認知症と診断された親の終活は、判断能力が残っているうちに子どもが手続きの手伝いを進めることで、選べる選択肢を大きく広げられます。ただし遺言書の作成や不動産の売却など法律行為にあたる手続きは、本人の意思能力がなければ家族が代わりに実印を押すことはできません。認知症の親を持つ子どもがまず確認すべきなのは、親の判断能力がどの程度残っているかという点です。判断能力が残っている段階と、すでに低下してしまった段階とでは、取れる対策がまったく異なります。この記事では、医師の診断を受けるところから始まり、任意後見契約や家族信託といった法的対策、エンディングノートの作成支援、預金口座の凍結対策、法定後見制度の申立て、介護施設探し、相続対策まで、認知症の親の終活を子どもが代わりに進める際の具体的な手順を整理します。あわせて、2026年に成立した成年後見制度の改正内容や、きょうだい間で負担が偏らないための工夫についても触れていきます。

認知症の親の終活は子どもが完全代行できない
結論から書くと、認知症の親の終活を子どもがすべて代行することはできません。遺言書の作成、不動産の売却、預金の大きな引き出しといった法律行為は、本人に判断能力(意思能力)がなければ本人名義で行えず、家族が代わりに実印を押したり署名したりすることも原則として認められていません。
一方で、判断能力の程度は人によって一律ではありません。認知症の診断が出ていても、症状の程度によっては意思能力が部分的に残っているケースもあります。医師の診断などで本人が内容を理解し、必要な判断ができると認められれば、遺産分割協議への参加なども可能になる場合があります。認知症だからすべてが不可能になるわけではなく、まず本人の状態を正確に把握することが最初の作業になります。
判断能力が大きく低下してしまった後は、家族信託や任意後見といった本人の意思による契約は結べなくなり、家庭裁判所が支援者を選ぶ法定後見制度の利用が中心になります。事前に対策を打てるかどうかで、その後の進め方は大きく分かれます。
手順1:親の判断能力を医師の診断で確認する
最初にやるべきことは、親の判断能力がどの程度残っているかを客観的に確認することです。かかりつけ医や物忘れ外来、認知症専門医を受診し、長谷川式やMMSEなどの認知機能検査を受けてもらいます。この診断結果は、後述する成年後見制度の申立てや、任意後見契約を結べるかどうかを判断するうえで重要な材料になります。
診断を受けるタイミングが早ければ早いほど、本人の意思を反映した対策を取れる余地は広がります。逆に診断が遅れて症状が進行すると、選べる制度が限られ、結果的に家族の負担が増えることになります。物忘れや判断力の低下が少しでも気になった段階で、受診を検討したほうがよいでしょう。
手順2:判断能力が残るうちに結べる5つの契約
医師の診断で本人にまだ十分な判断能力があると確認できた場合は、本人の意思のもとで法的対策を進められます。認知症になる前に検討しておきたい代表的な手続きは、任意後見契約、財産管理等委任契約、公正証書遺言、家族信託、死後事務委任契約の5つです。
任意後見契約は支援者を本人があらかじめ選べる
任意後見契約は、本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に支援してほしい人をあらかじめ契約で決めておく制度です。誰に後見人になってもらうかを本人自身が選べる点が、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度との大きな違いです。
財産管理等委任契約は、判断能力がある間でも、身体的な理由で自分で財産管理をするのが難しい場合に、特定の人に管理を委任する契約です。任意後見契約とセットで結んでおくと、判断能力の低下前後を通じて途切れなくサポートを受けられます。
公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与して作成する遺言書です。自筆証書遺言に比べて無効になるリスクが低く、家庭裁判所の検認手続きも不要になります。判断能力があるうちに作成しておけば、相続発生後のトラブルを大きく減らせます。
家族信託なら口座凍結後も財産管理を止めずに済む
家族信託は、家族間で本人に代わって財産の管理を託せる制度です。委託者である親、受託者である子、受益者である親という関係を契約で定め、不動産の管理や売却、金銭の管理などを柔軟に設計できます。認知症による口座凍結が起きても、信託契約に基づいて託された家族が預貯金の引き出しなどを行えるのが大きな利点です。
