デジタル遺品の生前整理を専門業者に依頼した場合、料金の目安は機器1台あたり2万円から5万円程度です。パソコンやスマートフォンのロック解除、サブスクリプションの解約代行、暗号資産の調査などが主なサービス内容で、依頼する作業の範囲によって金額は変わります。生前のうちに自分でパスワードや資産を整理しておけば、この費用そのものを減らせる、あるいはまるごと不要にできる可能性があります。この記事では、料金相場の内訳から、自分でできる生前整理の進め方、業者に頼む場合の選び方までをまとめます。

デジタル遺品整理の費用は機器1台あたり2万円から5万円
デジタル遺品整理業者の料金は、パソコンやスマートフォン、外付けハードディスクなど、対象となる機器ごとに加算されていく仕組みが一般的です。相場としては機器1台あたりおおよそ2万円から5万円程度とされています。
金額を左右するのは、ロック解除の難易度です。パスワードが単純な数字4桁なのか、複雑な英数字混在なのか、暗号化がかかっているかどうかで作業の手間が大きく変わります。データ復旧が必要かどうか、調査対象となるオンラインサービスの数がいくつあるかも料金に影響します。単純なパスワード解除だけであれば比較的安く済む一方、暗号資産の調査や複数デバイスをまたぐ総合調査になると、費用はさらに高額になっていきます。
多くの業者は正式な作業に入る前に見積もりを提示します。作業内容ごとに料金が区分されているか、追加料金が発生する条件は何かを、依頼前にきちんと確認しておくべきです。ここを曖昧にしたまま契約すると、後から想定外の請求が来ることになります。
サブスク解約の遅れで課金が止まらない
デジタル遺品を放置した場合に起きる典型的なトラブルが、サブスクリプションサービスの解約漏れです。動画配信や音楽配信などの定額サービスは、多くがクレジットカードからの自動引き落としで運用されているため、契約者本人が亡くなっても解約手続きをしない限り課金は止まりません。
実際にあった例として、亡くなった父親のクレジットカードに紐づいた複数の有料サービスが死亡後も課金され続け、相続人が気づいたころには合計で5万円を超える金額が引き落とされていました。カード会社は死亡を理由とした遡及返金には応じませんでした。生前であれば数分で終わる解約作業が、死後は数か月がかりの手続きに変わってしまうケースも珍しくありません。故人のIDやパスワードが分からない場合、遺族が解約や退会の手続きを進めるには死亡診断書や戸籍謄本、故人との関係性を証明する書類の提出が必要になり、審査待ちに数か月かかることもあります。
資産の見落としも見過ごせないリスクです。ネット銀行やネット証券、電子マネー、暗号資産はオンライン上にしか記録が残らないため、遺族がその存在に気づかなければ、資産が誰にも相続されないまま埋もれてしまいます。SNSやメール、写真データに家族へ見せたくない内容が含まれている場合、生前に整理しておかなければ遺族がそれに触れてしまい、精神的な負担につながることもあります。
生前整理で業者依頼の費用を減らせる
こうしたトラブルを避ける最も有効な手段が、デジタル遺品の生前整理です。スマートフォンやパソコンに保管されている個人情報やデジタル資産を、元気なうちに自分自身で整理しておく取り組みで、デジタル終活とも呼ばれます。SNSやネット銀行のアカウントなど、普段は目に見えないデジタル資産を事前にリスト化しておけば、家族の負担を減らせるだけでなく、情報漏洩のリスクも抑えられます。
生前整理をしておく最大のメリットは、遺族が死後に専門業者へ調査や解除作業を依頼する手間と費用を削減できる点です。先述したとおり、業者への依頼には決して安くない費用がかかります。生前にパスワードや資産の在り処を明確にしておけば、そもそも業者に依頼する必要がなくなるか、依頼するとしても作業範囲が限定されるため費用を抑えられます。不要なデータを自分の意思で処分できるという利点もあります。死後に他人がデータを整理する場合、何を残し何を消すべきかの判断が難しく、思い出深い写真まで誤って削除される恐れがありますが、生前であれば本人の意思で仕分けができます。
