にこの口座を使うことになるため、日々の使い勝手も選定基準に加えたほうがよいでしょう。

開設審査の速さと専門家との連携実績も見ておく

信託口口座は通常の口座開設と異なり、金融機関の法務担当部署などによる信託契約書の内容審査が必要になります。この審査には数週間から1カ月以上かかることも珍しくなく、急いで口座を開設したい事情がある場合は、審査対応の早い金融機関を選ぶことも判断材料になります。

家族信託に詳しい司法書士や弁護士が日常的に取引している金融機関は、信託契約書の記載方法や必要書類について担当者も慣れており、手続きがスムーズに進みやすい傾向があります。逆に信託口口座の取り扱い実績が乏しい金融機関では、担当者間で情報が共有されておらず、同じ説明を何度も求められたり審査が長引いたりするリスクがあります。専門家に依頼する場合は、その専門家がどの金融機関での開設実績を持っているかを尋ねてみるのも有効です。

開設までの流れは信託契約書の審査から始まる

信託口口座を開設するまでの一般的な流れは、次のようになります。まず家族信託の設計段階で司法書士や弁護士に相談し、誰を委託者・受託者・受益者にするか、どの財産を信託するか、信託の目的や終了事由をどう定めるかを固めます。この段階で、信託口口座を開設する予定の金融機関にも早めに相談を始めておくと、後から契約書を修正する手間を避けられます。

次に、専門家が信託契約書の案文、家族関係図、財産の状況が分かる資料を金融機関に提出し、口座開設が可能かどうかの審査を受けます。審査に通れば、公証役場で信託契約書を公正証書として作成する段階に進みます。公正証書にすることで契約内容の証明力が高まり、相続人間のトラブルや金融機関からの追加照会を防ぐ効果があります。信託口口座の開設を条件とする金融機関の多くは、公正証書での契約締結を必須にしています。

公正証書が完成したら、委託者と受託者が金融機関の窓口に出向き、信託契約書の正本、本人確認書類、受託者の印鑑などを提示して口座開設の手続きを行います。金融機関によってはこの段階でも社内審査に時間がかかります。口座が開設されたら、委託者の個人口座から信託財産である金銭を信託口口座へ振り込み、信託がスタートします。以後は受託者がこの口座を使い、生活費や施設利用料、不動産の管理費用といった信託目的に沿った支出を行っていくことになります。

開設に必要な書類は公正証書と本人確認書類が中心

信託口口座の開設にあたって一般的に求められる書類には、公正証書で作成し金融機関の審査を経た信託契約書の正本または謄本、委託者と受託者双方の本人確認書類、受託者の印鑑があります。受託者の印鑑は実印である必要はなく、認印で足りるとされることが多いです。信託財産に不動産が含まれる場合はその登記事項証明書、委託者と受託者の関係が分かる戸籍謄本の提出を求められることもあります。金融機関によって必要書類の範囲は異なるため、事前に窓口やコールセンターで最新のリストを確認しておくとよいでしょう。

開設費用は専門家報酬と合わせて総額50万円前後が目安になる

信託口口座の開設にかかる費用は、信託契約書作成に関する専門家報酬、公正証書作成の実費、金融機関への口座開設手数料の3つに分かれます。専門家報酬は信託財産の総額に応じて変わりますが、司法書士や弁護士に依頼する場合、信託財産の評価額のおおむね1パーセント前後を目安とする事務所が多く見られます。信託財産が3000万円であれば30万円前後、5000万円であれば50万円前後が一つの目安です。公正証書作成の実費は信託財産の額に応じて公証役場の手数料規定に基づき数万円程度かかります。金融機関への口座開設手数料は無料の金融機関もあれば、5万円から10万円程度、あるいは1万円程度を求める金融機関もあり、幅があります。総額でどの程度かかるのかを事前に見積もっておくことが大切です。

開設までの期間は、信託契約の設計から公正証書作成、金融機関での口座開設完了までを通算すると、早くても1カ月半から2カ月程度かかります。金融機関の審査に時間がかかる場合や専門家との打ち合わせに時間を要する場合は、3カ月以上かかることも珍しくありません。認知症の進行など時間的な余裕がない事情がある場合は、対応の早い金融機関や専門家を選ぶことが特に重要になります。

相談先は不動産の有無と紛争性で使い分ける

家族信託の組成や信託口口座の開設について相談できる専門家には、弁護士、司法書士、行政書士がいます。信託財産に不動産が含まれる場合は、不動産の登記業務も併せて依頼できる司法書士に相談するのが一般的です。信託契約をめぐって家族間に意見の対立や紛争性が見込まれる場合は、交渉や訴訟にも対応できる弁護士に相談するほうが適していることもあります。いずれの専門家に依頼する場合も、家族信託と信託口口座開設の実務経験が豊富かどうか、開設実績のある金融機関の情報を持っているかどうかを相談時に確認しておくとよいでしょう。