死後事務委任契約は、本人が亡くなった後の葬儀や納骨、行政手続き、遺品整理などの事務を、あらかじめ決めた人に委任しておく契約です。身寄りが少ない場合や、子どもが遠方に住んでいる場合には、死後の手続きを円滑に進めるために有効です。
これらの契約は、本人に契約内容を理解し判断する能力があることが前提になります。少しでも判断能力に不安が出てきたら、公証役場や司法書士、弁護士に相談し、できるだけ早く手続きを進めておくことをおすすめします。
手順3:エンディングノートの作成をサポートする
エンディングノートには法的効力がありませんが、親の意思を家族が把握するうえで有効なツールです。遺言書は法的効力がある一方で厳格な要件があり、エンディングノートは自由度が高い代わりに法的効力がないという関係にあります。両方を併用すれば、法的な取り決めと本人の想いの両方を残せます。
親自身が書くのが難しい場合は、子どもが聞き取りをしながら代筆する形でも構いません。一般的には、本人の基本情報や資産状況、かかりつけ医療機関と服用中の薬、延命治療や介護に関する希望、葬儀やお墓に関する希望、家族や友人への連絡先、大切な人へのメッセージといった項目を記載します。
エンディングノートには重要な金融情報や個人情報が含まれるため、作成後は保管場所を家族と共有しつつ、簡単には見つからない安全な場所に保管するのが望ましいとされています。認知症が進行する前に、本人と一緒に少しずつ埋めていけば、後々の手続きがスムーズになります。
手順4:預金口座の凍結に代理人指定と家族信託で備える
認知症の親を持つ家族が直面しやすい問題のひとつが、銀行口座の凍結です。口座が凍結されるタイミングは、金融機関が本人の判断能力の低下を把握した時点になります。医師から認知症の診断書が出たからといって病院から銀行へ自動的に連絡が行く仕組みはありませんが、窓口での応対や家族からの相談をきっかけに金融機関側が気づくことがあります。
いったん口座が凍結されると、生活費や医療費、介護費用の引き出しが困難になり、家族が一時的に立て替えを強いられるケースも珍しくありません。凍結後は法定後見制度を利用することになりますが、申立てから成年後見人が決まるまで、医師の診断書作成や審査などで2ヶ月程度かかることが多く、その間の資金繰りに苦労することがあります。
こうした事態を避けるため、判断能力があるうちに対策を検討しておくことが重要です。預金者本人に判断能力がある間に、銀行の窓口で家族を代理人として指定しておく代理人指定手続きは、金融機関ごとに制度の名称や条件が異なりますが、70歳を過ぎた親のことが心配になってきたら早めに窓口で相談しておくとよいでしょう。前述の家族信託を組んでおけば、口座凍結が起きても信託契約に基づいて家族が預貯金を引き出せます。任意後見契約を結んでおけば、判断能力が低下した後も家庭裁判所の監督のもとで財産管理を続けられます。
なお、全国銀行協会は家族による預金引き出しに関する指針を示しており、医療費や介護費用など本人の利益になる使途であれば、一定の条件のもとで家族が代理で引き出せる運用を進める金融機関も増えています。対応は金融機関ごとに異なるため、事前にメインバンクへ相談しておくと安心です。
軽度な段階では日常生活自立支援事業も選択肢になる
親の判断能力の低下がまだ軽度で、後見制度を使うほどではないと感じる場合には、社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業も検討に値します。これは、認知症高齢者や知的障害者、精神障害者のうち判断能力が不十分な方が地域で自立した生活を送れるよう、社会福祉協議会が利用者との契約に基づいて支援する事業です。
対象になるのは、軽い認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方で、福祉サービスの利用手続きに不安がある、あるいは預金の出し入れや公共料金の支払い、重要書類の保管を一人で行うことに不安があるといったケースです。認知症の診断や障害者手帳の取得がなくても利用できる点がポイントです。
サービス内容には、福祉サービスの利用に関する情報提供や相談、契約の代行、日常生活に必要な範囲での預貯金の払い戻しや預け入れ、公共料金の支払いの支援、年金証書や保険証書といった大切な書類を保管する支援などが含まれます。