生前整理を始める際は、まず自分が保有しているデジタル資産を洗い出すところから始めます。対象になるのは、スマートフォンやパソコン、タブレットとそのロック解除方法、メールアカウントのIDとパスワード、SNSアカウント、ネットバンキングやネット証券、電子マネーの口座情報、暗号資産の取引所アカウントや秘密鍵の保管場所、動画配信や音楽配信などサブスクリプションサービスの契約状況、クラウド上の写真や動画、文書データです。
洗い出しができたら、次は不要なものの整理です。過去半年から1年ほど使っていないサービスは早めに解約し、不要な写真や動画、古いメールは削除しておきます。利用頻度の低いサブスクリプションもこの機会に見直すと、生前・死後を問わず無駄な支出を減らせます。家族に見られたくない情報は生前のうちに自分で削除するかロックをかけ、資産に関する情報や重要な契約情報は家族が把握できる形で残しておく、という仕分けも必要です。
パスワード管理は緊急アクセス機能が実用的
デジタル終活で最も悩ましいのが、パスワードなどの認証情報をどう管理し、どう家族に引き継ぐかという点です。紙にパスワードを書いて分かりやすい場所に置いておくだけでは、生前の情報漏洩やなりすましのリスクが高まります。
実用的なのは、1PasswordやBitwardenといったパスワード管理アプリの緊急アクセス機能を使う方法です。あらかじめ指定した信頼できる人物が、申請から一定日数の経過など決められた条件を満たした場合にのみパスワード情報へアクセスできる仕組みで、平時はパスワードを第三者と共有せずに済み、いざという時だけ家族がアクセスできます。
パスワードなどの重要情報を記した紙のリストを封筒に入れて封緘し、開封条件を明確にしたうえで死後事務委任契約の受任者や信頼できる家族に預けておく方法もあります。「本人が亡くなった場合にのみ開封する」というルールを明記しておけば、生前のプライバシーを守りながら死後に確実に情報を引き継げます。銀行の貸金庫にパスワードリストを保管する方法も厳重ですが、貸金庫の存在自体を遺族が把握していなければ意味がないため、利用していること自体をエンディングノートに書き残しておく必要があります。
マスターパスワードやすべてのアカウントに共通するパスワードを、平時から特定の第三者に丸ごと共有しておく運用には注意が必要です。情報漏洩のリスクが高まるうえ、サービスによっては利用規約上、本人以外によるログインを禁止している場合もあり、規約違反になりかねません。
エンディングノートには保管場所だけを書く
エンディングノートは、デジタル終活を進めるうえで有効なツールです。自分の資産状況や希望する葬儀の形式、家族へのメッセージなどをまとめておくノートで、近年はデジタル遺品に関する項目が設けられているものも増えています。
書いておくべきデジタル関連の項目は、利用しているサービスの一覧、各アカウントのログインIDと登録メールアドレス、パスワードの保管場所や管理方法、緊急連絡先、ネット銀行やネット証券、暗号資産といった資産の所在です。ただし、パスワードそのものをエンディングノートに直接書いてしまうと、盗難や紛失時に第三者に悪用されるリスクがあります。パスワード自体は別の安全な場所に保管し、エンディングノートにはその保管場所や参照方法だけを記載するのが安全です。
作成したエンディングノートは、その存在と保管場所を信頼できる家族に必ず共有しておく必要があります。せっかく整理しても、家族がノートの存在を知らなければ意味がありません。デジタル環境やサービスの利用状況は年々変化するため、年に一度など定期的に内容を見直し、最新の情報に更新していくことも欠かせません。
暗号資産は秘密鍵を失うと引き出せなくなる
デジタル遺品の中でも特に慎重な対応が求められるのが、暗号資産です。法律上は相続財産としてカウントされますが、秘密鍵と呼ばれるアクセス情報がなければ一切動かせないという特殊性を持っています。パスワードや秘密鍵が不明なまま本人が亡くなると、数百万円単位の財産であっても事実上引き出せなくなり、相続人にとって大きな損失になります。
