エンディングノートを年代別に比較すると、実行率には統計データ上はっきりとした差が出ています。NPO法人ら・し・さの調査では、20歳代の所有者のうち9割以上がすでに記入を終えている一方、70歳代以上の所有者で記入が完了しているのは約半数にとどまります。年齢が上がるほどノートを持つ人は増えていくのに、中身を書き進められている人の割合はむしろ低くなるというねじれた現象が、複数の調査から共通して見えてきます。
この記事では、Yahoo!ニュース(LIMO配信)でファイナンシャルアドバイザーの鶴田綾氏が紹介した年代別データを軸に、NPO法人ら・し・さの調査報告書、nippon.comの記事、終活白書2024など複数の統計を突き合わせ、エンディングノートの認知度・所有率・実行率がどのように年代で変化していくのかを整理します。数字の裏側にある背景や、実行率を高めるための具体的な工夫にも触れていきます。

所有率は70歳代以上の24.2%が最多、50歳代以下は1桁にとどまる
エンディングノートを実際に持っている人の割合は、70歳代以上が24.2%で最も高く、50歳代以下では1桁台にとどまります。年齢が上がるほど「終活を始めなければ」という意識が働きやすく、所有率そのものは加齢とともに上昇していく傾向がはっきりと表れています。
一方で、エンディングノートという言葉や存在を知っているかどうかを示す認知度は、60歳代以上で9割以上に達しています。ノートの存在自体はすでに広く知られていて、問題は知っているかどうかではなく、実際に持つかどうか、そして持ったあとに書き進めるかどうかという段階にあります。この「認知度」「所有率」「実行率」という三段階に分けて数字を追うと、年代ごとの意識と行動のギャップがくっきりと浮かび上がります。
調査の対象は20〜89歳の2,052人、マクロミルが実施
これらの数字の出どころであるNPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)の『第2回終活意識全国調査報告書【確定版】』は、2025年7月に確定版が公開されました。調査対象は20歳から89歳までの男女、調査地域は全国で、調査方法はインターネットリサーチです。調査時期は2024年12月4日から12月6日までの3日間で、回答者数は2,052名にのぼります。割付は令和2年国勢調査の性年代別人口比率にもとづく人口構成比割付で、調査委託先は株式会社マクロミルです。全国規模かつ性年代のバランスを取ったサンプル設計になっているため、年代別の傾向を比較する材料として一定の信頼性があると考えてよいでしょう。
なお、エンディングノートを持っている人の割合は全体で13.3%です。男女別に見ると男性9.6%、女性16.3%で、女性の方が所有率が高くなっています。終活や家族への想いを言葉にして残すという行為に対して、女性の方が一歩を踏み出しやすい傾向がうかがえます。
実行率は20歳代の9割超に対し70歳代以上は約半数という逆転
エンディングノートの「実行率」、つまり所有者のうち実際に記入している割合を見ると、20歳代では所有者の9割以上が記入済みです。これに対して70歳代以上の所有者では、記入が完了している人は約半数にとどまります。所有率では70歳代以上がトップなのに、実行率では20歳代が大きく上回るという、逆転した構図になっています。
持っている人ほど書けていないというねじれの正体
なぜこのねじれが起きるのでしょうか。年齢を重ねるほど記載すべき内容が資産・医療・介護・相続など多岐にわたり複雑になること、「まだ先のこと」という心理的な先延ばしが働くこと、そして視力や手先の器用さといった身体的な変化が記入作業そのものを妨げることが、元記事では要因として挙げられています。20歳代であれば資産や人間関係がまだシンプルなため、ノートを持てば短時間で書き終えられます。70歳代以上になると、情報を整理すること自体に時間と労力がかかるわけです。
前回調査から70歳代以上は10.5ポイント低下、50歳代以下は10ポイント超増加
第2回終活意識全国調査を前回(第1回)調査と比較すると、興味深い変化が見えてきます。70歳代以上の層では、エンディングノートを「書いている」人の割合が前回より10.5ポイント低下しました。逆に50歳代以下の層では、前回より10ポイント以上増加しています。
この推移は、従来「終活・エンディングノート=高齢者のもの」というイメージが強かった状況が、少しずつ変わりつつあることを示しています。SNSやライフログ、スマートフォンのメモアプリに日常的に触れている若い世代ほど、自分の情報や希望を言語化・記録化すること自体への抵抗感が薄れてきている可能性があります。70歳代以上での低下については、体力や視力の衰え、あるいは一度書いたものを今さら見直すのが億劫だという心理が影響しているのかもしれません。
所有率は女性16.3%が上回るが、記入率は男性65.4%が上回る
