高齢化社会が進む日本では、「おひとりさま」と呼ばれる身寄りのない方が年々増加しています。総務省の調査によると、65歳以上の一人暮らし高齢者は約674万人にのぼり、全高齢者の約23%(およそ4人に1人)が一人暮らしをしている状況です。そして、この数字は今後も増加すると予測されています。
「身寄りがないから終活は必要ない」と考えている方もいるかもしれませんが、実は身寄りがない方こそ、終活が重要なのです。身寄りがない方が終活をしないままでいると、孤独死や財産の行き先、医療や介護に関する様々な問題が発生する可能性があります。
終活とは、単に「死に備える準備」ではなく、自分らしい人生の締めくくりを迎えるための準備であり、残りの人生を充実させるためのものでもあります。本記事では、身寄りのない方が安心して老後を過ごし、最期まで自分らしく生きるために必要な終活の知識を詳しく解説していきます。

身寄りのない人が終活をすべき理由とは?孤独死や財産管理のリスクについて
身寄りのない人は「家族に迷惑をかける心配がないから終活は必要ない」と考えがちですが、実はそれは大きな誤解です。終活をしないことで、様々なリスクが生じる可能性があります。
孤独死のリスクが高まる
身寄りがなく、見守りサービスなどを利用していないと、体調が急変した際に誰にも気づかれないまま亡くなってしまう「孤独死」のリスクが高まります。東京都の調査によると、65歳以上の高齢者の孤独死は年々増加傾向にあります。
孤独死は本人にとって不幸なだけでなく、発見が遅れると近隣住民に異臭や虫の発生などの問題を引き起こし、結果的に周囲に迷惑をかけることになります。また、救急搬送や病院での治療が間に合わず、救えるはずの命が失われてしまうケースもあります。
身元保証人・身元引受人の問題
病院への入院や介護施設への入所時には、身元保証人や身元引受人が必要になることが多いです。身寄りがない場合、この保証人を立てられないため、緊急時に入院できない、希望する施設に入所できないといった事態が発生する可能性があります。
実際に多くの医療機関や介護施設では、入院・入所の条件として身元保証人を求めています。身寄りがない方は、元気なうちに身元保証サービスなどの利用を検討する必要があるでしょう。
財産が希望しない人に渡るリスク
遺言書を作成せずに亡くなると、法定相続人に財産が渡ります。身寄りがないと思っていても、法律上は遠い親戚が相続人になる場合があります。例えば、配偶者や子供がいない場合、親や兄弟姉妹、さらにはその子(甥・姪)が相続人となります。
長年疎遠だった親族に財産が渡ることを望まない場合や、お世話になった友人や団体に感謝の気持ちとして財産を残したい場合には、遺言書の作成が不可欠です。また、相続人が全くいない場合、最終的に遺産は国庫に帰属します。
希望しない葬儀や埋葬方法になるリスク
身寄りがない人が亡くなった場合、葬儀や埋葬は親族に依頼されますが、親族が遠方にいたり、疎遠だったりすると、本人の希望とは異なる形で葬儀が行われる可能性があります。また、親族が葬儀や埋葬を断った場合や戸籍をたどっても親族がいない場合は、自治体が最低限の火葬や埋葬を行いますが、本人の希望は反映されません。
特定の宗教や形式で葬儀を行いたい、希望する場所に埋葬してほしいなどの願いがある場合は、事前に葬儀社と生前契約を結ぶなどの対策が必要です。
身寄りなしの人が行うべき終活の具体的な内容は?エンディングノートから身元保証まで
身寄りのない方が行うべき終活には、以下のような内容があります。自分の状況に合わせて、優先順位をつけながら進めていくとよいでしょう。
エンディングノートの作成
エンディングノートは、自分の人生の最期に関する希望や思いを記録するノートです。法的拘束力はありませんが、自分の希望を関係者に伝えるための重要なツールとなります。
記載すべき主な項目は以下の通りです:
- 自分自身のプロフィールや大切にしている価値観
- 財産や保険の情報
- 医療や介護に関する希望(延命治療の有無など)
- 葬儀やお墓に関する希望
- 大切な人へのメッセージ
- SNSなどのデジタル情報の扱い方
- ペットがいる場合はその引き取り先
エンディングノートは市販のものを購入するか、専用のウェブサイトからダウンロードして利用できます。作成後は、定期的に内容を更新し、信頼できる人や専門家に保管場所を伝えておくことが大切です。
見守りサービスの利用