ただし、この事業を利用するには本人にサービスを利用する意思があり、契約の内容をある程度理解できることが前提となります。判断能力の低下が進んでからでは利用できなくなる可能性があり、後見制度と同様、早めの相談が鍵になります。窓口は、お住まいの地域の社会福祉協議会です。まずは電話や来所で相談し、支援計画の作成や契約手続きを進める流れになります。法定後見制度に比べて手続きが簡易で費用も抑えられることが多いため、本格的な後見制度を使うほどではないが日常のお金の管理に少し不安が出てきたという段階の親を持つ家族にとって、現実的な中間的選択肢のひとつといえます。
手順5:法定後見制度の申立てで後見人を選任してもらう
親の判断能力がすでに大きく低下してしまい、任意後見契約や家族信託を新たに結ぶことが難しい場合は、法定後見制度の利用を検討します。法定後見制度は、認知症や障がいなどにより判断能力が不十分になった方のために、支援する後見人等を家庭裁判所が選び、財産管理や生活のサポートを行う制度です。
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助の3類型に分かれています。判断能力の低下が最も重い場合が後見、中程度であれば保佐、軽度であれば補助が適用されます。
手続きの大まかな流れは、かかりつけ医に本人の状態を診断してもらい診断書を準備したうえで、家庭裁判所へ後見開始(または保佐・補助開始)の審判の申立てを行い、申立書や戸籍謄本、財産目録などの関係書類を提出するところから始まります。その後、家庭裁判所の担当者が申立人や後見人候補者と面談を行い、必要に応じて医師による鑑定が実施され、最終的に家庭裁判所が審判を下して後見人等が選任されます。
申立てができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族などに限られます。手続き期間は事案によって異なりますが、申立てから審判までに2ヶ月程度、その他の準備を含めると全体で3〜4ヶ月程度が目安になるとされています。家族が後見人候補者になることも可能ですが、財産の額や親族間の状況によっては、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門職を後見人に選任するケースもあります。この場合、専門職への報酬が継続的に発生する点は事前に理解しておく必要があります。
法定後見制度の費用は月2万円から6万円が目安
法定後見制度を利用する場合、家族が見落としがちなのが継続的にかかる費用です。成年後見を利用する主なデメリットとして、継続的な費用の発生、親族が財産管理に直接手を出せなくなること、相続税対策の選択肢が限定されることの3点がよく挙げられます。
申立て自体にかかる費用は、申立手数料や登記手数料が数千円程度、書類の送達・送付費用が数千円程度で、初期費用自体はそれほど高額ではありません。ただし、家庭裁判所が必要と判断した場合に行われる医師による鑑定には10万円から20万円程度の費用がかかることがあります。弁護士や司法書士に申立て手続きを依頼する場合は、別途専門家への報酬も発生します。
見落とされがちなのが、後見開始後に継続的に発生する後見人への報酬です。家庭裁判所が本人の財産状況や後見事務の内容を踏まえて報酬額を決定しますが、目安は月額2万円から6万円程度です。この報酬は後見が終了するまで、つまり基本的には本人が亡くなるまで発生し続けるため、月額6万円の報酬が10年続けば総額720万円、月額2万円でも240万円にのぼる計算になります。
さらに、家族が後見人に選ばれた場合でも、後見人はあくまで本人の利益を最優先に行動する義務を負います。家族の意向であっても、本人の財産を使った生前贈与や投資的な資産運用、相続税対策のための贈与は基本的に認められません。後見人をつければ家族が自由に財産を動かせるようになるというのは誤解であり、財産管理はむしろ家庭裁判所の監督下に置かれ、年に一度程度の収支報告なども求められます。法定後見制度は本人の権利や財産を守るための制度である一方、家族にとっては経済的・手続き的な負担が小さくないのも事実です。判断能力があるうちに任意後見契約や家族信託を検討しておく価値は、ここにあります。
2026年成立の改正民法で後見制度の終身制が廃止に
成年後見制度をめぐっては、大きな制度改正が進みました。政府は2026年4月3日の閣議で、成年後見制度を利用しやすくする民法改正案を決定して国会に提出し、この改正民法は2026年6月17日に可決・成立しました。施行はこれからで、実際に新制度が使えるようになるのは早くても2028年ごろの見込みとされています。
