終活をしないまま放置される親は少なくありません。認知症による資産凍結や相続トラブル、空き家問題など、老後の生活に直結するリスクは、備えを先延ばしにするほど大きくなっていきます。終活という言葉自体はすでに広く知られていて、認知度は96パーセントに達しているというデータもあるようですが、実際に取り組んでいる人はおよそ2割にとどまっているのが実情です。「必要だとは思っているけれど、まだ手をつけていない」という高齢者が多く、親子のあいだで終活の話題そのものが交わされていないケースも目立ちます。この記事では、終活をしない親をそのまま放置した場合にどのようなリスクが生じるのか、そして家族としてどう向き合えばよいのかを、具体的なデータを交えながら整理していきます。

終活の認知度は96%でも実施率は2割程度にとどまる
終活という言葉を知っている人の割合は96パーセントというデータがある一方、実際に何らかの終活を行っている人はおよそ20パーセントにすぎません。終活の必要性を感じている高齢者は82.4パーセントにのぼるものの、実際に取り組んでいるのは23.8パーセントという調査結果もあります。さらに、親子で終活について話し合ったことがない割合は69.7パーセントにのぼるという数字もあり、親の側は話すきっかけをつかめず、子の側は切り出しにくいと感じている構図が浮かびます。まだ元気だから、縁起でもない話はしたくないという気持ちは自然なものですが、終活は死の準備だけを意味するわけではありません。判断能力が急に失われたときに家族が困らないための、いわば老後の危機管理でもあります。
60代は先延ばし、70代・80代は面倒さが理由の中心に
終活をしない理由は、年代によって傾向が変わります。60代では「まだ終活する年齢ではないと感じるから」という回答が31.3パーセントと最も多く、自分はまだ元気で終活はもっと先でいいと考える人が中心です。一方、70代・80代になると「面倒に感じるから」という回答がそれぞれ26.8パーセント、27.0パーセントで最多になります。年齢が上がるにつれて、まだ早いという認識から、やらなければとは思うが億劫だという認識へと理由が移り変わっていくわけです。財産の整理や書類の準備、法律的な手続きへの心理的なハードルの高さも、この面倒くささの背景にあります。子の世代からすれば、まさかそこまで先延ばしにするとは思わないうちに、気づけば親の判断能力が低下していた、というケースも珍しくありません。
認知症の進行で口座が実質凍結され不動産も売却できなくなる
親が終活をしないまま認知症で判断能力を失うと、最初に直面するのが資産凍結の問題です。認知症が進行してATMの操作や暗証番号の管理が難しくなると、金融機関は本人の意思確認ができないと判断し、口座の取引を厳しく制限します。家族であっても、正式な後見の手続きを経ていなければ、本人名義の口座から介護費用や医療費を自由に引き出すことはできません。
不動産も同様です。法律上の意思能力がないと判断されれば、本人が売買契約を結ぶことはできなくなります。介護施設の入居資金を確保しようと自宅を売却したくても、本人の意思確認ができない以上、簡単には手続きを進められず、資金繰りに行き詰まる可能性があります。遺言書の作成や生前贈与といった契約行為も同じで、意思能力が失われると選べなくなります。相続対策として本来なら選べたはずの選択肢が、認知症の進行とともにどんどん狭まっていくのです。
家族信託と任意後見は判断能力があるうちしか使えない
判断能力が十分にあるうちであれば、家族信託や任意後見制度を使って将来に備えた財産管理の体制を整えられます。ところが判断能力が失われたあとは、選択肢が法定後見制度など限られたものになります。法定後見制度は家庭裁判所が後見人を選任する仕組みで、必ずしも家族が選ばれるとは限らず、専門職の後見人が選任されると継続的な報酬の負担が発生することもあります。後見人には家庭裁判所の監督のもとで厳格な財産管理義務が課されるため、相続税対策としての生前贈与や資産の組み替えといった柔軟な対応も難しくなります。専門家のあいだでは、親が元気なうちに準備を始めるのが鉄則とされています。
相続トラブルの過半数は遺産分割をめぐる対立
