終活は、財産や葬儀の準備だけでなく、健康寿命を延ばすために生活習慣を見直す取り組みでもあります。人生の終わりに向けた準備と聞くと後ろ向きな印象を持つ人もいますが、残りの時間をどう自分らしく過ごすかを考える作業だと捉えると、健康の話は避けて通れません。エンディングノートを丁寧に書き、相続や葬儀の希望をまとめても、日々の食事や運動、睡眠が乱れたままでは、望んでいた老後の自由度そのものが縮んでしまいます。厚生労働省の令和4年(2022年)データでは、健康上の制約なく暮らせる健康寿命と、生きている期間の平均である平均寿命の差が、男性で8.49年、女性で11.63年に達しています。この記事では、その差がなぜ生まれるのか、食事・運動・睡眠・社会参加・口腔機能・健診の活用まで、今日から実践できる見直し方法を具体的な数値とともに紹介します。

健康寿命と平均寿命の差は男性8.49年、女性11.63年
健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指します。一方、平均寿命は生まれてから死亡するまでの期間の平均値で、寝たきりや要介護の状態であっても生きているかぎりはカウントに含まれます。つまり、平均寿命から健康寿命を差し引いた期間は、何らかの制限を抱えながら生活する期間ということになります。
厚生労働省が公表した令和4年(2022年)のデータによると、健康寿命は男性が72.57歳、女性が75.45歳でした。これに対して平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳で、差は男性8.49年、女性11.63年です。多くの人が、人生の最後の10年前後を、通院や介護、外出の制限を抱えながら過ごしている計算になります。旅行や趣味、家族との時間、終活で準備してきたことを実現する自由度が、この10年でどれだけ狭まるかを考えると、他人事とは言えません。
一方で、この差は2010年以降、男女ともに徐々に縮小しています。健康意識の高まりや介護予防の取り組みが一定の効果を上げていることの表れで、厚生労働省も健康寿命の延伸と、平均寿命との差を縮めることを政策目標に掲げています。個人の生活習慣の見直し次第で、この差をさらに縮められる余地は十分にあると言えるでしょう。
終活の土台になるのは健康寿命の長さ
終活を「人生の店じまい」とだけ捉えると、健康づくりは後回しにされがちです。しかし財産整理や相続の話し合いを家族と進めるにも、判断力と体力が要ります。エンディングノートに希望を書き込むにも、認知機能がしっかりしていなければ、自分が本当に望む内容を正確に残すことは難しくなります。
健康寿命が長ければ、旅行や趣味、孫や家族との時間、地域活動への参加など、人生の後半戦をより自由に過ごせます。逆に生活習慣病や身体機能の低下で健康寿命が短くなれば、自分らしく生きられる時間もその分だけ短くなります。終活を始める年代の目安として65歳前後がよく挙げられますが、生活習慣病の予防や筋力の維持は、その年齢になってから慌てて始めるより、40代や50代のうちから少しずつ手をつけたほうが効果は出やすいものです。
経済的な面でも無関係ではありません。要介護状態になれば、介護サービスの利用料や医療費、住宅のバリアフリー改修費用など、想定していなかった支出が発生します。健康寿命を延ばし、要介護になる時期を遅らせることができれば、老後資金への負担そのものを軽くできる副次的な効果も見逃せません。資産の整理と同じくらいの熱を、健康というもう一つの資産にも向ける価値はあります。
生活習慣病の通院患者は合計2500万人を超える
健康寿命を縮める大きな要因が、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病です。厚生労働省が3年ごとに実施する患者調査の最新結果(令和5年・2023年)によると、高血圧性疾患で治療を受けている総患者数は1609万2000人、糖尿病は552万2000人、脂質異常症は401万人でした。単純に合計すると2500万人を超え、日本の人口の5人に1人前後が、これらのいずれかで通院している計算になります。