受託者を複数にすると信託口口座を開設できない銀行が多い

家族信託では、受託者を子ども一人だけでなく兄弟姉妹複数人にしたいという要望が出ることがあります。しかし信託口口座の開設という観点からは、受託者を複数にすることは大きな制約を生みやすいです。家族信託そのものに対応できる金融機関であっても、受託者が複数になると信託口口座の作成には対応できないというケースが多く見られます。信託契約に別段の定めがない限り、複数受託者による信託事務の意思決定は過半数の同意によることが信託法上定められており、日常的な入出金のたびに複数の受託者の合意を要することになれば、実務上の機動性が損なわれてしまいます。

そのため実務では、受託者はあえて単独に絞り、他の兄弟姉妹は受託者が死亡や辞任した場合に備える第二受託者(予備的受託者)として信託契約に定めておく設計がよく用いられます。この方法であれば信託口口座は単独の受託者名義で問題なく開設でき、将来受託者に不測の事態が生じた場合の承継先もあらかじめ確保できます。銀行を選ぶ際には、受託者の人数構成についても事前に相談し、どのような契約設計であれば口座開設に応じられるのかを確認しておいたほうがよいでしょう。

手作りの契約書は銀行窓口で開設を断られることがある

インターネット上には家族信託の契約書のひな形が数多く公開されており、費用を抑えるためにこうした雛形を使って自分たちだけで契約書を作成しようとする家庭もあります。これは信託口口座の開設という観点から見ると、リスクの大きい選択です。雛形をそのまま流用した契約書では、法的に必要な要件や各金融機関が独自に求める条項が漏れていることが多く、いざ窓口に持ち込んだ際に内容不備を理由に開設を断られてしまうことが少なくありません。信託契約自体は有効に成立していても、信託口口座を開設できなければ倒産隔離機能を得られず、信託専用口座での運用を強いられることになりかねません。

信託契約書を公正証書で作成しておくことは、このリスクを減らす有効な手段です。公証人による内容確認を経た公正証書であれば、金融機関の審査も通りやすくなる傾向があります。ただし公正証書化そのものが金融機関独自の要求条項まで満たすことを保証するわけではありません。契約書の草案作成段階から、信託口口座の開設実績が豊富な司法書士や弁護士に相談し、開設予定の金融機関の要望を事前にすり合わせておくことが、結果的に時間とコストの両面で確実な近道になります。

年金受給権は信託財産にできない

信託口口座の活用を検討する際には、そもそも何を信託財産にできるのかにも注意が必要です。親が受け取る年金の受給権は本人だけに帰属する一身専属的な権利であるため、信託財産として受託者に移すことはできません。年金そのものを信託することはできませんが、年金が振り込まれた後の預貯金を信託口口座に移して管理することは可能です。実務上は年金受取口座から信託口口座へ定期的に資金を移すという運用でカバーすることになります。預貯金の口座そのものを信託することもできないため、あくまで信託口口座を新たに開設し、そこへ委託者の預貯金を移動させる形を取る点も、基本的な仕組みとして押さえておく必要があります。

受託者の事務負担は口座選びの段階で軽くできる

信託口口座を開設した後、実際にその口座を運用していくのは受託者です。信託財産の入出金記録をつけ、信託目的に沿った支出であることを説明できるようにしておく帳簿管理の作業や、年に一度の信託財産状況の報告など、受託者には想像以上に事務的な負担がかかります。受託者が仕事や自身の家庭を持ちながら一人でこれらの業務を担う場合、時間的にも精神的にも負担が大きくなりやすいです。銀行を選ぶ際には、インターネットバンキングによる明細確認のしやすさや、専門家によるサポート体制の有無も、受託者の負担を左右する要素として比較検討材料に加えておくとよいでしょう。

信託口口座に関するよくある疑問

信託口口座はどの銀行でも作れるのかとよく聞かれますが、答えは作れません。取り扱いがある金融機関はまだ限られており、しかも支店によって対応が分かれることもあります。財産が少なくても信託口口座は開設できるのかという疑問もよく出ますが、最低預入金額を1000万円以上に設定している金融機関もあるため、財産規模によっては信託専用口座での運用を検討せざるを得ない場合があります。開設にはどれくらいの期間がかかるのかについては、契約設計から口座開設完了まで通算1カ月半から2カ月、審査に時間を要する場合は3カ月以上を見込んでおく必要があります。すでに信託契約を結んでしまった後でも信託口口座に切り替えられるのかという相談もありますが、信託契約の内容によっては金融機関から契約書の修正を求められることがあるため、切り替えを検討する場合も専門家と金融機関の双方に早めに相談することが望ましいです。

家族信託を適切に機能させるためには、信託財産である金銭をどの口座で管理するかという選択が重要です。信託口口座の取り扱いの有無、最低預入金額、口座維持手数料、キャッシュカードやネットバンキングの利用可否、開設までの審査期間、専門家との連携実績、開設手数料といった複数の観点から金融機関を比較し、家族信託に精通した専門家と連携しながら手続きを進めることが、時間的にも金銭的にも負担の少ない口座開設につながります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次