暗号資産の相続では、まず取引所などの暗号資産交換業者に相続手続きを行うのが基本的な流れですが、パスワードや秘密鍵が分からなければこの手続き自体が滞ります。相続税の評価は相続開始時点の取引価格に相続した数量を乗じて算出されるため、価格変動が激しい暗号資産特有の事情から、評価や申告の面でも専門的な知識が必要になります。
このリスクを避けるための重要な生前対策は、保有している暗号資産の種類と数量、取引所名、秘密鍵やウォレットの保管場所を一覧化し、信頼できる家族に伝えておくことです。遺言書に資産の存在を明記する、エンディングノートに取引所名やアカウント情報の保管場所だけを記載するといった方法も有効です。暗号資産を保有している人ほど、生前整理の重要性は高いといえます。
業者選びは見積もりの明確さで判断が分かれる
デジタル遺品整理業者を選ぶ際に確認すべき点はいくつかあります。まず、対応できる機器・サービスの範囲です。パソコンやスマートフォンだけでなく、外付けHDDやUSBメモリ、クラウドサービス、SNS、暗号資産の調査まで対応しているかは業者によって異なるため、依頼したい内容に対応しているかを事前に確認します。
パスワード解除の実績や技術力も重要です。ロック解除は専門的な技術を要する作業で、対応できる機種やOSのバージョン、成功率は業者ごとに差があります。過去の実績や口コミ、専門資格の有無を確認しておくと安心です。個人情報の管理体制も見逃せません。デジタル遺品には非常にプライベートな情報が多く含まれるため、秘密保持契約の締結やデータの適切な廃棄方法など、業者がどのような管理体制を敷いているかを確認する必要があります。信頼できる業者であれば、作業終了後のデータの取り扱いについても明確な説明があるはずです。
そして見積もりの明確さです。料金体系が不透明だったり、作業の途中で次々と追加料金を請求してきたりする業者は避けるべきです。複数の業者から見積もりを取り、内容と価格を比較検討することをおすすめします。
死後事務委任契約とワンストップサービスという選択肢
デジタル遺品対策は、機器のロック解除を行う専門業者への依頼だけがすべてではありません。行政書士や司法書士といった士業、あるいは高齢者支援団体と生前に契約を結び、SNSアカウントの削除やサブスクリプションの解約、デジタルデータの整理を死後に代行してもらう「死後事務委任契約」という選択肢があります。身寄りがない人や家族に負担をかけたくない人に向いた方法で、身元保証サービスや任意後見契約と一体化して提供されているケースも多く見られます。
2025年以降は、ID・パスワードなどの情報を生前のうちに預かり、本人が亡くなった際には死後の削除代行まで一括して行う「デジタル終活ワンストップサービス」も登場しています。料金体系の一例では、保有アカウントを整理・仕分けする初期サービスが1万1000円程度、継続的にデータを預かる月額保管プランが2178円程度と、初期費用と月額費用を組み合わせた設定になっています。生前のうちから低コストで情報を安全に預けておける点が、従来型の業者依頼との違いです。
遺品整理業者が提供する生前整理サービスの一環としてデジタル遺品の相談を受け付ける方法もあります。生前整理アドバイザーやライフオーガナイザー、整理収納アドバイザー、遺品整理士といった資格を持つスタッフが在籍していることが多く、デジタル機器の整理だけでなく家財道具や書類全般を含めた総合的な生前整理を依頼できます。どの方法を選ぶにしても、クレジットカードや銀行口座の引き落とし明細を過去1年分ほどさかのぼって確認し、サブスクリプションの一覧を作っておくことが土台になります。
docomoとauとSoftBankはロック解除に対応していない
携帯電話の解約手続きは、キャリアによって手続きを行える人物の範囲が異なります。NTTドコモは手続きを行える人物について特に規定がなく、契約者の家族以外の友人などでも手続きが可能で、事務手数料も不要です。ソフトバンクは手続きを行えるのを契約者の法定相続人に限定しており、法定相続人とは民法で定められた遺産を引き継ぐ相続人、基本的には2親等以内の血縁関係者を指します。auは契約者の家族のほか、親権者や未成年後見人、成年後見人、施設関係者などを手続き可能な人物として定めています。故人が契約していたキャリアの公式サポートページで、最新の手続き方法を確認する必要があります。