身寄りがない方は、定期的に安否確認をしてくれる見守りサービスの利用を検討しましょう。見守りサービスには以下のようなものがあります:
- 訪問型サービス:定期的に訪問して安否確認をしてくれるサービス
- 宅配型サービス:食事や日用品の配達を通じて安否確認をするサービス
- 機器型サービス:センサーや専用端末を利用して異常を検知するサービス
また、地域のコミュニティに参加して近隣住民との交流を持つことも、間接的な見守り効果が期待できます。自治体によっては、一人暮らし高齢者向けの見守りサービスを無料または低額で提供している場合もあるので、お住まいの自治体に問い合わせてみるとよいでしょう。
老後資金の計画
終活の一環として、老後資金の計画も立てておきましょう。具体的には以下の3点を把握することが重要です:
- 現在の生活費:毎月の固定費や変動費を把握する
- 預貯金などの資産状況:現在の貯蓄額と運用状況を確認する
- 将来の年金受給額:「ねんきんネット」などで確認する
これらを踏まえて、年金で補いきれない分を貯蓄から切り崩す計画を立てます。また、介護や入院などの万が一の備えも考慮に入れておく必要があります。資金が不足する場合は、リバースモーゲージ(自宅を担保にした借入)や自宅のリースバックなども検討しましょう。
持ち物の整理
生前整理として、持ち物を減らしておくことも大切な終活の一つです。物の整理は体力も時間もかかるため、元気なうちから始めるのがおすすめです。
整理の手順は以下の通りです:
- 部屋や収納スペースごとに分けて整理する
- 「必要なもの」「処分するもの」「迷うもの」に分類する
- 処分するものは、売却・寄付・廃棄などの方法で手放す
- デジタルデータ(スマホ、PC内のデータ、SNSアカウントなど)も整理する
持ち物を減らすことで、将来的に引っ越しや施設入所が必要になった際の負担も軽減できます。また、自分の死後に遺品整理をする人の負担も減らせます。
身元保証サービスの検討
身寄りがない方は、万が一の入院や施設入所に備えて身元保証サービスの利用も検討しましょう。身元保証サービスとは、本人に代わって以下のような役割を担ってくれるサービスです:
- 入院・入所時の身元引受人となる
- 医療費や施設費用の支払い保証をする
- 入退院の手続きをサポートする
- 日常生活上の各種手続きを代行する
身元保証サービスは民間企業や一般社団法人などが提供しており、利用には入会金や年会費などの費用がかかります。サービス内容や費用は事業者によって異なるため、複数の事業者を比較検討することをおすすめします。
身寄りなしでも安心できる!見守りサービスと身元保証サービスの選び方
身寄りのない方が安心して老後を過ごすためには、見守りサービスと身元保証サービスの活用が重要です。それぞれのサービスの選び方について詳しく見ていきましょう。
見守りサービスの種類と選び方
見守りサービスは大きく分けて以下の3種類があります:
1. 人による見守り
- 訪問型:ヘルパーや民生委員が定期的に訪問
- 配食サービス:食事の配達を通じて安否確認
- 電話確認:定期的に電話で安否確認
2. 機器による見守り
- センサー型:動きや電気・水道の使用状況から異常を検知
- 緊急通報装置:体調不良時にボタンを押して通報できる装置
- 見守りカメラ:カメラで状況を確認(プライバシーへの配慮が必要)
3. 生活データによる見守り
- 電気・ガス・水道:使用状況から異常を検知するサービス
- 郵便物の確認:郵便物のたまり具合で安否確認
見守りサービスを選ぶ際のポイントは以下の通りです:
- 自分の生活スタイルに合っているか:プライバシーを重視するなら機器型、人との交流も望むなら訪問型など
- 料金体系が明確か:月額費用や初期費用、追加料金などを確認
- 緊急時の対応体制は整っているか:24時間対応か、緊急連絡先はどうなっているかなど
- サービス提供会社の信頼性:運営年数や利用者の評判をチェック
自治体によっては、低所得者向けに無料または低額で見守りサービスを提供している場合もあるので、まずは地域の高齢者福祉課などに相談してみるとよいでしょう。
身元保証サービスの選び方
身元保証サービスを選ぶ際には、以下のポイントをチェックしましょう:
1. サービス内容の確認
- 保証の範囲:入院時の保証のみか、施設入所時の保証も含まれるか