親が遺言書を残さないまま亡くなると、残された家族のあいだで深刻な対立が生まれることがあります。遺産相続をめぐる親族間の争いは「争族」と呼ばれるほど身近な問題です。相続トラブルの経験者を対象にした調査では、トラブルの内容として最も多かったのが遺産分割に関するトラブルで、経験者の半数以上がこれに該当すると回答しています。遺留分や寄与分など、自分の取り分をめぐる争いが大半を占めているのが実態です。トラブルの相手として多いのは自分の兄弟姉妹で、次いで被相続人の兄弟姉妹も約28パーセントにのぼります。良好だったはずのきょうだい関係が、相続をきっかけに疎遠になったり絶縁状態に陥ったりするケースも珍しくありません。
遺言書の有無が争族を防ぐ分かれ目になる
遺言書がない場合、相続人は法定相続分を基準に遺産分割協議という話し合いを行う必要があります。実家などの不動産のように簡単に分割できない財産が遺産の大部分を占めていると、誰が住むのか、売却するのか、他の相続人にどう代償金を支払うのかといった論点で対立が先鋭化しやすくなります。相続トラブルを経験した人のうち、自分の納得のいく形で決着したと回答したのは約37パーセントにとどまり、納得のいかない形で決着したが約39パーセント、うやむやなまま相続してしまったが12パーセントという結果もあります。相続を経験した人の半数以上が、何らかの不満やしこりを抱えたまま手続きを終えているわけです。遺言書を残しておくだけで、こうした対立の芽をあらかじめ摘める可能性が高くなります。
空き家放置は固定資産税の増加と損害賠償責任を招く
親が実家に住み続けているあいだはよいのですが、介護施設への入居や死亡後に実家が空き家となり、そのまま放置されるケースが増えています。建物は人が住まなくなると急速に劣化が進み、老朽化した空き家は地震や台風の際に倒壊したり、外壁や屋根が破損して飛散したりする危険性が高まります。管理されない状態が続くほど、修繕にかかる費用も膨らんでいきます。
税金の面でも負担が増えます。人が居住する住宅の敷地には住宅用地の特例が適用され固定資産税が軽減されていますが、適切に管理されていない空き家として自治体から特定空き家に指定されると、この特例が解除され、固定資産税の負担が大幅に増えてしまいます。法的な責任も見逃せません。老朽化した塀が崩れたり屋根材が落下したりして近隣の人にけがをさせた場合、所有者は民法上の損害賠償責任を問われる可能性があります。
相続登記の義務化で過料10万円のリスクも生まれた
令和6年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から原則として3年以内に登記の申請を行う必要があり、正当な理由なくこの義務に違反すると、10万円以下の過料が科される可能性があります。実家の名義変更をそのうちやろうと先延ばしにしていると、知らないうちに義務違反の状態になってしまうおそれがあります。親が生前に自宅の将来的な扱いについて意向を示しておらず、子どもたちのあいだでも話し合いが行われていないと、こうした空き家問題への対応はますます遅れがちになります。
65歳以上の孤独死は年間5万8千人規模で高止まりしている
一人暮らしの高齢の親が終活を先延ばしにしている場合、孤独死・孤立死のリスクも見過ごせません。警察庁の集計によると、自宅で亡くなった一人暮らしの高齢者の数は5万8千人台にのぼり、前年からほぼ横ばいで推移しています。全国の警察が取り扱った遺体のうち、自宅で見つかった独居者の中で65歳以上が占める割合は約76パーセントにのぼり、年齢層別では85歳以上が最も多く、次いで75歳から79歳、80歳から84歳と続きます。単独世帯の割合は全世帯の4割近くに達しており、高齢化率の上昇とあわせて、今後も孤独死・孤立死による死者数が増加していく可能性が懸念されています。
孤独死そのものを完全に防ぐのは簡単ではありませんが、終活の一環として緊急連絡先の整理や見守りサービスの利用、近隣や地域包括支援センターとのつながりを作っておくことで、発見が遅れるリスクや対応が後手に回るリスクを減らせます。孤独死が発生した場合、その後の遺品整理や特殊清掃、賃貸物件であれば原状回復といった負担も家族にのしかかってきます。