これらの疾患は初期に自覚症状がほとんどないまま進み、放置すると脳卒中や心筋梗塞、腎不全といった不可逆的な合併症につながることがあります。一つひとつは「よくある病気」に見えても、その積み重ねが平均寿命と健康寿命の差を広げる大きな要因になっているわけです。逆に言えば、これらの多くは食事や運動、睡眠を見直すことで発症を防いだり、進行を遅らせたりできる可能性が高い疾患でもあります。終活で健康を見直すなら、まず自分がこの予備群に入っていないかを確認するところから始めてみてください。
食事の見直しは塩分を1日7.5グラム未満に抑えることから
健康寿命を支える土台は、毎日の食事です。主食・主菜・副菜をそろえ、野菜や果物の量を増やすことが基本になります。長寿地域や100歳以上の高齢者に共通する食事の特徴として、魚、野菜、豆類、乳製品といった多彩な食材を組み合わせ、たんぱく質と食物繊維を十分に摂っていることが挙げられます。加齢とともに食が細くなり、たんぱく質が不足すると、筋肉量が落ちるサルコペニアやフレイル(虚弱)のリスクが高まるため、意識的な摂取が欠かせません。
塩分の摂りすぎにも注意が必要です。令和5年度の国民健康・栄養調査では、成人の食塩摂取量の平均は9.5グラムで、男性10.3グラム、女性8.8グラムでした。日本人の食事摂取基準(2025年版)が示す1日あたりの目標量は、男性7.5グラム未満、女性6.5グラム未満です。高血圧や慢性腎臓病の重症化予防を目的とする場合は、1日6グラム未満というさらに厳しい値も設定されています。
現状の平均摂取量と目標量の差を、以下の表にまとめます。
| 区分 | 現状の平均摂取量 | 食事摂取基準の目標量 |
|---|---|---|
| 男性 | 10.3グラム | 7.5グラム未満 |
| 女性 | 8.8グラム | 6.5グラム未満 |
| 重症化予防の目安 | – | 6グラム未満 |
多くの人が目標値を上回る塩分を摂取しているのが現状です。麺類の汁を残す、調味料を減らす、だしや香辛料で風味を補うといった工夫だけでも、着実に摂取量を減らせます。まず1週間ほど、自分が実際に何をどれだけ食べているかを書き出してみると、不足している栄養素や摂りすぎている調味料に気づきやすくなります。
運動は週3回20分のウォーキングから始める
筋力低下は、加齢による衰弱や骨折、転倒、関節疾患と並んで、介護が必要になる主な要因のひとつです。筋力やバランス感覚を保つことは、骨密度の維持や、糖尿病・心血管疾患のリスク低下にもつながります。運動はフレイル予防の要とも言われ、健康寿命を延ばすうえで欠かせません。
具体的には、ウォーキングやアクアエクササイズのような無理のない有酸素運動と、体力に合わせて負荷を調整できる筋力トレーニングの組み合わせが効果的とされています。特別なジムに通う必要はなく、自宅でできるスクワットやかかと上げ運動、近所を歩く習慣づけだけでも、続ければ十分な効果が見込めます。いきなり毎日運動しようとせず、週に3回、20分歩くといった無理のない目標から始めるのが継続のコツです。運動習慣がなかった人ほど、小さな一歩から始めてみてください。
睡眠は6時間以上、高齢者は床上時間8時間未満が目安
睡眠は心身の回復だけでなく、生活習慣病の予防にも直結します。厚生労働省は2014年の指針を見直し、最新の科学的知見に基づく「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表しました。このガイドでは、成人は個人差があるものの6時間以上の睡眠を目安とすることが推奨されています。子どもは小学生が9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間の確保が望ましいとされ、高齢者は床上時間(寝床にいる時間)が8時間以上にならないことが目安とされています。長く床にいすぎると、かえって睡眠の質が下がる可能性があるためです。
しかし実際には、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性37.0パーセント、女性39.9パーセントにのぼります。睡眠不足が慢性化すると、肥満、高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、さらには認知症やうつ病まで、さまざまな疾患のリスクが高まることがわかっています。就寝・起床時刻をできるだけ一定にする、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控える、寝室の温度や明るさを整えるといった睡眠衛生の基本を押さえることが第一歩です。日中に軽い運動を取り入れることも、夜間の睡眠の質を高めるのに役立ちます。