見落とされがちなのが、docomo・au・SoftBankのいずれも、スマートフォン本体のロック解除そのものには対応していないという点です。キャリアは回線契約を管理する立場であり、端末本体のパスコードロックを解除する技術や権限を持っていません。キャリアに相談してできるのは端末の初期化だけで、初期化すると保存されていた写真や連絡先、メッセージなどのデータはすべて失われます。ロックを解除できないまま契約だけ維持していても、内部のデータを見ることはできません。故人のスマートフォンに残されたデータをどうしても確認したい場合は、キャリアではなく専門のデジタル遺品整理業者にロック解除を依頼する必要があります。生前のうちに端末のパスコードやパターンを家族と共有しておく意味は、ここにあります。
FacebookとInstagramは追悼アカウントに切り替えられる
故人が利用していたSNSアカウントの扱いも、生前に決めておきたいテーマです。SNSごとに死後の対応方針は大きく異なります。
Meta社が運営するFacebookとInstagramには追悼アカウントという機能があり、比較的手厚い対応が可能です。Facebookはアカウントを完全に削除する方法と、追悼アカウントに切り替える方法の2つから選べ、いずれの手続きにも死亡診断書や家族であることを証明する書類の提出が必要です。Instagramも追悼アカウントへの移行かアカウント削除かを選択でき、申請ページで申請者情報や故人のアカウント名、本名、逝去日を記入したうえで死亡証明書の提出が求められます。申請できるのは故人の近親者に限られます。
X(旧Twitter)には追悼アカウントの機能がなく、遺族が行えるのはアカウントの削除申請のみです。2023年3月からは日本語の申請フォームが用意され、以前より手続きはしやすくなりましたが、申請者の身分証明書や故人の死亡証明書のコピーなど、何度かの書類・メールのやり取りが必要になります。LINEにも追悼アカウントのような機能はなく、削除対応が基本です。生前のうちに「どのSNSを削除してほしいのか、追悼アカウントとして残してほしいのか」という意思をエンディングノートに書き残しておくと、遺族の手続き負担が減ります。
行政書士への相談は初回無料の事務所が多い
デジタル遺品の整理は、機器の技術的な解除作業だけでなく法律的な手続きが絡む場面も多くあります。専門業者への依頼と並行して、行政書士や弁護士に相談するという選択肢もあります。相続に関する業務を扱う行政書士事務所の中には、死後事務委任契約の中にデジタル遺品関連の業務を組み込み、おひとりさまの終活を包括的にサポートしているところがあります。初回相談を無料で受け付けている事務所も多く、平日日中だけでなく土日祝日に対応している事務所もあるため、忙しい人でも相談しやすくなっています。
デジタル遺品の復旧・整理サービスには、データの初期化からデータ復旧、複数の作業をまとめたパックプランまでさまざまな料金体系が存在します。自分の状況を専門家に伝え、事情に合ったプランを提案してもらうのが、費用面でも安心につながる進め方です。
デジタル遺品の生前整理にかかる料金への向き合い方をまとめると、機器1台あたり2万円から5万円という業者依頼の相場を基準に置きつつ、まずは自分でできる範囲の整理を進めるのが現実的な順番です。利用しているサービスの棚卸し、不要なデータやサービスの解約、パスワード管理方法の確立、エンディングノートへの情報集約を時間のあるうちに進めておけば、業者に依頼する必要そのものが減り、依頼するとしても作業範囲を絞り込めます。自分だけでの整理が難しい場合や、既に相続が発生してしまった場合は、対応範囲や実績、見積もりの明確さを比較したうえで専門業者に依頼する、という順序で考えるのが無理のない進め方です。