介護方針の不在がきょうだい間の意見対立を招く
高齢になると、転倒や脳卒中、認知症などをきっかけに、ある日突然介護が必要な状態になることが少なくありません。事前に本人の希望や介護の方針を話し合っておかないと、いざというときに家族が右往左往してしまいます。どの施設に入りたいか、延命治療についてどう考えているか、自宅での介護と施設での介護のどちらを望むかといった本人の意向を元気なうちに確認できていないと、判断が必要になったときにきょうだい間で意見が割れてしまうこともあります。遠方に住むきょうだいと近くに住むきょうだいのあいだで、介護の負担や費用の分担をめぐって温度差が生まれやすく、これが後の関係悪化につながることもあります。
突然の入院や施設入居の際には身元保証人の手配や各種契約手続きが必要になりますが、持病の内容や服薬状況、かかりつけ医、保険証や年金手帳の保管場所といった情報が整理されていないと、家族が慌ただしく情報を探し回ることになります。エンディングノートにこうした情報をまとめておくだけでも、いざというときの家族の負担は大きく軽減されます。
認知症に備えるなら家族信託と任意後見を判断能力があるうちに検討する
親がまだ元気なうちに検討しておきたいのが、将来の判断能力の低下に備えた財産管理の仕組みです。代表的なものとして家族信託、任意後見制度、法定後見制度の三つが挙げられます。
家族信託は、親が保有する不動産や預貯金などの財産を信頼できる家族に託し、その管理・運用・処分を任せる仕組みです。契約の内容を柔軟に設計できるため、たとえば介護施設の入居費用が必要になったら自宅を売却してよいといった条件をあらかじめ盛り込んでおけます。判断能力が失われる前に契約を結んでおく必要があるため、早めの検討が欠かせません。
任意後見制度は、本人の判断能力が十分あるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて後見人となる人とあらかじめ契約を結んでおく制度です。誰を後見人にするか、どこまでの権限を与えるかを本人の意思で決めておける点がメリットです。一方、法定後見制度はすでに判断能力が低下したあとに家庭裁判所が後見人を選任する制度で、必ずしも家族が選ばれるとは限りません。だからこそ、判断能力がしっかりしているうちに家族信託や任意後見制度を検討しておくことが重要だとされています。
遺言書は公正証書遺言が安心、付言事項で対立を和らげられる
相続トラブルを未然に防ぐ効果的な手段のひとつが遺言書の作成です。遺言書があれば、法定相続分にとらわれず本人の意思に沿った形で財産を分配でき、相続人同士の話し合いが難航するリスクを大きく減らせます。遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言などの種類がありますが、要式の不備によって無効になるリスクを避けたい場合や、内容の正確性・保管の確実性を重視する場合には、公証役場で作成する公正証書遺言が安心とされています。弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に相談しながら作成を進めることで、法的な不備を防ぎ、本人の意向をより正確に反映させられます。
遺言書の作成では、財産の分配方法を決めるだけでなく、なぜそのような分配にしたのかという理由を付言事項として書き添えることもできます。これにより相続人が納得感を持ちやすくなり、感情的な対立を和らげる効果も期待できます。
エンディングノートは親子で一緒に書くと抵抗感が薄れる
遺言書のように法的な効力はないものの、終活の入り口として取り組みやすいのがエンディングノートです。財産の一覧、医療や介護に関する希望、葬儀やお墓についての考え、大切な人へのメッセージなど、決まった形式はないものの、家族に伝えておきたい情報を自由に書き記していきます。一度書いて終わりにするものではなく、何度も見直しながら育てていくものだと考えるとよいでしょう。最初からすべての項目を埋める必要はなく、まずは気になる項目、書きやすい項目から手を動かしてみることが大切です。誕生日や年末年始といった節目のタイミングで見直す習慣をつけたり、数カ月に一度読み返したりするだけでも、内容は自然と充実していきます。