社会参加を週1回続けると認知症の発症割合が3.2ポイント低下
食事・運動・睡眠と並んで、社会参加も健康寿命に大きく関わってきます。全国約4万8000人を9年間追跡した大規模な研究では、スポーツの会や趣味の会などに週1回以上継続して参加していた高齢者は、参加していなかった高齢者に比べて認知症の発症割合が平均で3.2ポイント低いことがわかりました。
認知症のリスク要因のひとつに社会的孤立が挙げられており、国際的な研究チームであるランセット委員会の報告では、認知症の約35パーセントは、社会的孤立を含む複数のリスク要因を適切に抑えることで予防できる可能性があるとされています。地域の活動やサークル、ボランティア、趣味の集まりへの参加は、孤立を防ぐだけでなく、心身の健康維持にも役立つことがわかってきました。定年退職などをきっかけに人とのつながりが減る人も少なくないため、意識して地域活動や趣味のコミュニティに顔を出す機会を増やしてみてください。
口腔機能(オーラルフレイル)の衰えを見逃さない
見落とされがちですが、健康寿命を語るうえで口腔機能も欠かせません。オーラルフレイルとは、わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった小さな衰えから始まり、やがて食べる機能全体、さらには心身全体の機能低下へとつながっていく状態を指します。噛む力や飲み込む力が衰えると、硬い食材や繊維質の多い食材を避けるようになり、たんぱく質やビタミンが不足して、栄養状態の悪化や筋力低下、フレイルの進行を招いてしまいます。
口腔機能低下症は、2018年に歯科の保険病名として正式に収載され、適切な介入で改善が見込める医療の対象として位置づけられています。舌の力を鍛えるトレーニングや発音訓練、咀嚼訓練を続けたグループで、咀嚼機能や嚥下機能、唾液の分泌量、味覚などに改善が見られたとする研究報告もあります。丁寧な歯磨きとデンタルフロスの使用で口腔内を清潔に保ち、意識的に会話をする、声を出して新聞や本を読む、噛みごたえのある食材を取り入れるといった習慣を続けてみてください。半年に一度は歯科医院で口腔内のチェックを受けることも、早期発見につながります。
特定健診の実施率は59.9パーセントにとどまる
自己流の判断だけでは、どこにどれだけリスクがあるかを正確に把握できません。そこで重要になるのが、健康診断や特定健診(メタボ健診)の活用です。厚生労働省の調査によると、2023年度の特定健診の実施率は59.9パーセント、健診結果をもとにした保健指導の実施率は27.6パーセントで、いずれも過去最高を更新しました。それでも、国が掲げる目標値とはまだ開きがあります。2008年度と比較してメタボリックシンドローム該当者および予備群を25パーセント以上減らすという目標に対し、実際の減少率は17.2パーセントにとどまり、目標には届いていません。
過去数年分の健診結果を並べて、血圧や血糖値、コレステロール値、体重の推移を確認すると、自分では気づきにくい体の変化に気づけます。特定保健指導の対象になったことがあるなら、受けっぱなしにせず、実際に食事や運動の内容を変えられているかを振り返ってみましょう。健診結果とエンディングノートの健康記録を結びつけて管理しておくと、かかりつけ医への相談もスムーズになります。
フレイル予防は運動、栄養口腔、社会参加の3本柱で整える
ここまで食事、運動、睡眠、社会参加を個別に紹介してきましたが、フレイル(加齢に伴う心身の衰え)予防の観点では、これらは運動、栄養・口腔機能、社会参加・こころの健康という3本柱としてまとめられています。フレイルは、健康な状態から要介護状態へ移る中間的な段階で、筋力低下のような身体的な要素だけでなく、認知機能や気分の落ち込みといった精神・心理的な要素、独居や社会的なつながりの希薄化といった社会的な要素も含む複合的な概念です。
どれかひとつだけを頑張っても、健康寿命を効果的に延ばすのは難しく、食事・運動・睡眠・社会参加をバランスよく見直していくことが、遠回りに見えて一番確実な方法です。自分の生活の中で特に手薄になっている部分から着手してみてください。
見直しはエンディングノートへの健康記録から始める