エンディングノートを持っている人のうち、実際に「書いている」人の割合を男女別に見ると、男性は65.4%で女性より高く、前回調査からも大きく伸びています。女性で書いている人の割合は54.9%で、前回よりやや減少しました。
所有率そのものは女性(16.3%)が男性(9.6%)を上回っているのに、持っている人のうち記入まで進めている割合は男性の方が高いという、少しねじれた結果です。女性はまず形から入り、男性は持つと決めたら一気に書き進める、という行動パターンの違いがあるのかもしれません。所有率と実行率という二つの指標をあわせて見ることで、単純な男女比較だけでは見えてこない差が見えてきます。
家族との話し合いは70歳代以上で約半数が経験済み
同じ調査では、エンディングノートに書く内容について家族と話し合ったことがあるかどうかも尋ねています。年代が上がるにつれて「話し合ったことがある」人の割合は高くなる傾向があり、60歳代で約4割、70歳代以上では約半数が家族と話し合った経験を持っています。ノートという記録の形にはなっていなくても、口頭での意思共有はシニア層で一定程度進んでいるわけです。実行率という数字だけでは測れない、終活の実質的な進み具合を補う重要なデータといえます。
nippon.comと終活白書2024の数字は元記事の統計とどこまで一致するか
エンディングノートに関する統計は、ら・し・さの調査以外にも複数の機関が発表しています。ここでは元記事のテーマに沿う範囲で、他の調査結果と年代別の傾向を比較してみます。
nippon.comが公表しているデータでは、75歳以上の高齢者のうち66%がエンディングノートの存在を知っている一方、実際に準備しているのは23%にとどまるとされています。ら・し・さ調査の「70歳代以上の所有率24.2%」とほぼ近い水準で、後期高齢者層では「知ってはいるが準備は2〜3割程度」という傾向が複数の調査で一致していることがわかります。
別の調査データでは、実際にエンディングノートを準備している人の割合が、50歳代で8.0%、60歳代で10.7%、70〜74歳で22.5%、75歳以上で23.3%という結果でした。年齢が上がるにつれて準備率が着実に上昇していくという方向性は、ら・し・さ調査の「所有率は70歳代以上が最高」という結果と一致しています。
一方、業界団体が発行する『終活白書2024』では、エンディングノートを「作成している」と回答した人は42%にとどまり、58%が「まだ作成していない」と回答しました。この42%という数字は、ら・し・さ調査の全体所有率13.3%と比べるとかなり高く見えます。これは調査対象の年齢構成や、「作成している」という設問の定義(書き始めている段階も含むか、完成していることを条件とするか)の違いによるものと考えるのが妥当でしょう。統計データを比較する際は、数字の大小だけでなく調査対象や定義の違いに注意する必要があるという、典型的な例です。
さらに別のプレスリリース調査では「9割がエンディングノートを作成していない」という結果も出ており、終活白書の58%よりもさらに厳しい数字になっています。ただしこの調査では、エンディングノートという形式にはこだわらず、相続対策として法的効力のある遺言書などを別途準備している人も一定数含まれています。エンディングノートを書いていないことが、そのまま終活への無関心を意味するわけではない点には注意が必要です。
ここまでの複数調査の数字を年代別に並べると、次のようになります。
| 調査・対象年代 | 所有・準備している割合 |
|---|---|
| ら・し・さ調査 全体 | 13.3% |
| ら・し・さ調査 70歳代以上 | 24.2% |
| ら・し・さ調査 50歳代以下 | 1桁台 |
| nippon.com 75歳以上 | 23% |
| 別の調査 50歳代 | 8.0% |
| 別の調査 60歳代 | 10.7% |
| 別の調査 70〜74歳 | 22.5% |
| 別の調査 75歳以上 | 23.3% |
| 終活白書2024 全体 | 42% |
こうして並べてみると、調査によって数字の水準そのものは10ポイント以上ずれることがあるものの、「年齢が上がるほど所有・準備率が上昇する」という方向性はどの調査でもほぼ共通していることが読み取れます。
長期的な推移では、終活の完了率(エンディングノートを含む広義の終活準備が完了している割合)が2018年の6.7%から2023年には7.7%へと、緩やかに上昇したという集計もあります。5年間で1ポイントの上昇というペースは決して速くありませんが、社会全体として終活への取り組みが少しずつ進んでいることを示す材料といえるでしょう。
エンディングノートに書く項目は7種類、年齢とともに増える情報量
年代別の実行率の差を理解するには、そもそもエンディングノートにどのような項目を記入するのかを見ておくとわかりやすくなります。一般的なエンディングノートには、次のような項目が含まれます。