改正の柱は主に2つあります。ひとつは終身制の廃止です。これまでは、一度制度を利用し始めると本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまでやめることができませんでした。改正後は、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めた場合、開始の審判を取り消して制度を終了したり、同意権・代理権などの一部を取り消したりすることが可能になります。
もうひとつは支援範囲の限定化です。これまでの後見・保佐を将来的に補助へ一本化し、必要な行為だけをサポートするオーダーメード型の制度へ転換していく方向性が示されています。本人の状態やニーズに応じて、支援の範囲を柔軟に設定できるようになることが期待されています。
現時点ではまだ施行前の段階ですが、今後数年のうちに実務が大きく変わる可能性があります。これから後見制度の利用を検討する家族は、最新の施行スケジュールや運用状況を随時確認しておいたほうがよいでしょう。
手順6:介護施設の検討と入居手続きを進める
在宅での介護が難しくなってきた場合は、介護施設への入居も選択肢に入ってきます。まず相談すべき窓口は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターです。専門的な立場から、本人の要介護度や症状に合った施設タイプ、地域の空き状況などをアドバイスしてもらえます。
認知症に対応できる主な施設は次の表の通りです。
| 施設タイプ | 特徴 | 入居条件の目安 |
|---|---|---|
| 認知症グループホーム | 少人数で共同生活を送る施設 | 要支援2以上かつ専門医による認知症の診断 |
| 介護付き有料老人ホーム | 24時間体制の介護サービスがある民間施設 | 施設により幅がある |
| 特別養護老人ホーム(特養) | 公的施設で費用を抑えやすい | 原則要介護3以上、地域により入居待ちあり |
施設を選ぶ際は、まず本人を含めた家族全員で話し合い、費用・立地・ケアの内容などの希望条件を明確にしたうえで施設を探し、見学や体験入居を経て最終的に決定する流れになります。認知症の症状が進行している場合、本人が入居に難色を示すこともありますが、無理に説得するのではなく、本人の不安に寄り添いながら段階的に進めたほうがよいとされています。
入居手続きにあたっては、契約者・身元引受人・費用の支払い方法などを確認する必要があります。本人の判断能力が低下している場合、施設側から成年後見制度の利用を求められることもあるため、後見制度の検討と合わせて進めるとスムーズです。
手順7:相続対策は判断能力があるうちに選択肢が広い
親が認知症になると、相続対策の選択肢も狭まっていきます。判断能力が十分にあるうちであれば、遺言書の作成や生前贈与、生命保険の活用など、本人の意思に基づいた対策を幅広く選べます。しかし判断能力が低下した後は、遺言書の作成や大きな財産の贈与が基本的に難しくなり、法定後見人が就いた場合も、後見人は本人の利益を守る立場から相続税対策のための贈与などを制限する傾向にあります。
そのため、親がまだ元気なうちに、不動産や預貯金などどのような資産をどれくらい保有しているか、将来誰にどの財産を残したいと考えているか、相続人となりうる家族関係に整理しておくべき事情がないか、生命保険や不動産の名義・契約内容に見直す点がないかを家族で話し合っておくことが重要です。
判断能力が大きく低下してしまった後に相続について何かを決めようとしても、本人が遺産分割協議に参加できるかどうかは医師の診断次第になります。参加できない場合は、家庭裁判所が選任した後見人等が本人に代わって手続きに関与することになります。相続対策は、元気なうちにどれだけ準備できたかが結果を大きく左右する分野です。
親への切り出し方はエンディングノートを先に見せる工夫
終活や後見制度の話は、親にとって自分の死や判断能力の衰えを直視させられる、デリケートな話題です。頭ごなしに後見人をつけようとか施設を探そうと切り出すと、親のプライドを傷つけ、かえって話し合いを拒否されてしまうこともあります。