親にエンディングノートを書いてもらいたい場合、いきなり本人にだけ渡すと、高齢者扱いされていると感じさせてしまうことがあります。自分自身の分もエンディングノートを用意し、親子で一緒に書き進める方法がおすすめです。世代を問わず誰にとっても必要なものだという姿勢を示すことで、親も抵抗感なく取り組みやすくなります。
デジタル遺品はパスワードがわからないトラブルが最多
近年、終活を考えるうえで見落とされがちなのがデジタル遺品の問題です。スマートフォンやパソコンに保存されたデータ、ネット銀行やネット証券の口座、SNSアカウント、クラウドストレージ内の写真や書類は、本人が生前に情報を整理しておかなければ家族が把握することすら難しい財産です。デジタル遺品に関する相談で最も多いのは、パスワードがわからないという悩みです。スマートフォンには一定回数パスワードを間違えるとデータが初期化される仕組みが標準で搭載されていることが多く、家族が誕生日や電話番号を手当たり次第に試すのは、かえってデータを完全に失うリスクを高めてしまいます。パスワードがどうしてもわからない場合は、無理に自分たちで解除しようとせず、専門の業者に相談するのが無難です。
通帳や証書などの紙の書類が存在しないネット銀行やネット証券は特に注意が必要です。本人しかログイン情報を知らない状態のまま亡くなると、家族はその資産の存在にすら気づけず、相続財産から漏れてしまう可能性もあります。口座の一覧やおおまかな資産状況をエンディングノートに記録しておいてもらうこと、あるいは家族の誰かとパスワード情報を安全な形で共有しておいてもらうことが、こうしたトラブルを防ぐ有効な対策になります。
老後の生活費は夫婦で月23.9万円、ゆとりには39.1万円が必要
終活というと財産管理や相続対策、介護方針に目が向きがちですが、老後の生活資金がどの程度あるのかを家族で共有しておくことも、終活の一部だといえます。生命保険文化センターの調査によれば、夫婦2人の老後の最低日常生活費は月額23.9万円、ゆとりある老後生活を送るための費用は月額39.1万円とされています。65歳以上の単身無職世帯の平均支出は月々15万5,495円、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では合計で月々26万8,508円という統計データもあります。年金の受給額の目安はおおよそ月5.7万円から14.6万円程度とされており、年金だけでは生活費を賄いきれず、貯蓄の取り崩しが前提となっている家庭が少なくありません。
世帯主が65歳以上の2人世帯における貯蓄額は、貯蓄保有世帯の平均で2,462万円、中央値では1,604万円という調査結果があり、60代以上のうち3割以上が2,000万円以上の貯蓄を保有しているというデータもあります。ただしこれはあくまで平均や中央値であり、実際の資産状況は各家庭で大きく異なります。親がどの程度の資産や年金収入を持っているのかを子ども世代が把握していないと、介護施設への入居や医療費の負担が必要になったときに資金計画を立てられず慌ててしまいます。細かい金額まで把握する必要はなくても、介護が必要になったときにどの程度の資金を充てられそうかという大まかな見通しだけでも、親子で共有しておくことが望ましいでしょう。
実家の生前整理は転倒事故の防止にも直結する
終活のなかでも、日々の暮らしの安全に直結するのが実家の片付けや生前整理です。物が増えたまま整理されずに放置されている実家では、床に物が積み上がっていたり、廊下に段ボールが置かれていたりすることも珍しくありません。年齢を重ねると足が十分に上がらなくなり、ちょっとした段差やわずかな障害物でもつまずいて転倒し、骨折などの大きな怪我につながることがあります。生前整理を進めて部屋を片付けておくことは、こうした転倒事故を防ぐという意味でも効果があります。
生前整理は、本人が亡くなったあとに家族が行う遺品整理の負担を軽減する意味でも重要です。何がどこにあるのか、どの品物が本人にとって大切なものなのかを本人が生きているうちに確認できていれば、遺品整理の際に家族が判断に迷う場面を大きく減らせます。生前整理を通じて親の財産の全体像を把握しておければ、死後の相続手続きや各種の名義変更もスムーズに進めやすくなります。