自分自身の基本情報として生年月日、本籍地、家族構成、緊急連絡先などを書く欄があります。資産に関する情報では、預貯金口座、有価証券、不動産、保険、年金、負債の状況を整理します。デジタル資産に関する情報として、各種サービスのIDやパスワード、サブスクリプションの契約状況を記録する欄も近年は増えました。医療・介護に関する希望では、延命治療の可否や、希望する介護施設・在宅介護への考え方を書きます。葬儀・お墓に関する希望として、葬儀の形式や宗派、納骨の方法を記入し、相続・遺言に関する情報として遺言書の有無や保管場所、相続させたい財産の分け方の希望を残します。最後に、家族や友人へのメッセージを書く欄も一般的な構成に含まれています。
こうして項目を並べてみると、年齢を重ねるほど資産の種類や口座数、保険契約、人間関係が複雑化しやすく、記入すべき情報量そのものが増えていくことがわかります。20歳代であれば資産や契約関係がまだシンプルなため短時間で書き終えられる一方、70歳代以上になると情報を整理すること自体に相応の時間がかかります。これが実行率の年代差を生む大きな要因の一つです。
実行率の年代差を生む4つの要因
ここまで見てきた複数の統計データを踏まえると、エンディングノートの実行率に年代差が生まれる背景には、いくつかの要因が重なっていると考えられます。
第一に、記載内容の複雑さです。資産状況、医療・介護に関する希望、葬儀やお墓についての考え、家族へのメッセージなど、多岐にわたる項目を書き込む必要があります。年齢を重ねるほど資産構成や人間関係が複雑になり、書くべき情報量自体が増える傾向があるため、着手のハードルが上がりやすくなります。
第二に、心理的な先延ばしです。元記事も指摘しているように、「まだ先のこと」という気持ちは若い世代よりもむしろ高齢層に根強く残っている場合があります。死や介護というテーマに向き合う年齢に近づくほど、直視することへの心理的抵抗が強まるケースも少なくありません。
第三に、健康状態や体力の変化です。加齢に伴う視力の低下や、手先の細かい作業への負担増加が、ノートへの記入という物理的な作業を妨げる要因になっている可能性があります。
第四に、世代によるツールへの親和性の違いです。20歳代を中心とした若い世代は、スマートフォンのメモアプリやSNSでの発信など、日常的に自分の情報や考えを記録・言語化する習慣に慣れています。そのためエンディングノートを持てば比較的スムーズに記入まで進められるのに対し、高齢層では紙のノートへの手書き作業自体に不慣れな場合もあります。
デジタル終活は20歳代が先行、70歳代以上は紙にこだわる傾向
近年では、紙のノートだけでなく、スマートフォンアプリやクラウドサービスを使ったデジタルエンディングノートも登場しています。特に20歳代・30歳代は、日頃からスマートフォンでメモやライフログを残す習慣に慣れているため、デジタル形式であれば心理的なハードルがさらに下がる可能性があります。
一方で、70歳代以上の層ではデジタルツールへの不慣れさが、かえって「エンディングノートは紙で丁寧に書くもの」という意識につながり、着手までのハードルを高くしている面もあるでしょう。家族がスマートフォンの入力をサポートしたり、自治体や終活関連団体がデジタル形式のひな形を配布したりすることで、高齢層の実行率が底上げされる余地は十分にあると考えられます。
認知症有病率12.3%、MCI含め4人に1人という時間の制約
元記事が年金・認知症・終活という三つのテーマを一つの記事の中でつなげているのには理由があります。厚生労働省の『令和6年簡易生命表の概況』によれば、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.13歳です。長くなった老後の時間をどう過ごすかを考えるうえで、認知症をはじめとする健康リスクへの備えは欠かせません。
政府広報オンラインが示す令和4年時点の推計では、65歳以上の高齢者3603万人のうち、認知症と診断された人が約443万人で12.3%、軽度認知障害(MCI)の人が約559万人で15.5%です。合計すると約1002万人、シニアのおよそ4人に1人が、認知機能について何らかの注意や支援を必要とする状態にあります。
認知機能が低下してからでは、自分の資産状況や医療・介護に関する希望を正確に言葉にして残すことが難しくなります。エンディングノートを気力と体力が十分にあるうちに準備しておくことは、単なる終活の一環というだけでなく、将来の認知症リスクに備えるという意味でも重要な行動といえるでしょう。70歳代以上で所有率は高いものの実行率が約半数にとどまっているという事実は、思い立ったときにはすでに着手が難しくなっているというリスクを裏付けているとも解釈できます。
実行率を高めるための2つの工夫
統計データから見えてきた課題を踏まえると、エンディングノートを無理なく書き進めるためには、いくつかの工夫が有効です。