- 生活支援の有無:買い物代行や通院付き添いなどのサービスはあるか
- 死後事務の対応:葬儀や埋葬、各種手続きなどの対応も含まれるか
2. 料金体系の確認
- 初期費用:入会金や契約金などの初期費用はいくらか
- 継続費用:年会費や月額利用料はいくらか
- 追加料金:オプションサービスの料金や緊急時の追加料金はあるか
3. 会社の信頼性
- 運営実績:何年の実績があるか、これまでの対応件数はどれくらいか
- スタッフ体制:24時間対応可能か、専門スタッフはいるか
- 財政状況:会社の経営は安定しているか(預け金を払う場合は特に重要)
4. 契約内容の明確さ
- 契約書の内容:サービス内容や料金が明確に記載されているか
- 解約条件:解約時の返金や手続きはどうなっているか
- トラブル時の対応:苦情対応の窓口や過去の対応事例はあるか
身元保証サービスは比較的新しいサービスであり、悪質な業者も存在します。契約前には複数の会社を比較し、可能であれば司法書士や社会福祉士などの専門家に相談することをおすすめします。
身寄りのない人の財産はどうなる?遺言書と死後事務委任契約の重要性
身寄りのない方が亡くなった場合、財産の行方や死後の手続きはどうなるのでしょうか。ここでは、遺言書の作成と死後事務委任契約の重要性について解説します。
遺言書がない場合の財産の行方
遺言書を残さずに亡くなった場合、民法で定められた法定相続人に財産が引き継がれます。相続人の優先順位は以下の通りです:
- 配偶者:常に相続人となる
- 第一順位:子供や孫(直系卑属)
- 第二順位:親や祖父母(直系尊属)
- 第三順位:兄弟姉妹やその子(甥・姪)
例えば、配偶者がおらず子どもがいない場合、親が相続人となります。親も既に亡くなっている場合は兄弟姉妹、さらにその子(甥・姪)へと相続権が移っていきます。
もし上記の法定相続人が全くいない場合(相続人不存在)、最終的に財産は国庫に帰属します。この場合、特別縁故者(生前に被相続人と特別な関係があった人)は、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをすることで、財産の全部または一部の分与を受けられる可能性があります。
遺言書の重要性と作成方法
身寄りのない方にとって、遺言書の作成は特に重要です。遺言書があれば、以下のようなことが可能になります:
- 法定相続人以外の人(友人や知人など)に財産を遺贈できる
- 生前にお世話になった施設や団体に寄付できる
- 複数の相続人がいる場合に、特定の人に財産を集中させることができる
遺言書の種類には主に以下のものがあります:
- 自筆証書遺言:自分で全文を書き、日付と氏名を書いて押印する方法
- 公正証書遺言:公証人の前で遺言内容を口述し、公証人が作成する方法
- 秘密証書遺言:遺言者が作成した遺言書を封筒に入れ、公証人に提出する方法
法的トラブルを避けるためには、公正証書遺言がもっとも確実です。公正証書遺言は、公証人と証人2名の立会いのもとで作成するため、内容の真正性が高く、紛失や偽造のリスクも低いです。費用は内容にもよりますが、一般的に1万円から5万円程度です。
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約とは、自分の死後に必要となる様々な手続きを、あらかじめ信頼できる人や専門家に依頼しておく契約です。身寄りのない方にとって、遺言書と並んで重要な終活の一つです。
死後事務委任契約で依頼できる主な内容は以下の通りです:
- 葬儀・埋葬に関する手続き
- 各種解約手続き(家賃、光熱費、保険など)
- 入院・入所していた施設への支払い手続き
- 遺品の整理や処分
- 行政手続き(死亡届の提出など)
死後事務委任契約の相手としては、以下のような選択肢があります:
- 信頼できる友人や知人
- 司法書士・行政書士などの専門家
- 終活支援や身元保証を行う民間企業や団体
契約を結ぶ際には、委任する内容を具体的に決め、費用や報酬についても明確にしておくことが重要です。また、契約書は公正証書にすることで、法的な効力がより確実になります。
遺言執行者の指定
遺言書を作成する際には、遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
遺言執行者には以下のような権限と責任があります:
- 相続財産の管理
- 遺贈の履行(財産を受け取る人への引き渡し)