生活習慣の見直しを終活に組み込む方法として取り組みやすいのが、エンディングノートに健康に関する情報を記録することです。これまでの病歴、かかりつけの病院、慢性疾患の有無、服用している薬、アレルギーの有無を記載しておくと、万が一の際に家族や医療機関の役に立つだけでなく、自分自身が今の健康状態を客観的に振り返るきっかけにもなります。日々の食事内容、運動習慣、睡眠時間、体重や血圧などを簡単な記録として残していくのも有効です。最近はエンディングノートの機能に加えて健康管理や見守り機能を備えたスマートフォンアプリも登場しており、こうしたツールを使えば無理なく変化を記録できます。
進め方としては、まず直近1週間程度の食事内容、運動量、睡眠時間、飲酒・喫煙の有無を書き出し、厚生労働省などが示す目標値と比較して、自分がどこで基準から外れているかを確認します。そのうえで、いきなりすべてを変えようとせず、塩分の多い調味料を一品減らす、週に2回は10分早く布団に入る、月に1回は地域の集まりに顔を出すといった、小さく具体的な目標をひとつかふたつ設定し、1〜2ヶ月続けてみてください。習慣化できたら次の課題に進むというように、段階的に見直しを進めるとよいでしょう。一人では続けにくいという場合は、自治体の健康づくり教室や、地域包括支援センターの介護予防プログラムを活用する方法もあります。管理栄養士や保健師、理学療法士から客観的なアドバイスを受けられるだけでなく、同じ目標を持つ仲間と取り組めるので、継続のモチベーションを保ちやすくなります。
禁煙と節酒も終活の見直し対象にする
生活習慣病の予防という観点では、喫煙と過度な飲酒も見逃せません。喫煙は肺がんをはじめとする多くのがん、心疾患、脳血管疾患のリスクを高めることが広く知られており、禁煙は年齢を問わず健康寿命の延伸に直結します。飲酒についても、節度ある適度な量を心がけることが予防の基本です。長年の習慣を急にゼロにするのは難しいので、禁煙なら本数を減らす、禁煙外来や自治体の禁煙サポートを利用するといった段階的な進め方が現実的です。飲酒も、休肝日を週に2日以上設ける、寝酒の習慣をやめる、缶チューハイやビールの本数を記録して見える化するなど、小さな目標から始めれば続けやすくなります。家族や友人に宣言し、周囲の協力を得ながら取り組むことも後押しになります。
家族との対話が見直しを続けやすくする
終活は本人だけで完結するものではなく、家族との対話があって初めて意味を持ちます。生活習慣の見直しも同じで、一人で黙々と変えようとするより、家族に現状を共有し、協力を得ながら進めるほうが長続きしやすくなります。食卓の塩分を家族全体で見直す、休日に一緒にウォーキングをする、健診結果を家族と共有して気になる数値について話し合うといった形で、家族ぐるみの取り組みにすることができます。エンディングノートに健康状態や生活習慣の目標を書き残しておけば、万が一自分の判断力が低下したときに、家族が本人の意向に沿ったサポートをしやすくなるという意味でも役立ちます。
健康寿命を延ばす見直しは半年に一度の棚卸しが鍵
現在の日本では、平均寿命と健康寿命の間に男性で約8.5年、女性で約11.6年もの差があり、多くの人が人生の終盤を何らかの制約を抱えながら過ごしています。厚生労働省の統計を見ると、この差は生活習慣の見直し次第で縮められる可能性があることがわかります。
食事では塩分を抑えてたんぱく質と食物繊維を意識し、運動では無理のない有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせ、睡眠では自分の年代に合った時間と質を確保し、社会参加を通じて人とのつながりを保つ。この4つを半年に一度、健診のタイミングに合わせて棚卸しし、そのときどきの自分に合わせて微調整していく姿勢が、健康寿命を延ばす一番確実な近道になります。40代で見直した食生活の目標が60代でも同じように適切とは限りませんし、50代で無理なくできていた運動量が、70代では体への負担になることもあります。
終活を一度きりの作業で終わらせず、これからの人生を継続的に整えていくための習慣と捉え直せれば、健康寿命を延ばす取り組みも、義務感ではなく自分の人生をより良くするための行動として続けやすくなります。今日からできる小さな見直しを、まずひとつだけ選んで始めてみてください。