一つは、完璧を目指さず、書ける項目から少しずつ埋めていくことです。資産一覧やパスワード管理など事務的な項目から着手し、そのあとで医療・介護の希望や家族へのメッセージといった心情的な項目に進むと、心理的な負担が分散されます。資産状況や家族構成は年月とともに変化するため、一度書いて終わりにするのではなく、年に一度など更新のタイミングをあらかじめ決めておくことも役立ちます。
もう一つは、家族が集まる機会を活用することです。元記事も、家族が集まる機会に将来について話し合うことが安心して老後を迎えるための第一歩になる、と結んでいます。お盆や年末年始など家族が顔を合わせるタイミングで、エンディングノートの話題を軽く切り出してみることが、実行率を高める現実的なきっかけになるでしょう。
エンディングノートは、終活という大きな取り組みの中の一つの要素にすぎません。終活関連の民間調査では、終活を始めている層は全体の44.0%にのぼり、終活を始めている人の方が幸福度や生活満足度が高い傾向にあると報告されています。終活にかかった費用は平均で約503万円という調査結果もあり、これはお墓や葬儀、生前整理など幅広い費用を含んだ金額と考えられます。
さらに近年は、「年賀状じまい」や「墓じまい」のように、何かを新しく始めるのではなく、これまで続けてきたものを整理して手放す形の終活が広がりを見せています。エンディングノートを書くという行為も、突き詰めれば情報やモノ、人間関係を整理し、必要なものと不要なものを見極めるという意味で、こうした手放す終活の一形態と捉えることができます。
統計データを比較する際に確認すべき点
本記事で紹介したような統計データを読み解く際には、いくつか注意したい点があります。エンディングノートの「所有率」「実行率」「作成率」といった数値は、調査によって定義や聞き方が異なります。「持っている」を所有の有無で聞く調査もあれば、一部でも書き始めていれば作成済みとみなす調査、主要項目をすべて埋めて初めて完成とみなす調査など、基準はさまざまです。
複数の調査結果を比較する際には、数字の大小だけで「この調査の方が実態に近い」と判断するのではなく、調査対象の年代構成、サンプル数、調査時期、そして「実行」や「作成」の定義がどのように設定されているかを確認する姿勢が欠かせません。本記事で紹介した元記事のデータも、あくまで一つの調査にもとづく数値であることを踏まえたうえで、他の調査結果とあわせて全体像を把握することが、統計データを正しく活用するための基本といえます。
まとめ:エンディングノートの実行率は年代で3つのフェーズに分かれる
Yahoo!ニュース(LIMO配信)の記事を中心に、エンディングノートに関する年代別の統計データを整理しました。「終活」という言葉の認知度は96.2%と非常に高く、社会的な関心はすでに広く浸透しています。エンディングノートの認知度も60歳代以上で9割以上と高い水準にあります。所有率は70歳代以上が24.2%で最も高く、50歳代以下は1桁台にとどまります。実行率、つまり所有者のうち記入している割合は、20歳代の9割以上に対し70歳代以上は約半数と、年代が上がるほど「持っているだけ」の割合が増える逆転現象が見られます。全体の所有率は13.3%(男性9.6%、女性16.3%)で、前回調査比では70歳代以上が10.5ポイント低下、50歳代以下は10ポイント以上増加しました。nippon.comや終活白書2024など他の調査機関のデータでも、認知度は高いが実行・作成には至っていない人が多いという傾向はおおむね一致しています。
これらの数字が示しているのは、終活やエンディングノートへの関心は年代を問わず高いということと、関心の高さが必ずしも行動には直結していないという二つの事実です。特に高齢になるほど、持ってはいても記入が進んでいないという実態は、認知症リスクとも密接に関わる課題です。公的年金だけに頼らない資産形成と同じように、エンディングノートの準備も気力と体力が十分にあるうちから少しずつ進めておくことが、将来の安心につながる一歩になるでしょう。
年代別のデータを俯瞰すると、20歳代・30歳代は所有率こそ低いものの、一度持てば高い確率で記入まで進める傾向があります。50歳代・60歳代は所有率・実行率ともに徐々に上昇していく過渡期にあたり、70歳代以上は所有率こそ最も高いものの実行率は伸び悩んでいます。この三つの異なるフェーズに応じて、若い世代には「まず持ってみる」きっかけづくりを、中高年層には情報整理をサポートする仕組みを、高齢層には家族や周囲による記入のサポートを、というように、年代ごとに異なるアプローチで実行率を高めていく工夫が求められています。エンディングノートという一つのテーマを通じて、老後の資産準備、健康リスクへの備え、そして家族とのコミュニケーションという複数の課題が密接につながっていることを、今回の統計データの比較はあらためて浮き彫りにしています。