実家の片付けを進める際にもっとも注意したいのは、親や家族の持ち物を子どもの判断で勝手に処分しないことです。子どもの目にはガラクタに見える品物であっても、本人にとっては人生の思い出が詰まった大切な品であることも少なくありません。自分の物は自分で整理するというルールを守り、親のペースに合わせて片付けを進めることが、親子の関係をこじらせないためのコツです。片付けの作業を思い出話を聞く時間として捉え、無理に急がせず少しずつ一緒に進めていく姿勢が大切だといえるでしょう。
親への切り出し方は日常会話の延長から始めるとうまくいく
終活の話題は、いきなり切り出すと親に抵抗感を抱かせてしまいがちです。まずは日常の会話の延長として、老後をどのように過ごしたいか、旅行に行きたい場所はあるかなど、他愛もない楽しい話題から始めてみるとよいでしょう。構えすぎた態度は親にも伝わってしまい、かえって話しにくい雰囲気を作ってしまいます。終活やエンディングノートをテーマにした本やドラマ、映画などを一緒に見るのもひとつの方法です。作品の感想を言い合うなかで、自然と終活の話題に触れられ、直接切り出すよりも心理的なハードルが下がります。
終活の話を死の準備としてではなく、これからの人生をより安心して楽しむための準備として位置づけて伝えることも効果的です。財産管理や相続の話は無機質に聞こえがちですが、もしものときに家族が困らないように、そして自分自身も安心して暮らせるようにという前向きな目的を共有すると、親も前向きに受け止めやすくなります。
専門家への相談で家族だけで抱え込まずに済む
家族信託や任意後見制度、遺言書の作成、相続対策は法律や税務の専門知識が必要になる場面が多く、家族だけで判断するのが難しいケースも少なくありません。弁護士、司法書士、行政書士、税理士、ファイナンシャルプランナーなど、それぞれの専門分野に応じた専門家に早めに相談することで、家庭の状況に合った対策を選びやすくなります。自治体の相談窓口や地域包括支援センターでも、介護や福祉に関する相談を受け付けている場合があります。無料相談会を実施している専門家事務所も多いため、まずは気軽に情報収集の目的で相談してみるのもよいでしょう。専門家という第三者を交えることで、親子だけでは話しにくいお金や相続の話も、比較的冷静に進めやすくなります。
対策を先延ばしにするほど選べる手段は狭まっていく
終活をしない親を放置してしまうと、認知症による資産凍結、相続トラブル、空き家の放置による経済的・法的負担、孤独死のリスク、介護方針が定まっていないことによる家族の混乱など、さまざまな問題が現実味を帯びてきます。いずれのリスクにも共通しているのは、本人の判断能力がしっかりしているうちに動けるかどうかが、そのあとの選択肢の広さを大きく左右するという点です。認知症が進行してしまったあとでは、家族信託や任意後見制度、遺言書の作成といった、本人の意思をきちんと反映できる対策の多くが選べなくなってしまいます。まだ元気だから、縁起でもないからと先延ばしにしている今この瞬間こそが、最も対策を打ちやすいタイミングだといえるでしょう。
重い決断を迫るのではなく、日常会話の延長からさりげなく話題を広げ、エンディングノートを一緒に書いてみるところから始めてみてはどうでしょうか。小さな一歩の積み重ねが、将来、家族全員が安心して過ごせる老後につながっていきます。終活は親だけの問題でも、子だけの問題でもありません。財産管理、相続、空き家、孤独死、介護方針、デジタル遺品、老後資金、実家の片付けといった一つひとつのテーマは、親子が一緒に向き合うことで初めて前に進みます。放置すればするほど選択肢は狭まり、いざというときの家族の負担は重くなっていきます。逆にいえば、今日ほんの少しだけでも会話のきっかけを作れれば、それだけで将来のリスクを大きく減らせるはずです。判断能力や体力が十分にあるうちに一つでも多くの備えを済ませておくことが、結果として親自身の老後の安心につながり、残される家族の負担を最小限にとどめる、もっとも確実な方法だといえます。