もしものときのためにという将来の備えとしての文脈で話す、自分自身の終活を先に見せて話題のきっかけにする、銀行や施設のパンフレットなど具体的な資料を一緒に見ながら話す、一度にすべてを決めようとせず複数回に分けて少しずつ話を進める、きょうだいなど他の家族とも情報を共有し特定の一人に負担が偏らないようにする、といった工夫が有効です。
親が離れて暮らしている場合は、電話や帰省のタイミングを利用しつつ、無理に急かさず本人のペースに合わせて準備を進めることが、結果的にスムーズな終活支援につながります。
きょうだい間の役割分担は負担を見える化してすり合わせる
認知症の親の終活を代わりに進める役割は、多くの場合、きょうだいのうち特定の一人に偏りがちです。親の近くに住んでいる、あるいは時間の融通が利くという理由だけで一人がすべての手続きや通院の付き添い、施設探しを担うことになると、負担の偏りが後々の家族間トラブルにつながりやすくなります。
トラブルが起きる主な原因は、介護や終活の対応が突然始まり、事前に家族で相談をしていないことにあります。特に仕事や子育てを理由にきょうだい全員が対応に消極的な場合、話し合いが難航しやすく、昔ながらの慣習で特定の家族に負担が押し付けられてしまうケースも見られます。
こうした事態を避けるためには、金銭・時間・精神的負担を見える化することが有効です。介護や終活対応にかかった時間や費用を記録に残し、通院や施設探しにかかる費用については専用の口座を作って共同で管理する方法や、きょうだい間の連絡用にグループチャットを作成して通院結果や施設の見学状況をリアルタイムで共有する方法が挙げられます。
民法第877条では、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められていますが、この扶養義務は必ずしも直接的な介護行為そのものを意味するものではなく、主に経済的な支援や生活援助を指すとされています。遠方に住んでいて直接の介護や手続きの同行が難しいきょうだいであっても、費用面での分担や、必要な書類の準備・情報収集といった形で役割を担うことは十分に可能です。居住地や生活状況に応じて役割を分担し、定期的に状況をすり合わせる場を設けることが、家族全体の負担を軽減し、親のための終活支援を長続きさせる鍵になります。
代わりに進めるときのチェックリスト10項目
最後に、認知症の親の終活を子どもが代わりに進める際に確認しておきたいポイントを整理します。親のかかりつけ医、または物忘れ外来を受診し、現在の判断能力を客観的に把握したかどうかが最初の確認点です。判断能力があるうちに、任意後見契約・財産管理等委任契約・公正証書遺言・家族信託・死後事務委任契約のうち必要なものを検討したか、エンディングノートの作成を親と一緒に、あるいは聞き取りをしながら進めているかも重要な項目になります。
預貯金口座については、代理人指定手続きや家族信託など凍結に備えた対策を金融機関に相談したかを確認します。すでに判断能力が低下している場合は、法定後見制度の申立てに必要な書類や診断書の準備を始めているか、後見人への報酬など継続的にかかる費用について家族間で認識をそろえているかもチェックしておきたい点です。
軽度な段階であれば、地域の社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業の利用を検討したか、ケアマネジャーや地域包括支援センターに介護施設に関する相談を始めているかも確認します。資産状況や将来の相続について家族間で情報を共有し、特定の一人に負担が偏らないようにしているか、きょうだいなど関係する家族と定期的に状況を共有する場を設けているかも忘れずに確認しておきましょう。
これらすべてを一度に終わらせる必要はありません。親の状態や家族の状況に応じて優先順位をつけながら、ひとつずつ進めていくのが現実的です。認知症の親の終活を子どもが代わりに進めるうえで最も重要なのは、判断能力が残っているうちに、できるだけ多くの選択肢を確保しておくことです。任意後見契約、家族信託、公正証書遺言、死後事務委任契約といった仕組みは、いずれも本人の意思能力があることが前提となっており、症状が進行してからでは選べなくなってしまいます。すでに判断能力が大きく低下している場合は法定後見制度の利用が中心となり、家庭裁判所への申立てから審判まで数ヶ月単位の時間がかかることを踏まえて、早めに動き出す必要があります。口座凍結への備え、介護施設の検討、相続対策までを含めて、家族全体で計画的に進めていくことが、親にとっても子どもにとっても納得感のある終活支援につながります。