- 遺産分割協議への参加
- 各種名義変更などの手続き
遺言執行者には、信頼できる友人や知人、あるいは弁護士や司法書士などの専門家を指定することができます。身寄りのない方の場合、専門家を遺言執行者に指定しておくと安心です。
身寄りなしの終活にかかる費用はいくら?自治体サポートの活用法
身寄りのない方の終活には、様々な費用がかかります。ここでは、主な費用の目安と、費用を抑えるための自治体サポートの活用法について解説します。
終活にかかる主な費用の目安
身寄りのない方の終活にかかる主な費用は以下の通りです:
1. 身元保証サービス
- 入会金:5万円〜30万円
- 年会費:3万円〜10万円
- 預託金:20万円〜100万円(死後の費用に充てるための預け金)
2. 死後事務委任契約
- 契約書作成料:3万円〜10万円
- 公正証書作成費用:1万円〜2万円
- 執行報酬:30万円〜100万円(内容による)
3. 遺言書の作成
- 自筆証書遺言:基本的に無料(法務局保管制度を利用する場合は約3,900円)
- 公正証書遺言:1万円〜5万円
- 弁護士・司法書士への相談料:1万円〜5万円程度
4. 葬儀・埋葬の事前準備
- 生前契約の手数料:0円〜3万円
- お墓の購入:50万円〜300万円
- 永代供養:20万円〜100万円
5. 見守りサービス
- 機器型:初期費用5千円〜3万円、月額500円〜5千円
- 訪問型:月額5千円〜2万円
全てを合わせると、身寄りのない方の終活には平均して200万円〜300万円程度の費用がかかると言われています。ただし、これはあくまで目安であり、選ぶサービスやオプションによって大きく変動します。
終活費用を抑えるための自治体サポート
終活にかかる費用を抑えるために、自治体が提供している様々なサポートを活用することをおすすめします。
1. 無料または低額の見守りサービス
多くの自治体では、高齢者向けの見守りサービスを無料または低額で提供しています。例えば:
- 民生委員による定期訪問
- 配食サービスを通じた安否確認
- 緊急通報システムの貸与
これらのサービスは、自治体の高齢者福祉課や地域包括支援センターに問い合わせることで利用できます。
2. 成年後見制度の利用支援
判断能力が低下した場合に備えて、成年後見制度の利用も検討すべきです。自治体によっては、以下のような支援を行っています:
- 成年後見制度利用支援事業(申立費用の助成)
- 市民後見人の育成・活用
- 法律相談会の開催
特に低所得者の場合、成年後見人の報酬を自治体が負担してくれるケースもあります。
3. 終活セミナーや相談窓口
多くの自治体では、終活に関するセミナーや相談窓口を開設しています:
- 終活セミナー(エンディングノートの書き方など)
- 無料法律相談会
- 終活アドバイザーによる個別相談
これらの情報は、自治体の広報誌やホームページで確認できます。
4. 低所得者向けの葬祭扶助
低所得者の場合、以下のような制度を利用できる可能性があります:
- 生活保護受給者向けの葬祭扶助(最大約20万円)
- 国民健康保険の葬祭費支給(3〜5万円程度)
- 各種共済会の葬祭費用の給付
これらの制度は、事前に条件や申請方法を確認しておくことが重要です。
各種制度の併用と事前準備のポイント
終活費用を抑えるためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です:
- 複数の制度を組み合わせる:自治体サービス、民間サービス、保険などを組み合わせて活用する
- 早めに情報を集める:元気なうちから情報収集し、計画を立てておく
- 定期的に見直す:制度の内容や自身の状況の変化に合わせて定期的に見直す
- 専門家に相談する:必要に応じて、社会福祉士や司法書士などの専門家に相談する
特に身寄りのない方は、自分一人で全ての準備を進めるのは難しいことが多いです。地域包括支援センターや社会福祉協議会などの公的機関に相談し、適切なサービスや制度につないでもらうことも検討しましょう。
身寄りがなくても、地域社会のサポートを上手に活用することで、安心して老後を過ごし、最期まで自分らしく生きることができます。自分に合った終活を進め、残りの人生を充実したものにしていきましょう。
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