人生の最期に向けた準備として、エンディングノートを作成する重要性が高まっています。しかし、従来の紙のエンディングノートでは、記入の手間や保管場所の問題、さらには家族が見つけられないリスクなど、多くの課題が存在しました。そこで注目されているのが、エンディングノートのデジタル化サービスです。スマートフォンやパソコンから簡単に情報を記録・更新でき、万が一の時には確実に家族へ伝達される仕組みが整っています。特に2025年以降は団塊の世代が後期高齢者となる「大相続時代」を迎え、デジタル資産の管理や相続手続きの複雑化が社会問題となっています。ネット銀行の口座、各種サブスクリプションサービス、SNSアカウントなど、物理的な実体を持たない資産が増加する中で、これらの情報を確実に家族へ引き継ぐ必要性が急速に高まっているのです。本記事では、エンディングノートのデジタル化サービスについて、主要な選択肢を比較し、それぞれの料金体系や特徴を詳しく解説します。

デジタル終活が求められる時代背景
日本社会は今、かつてない規模の「多死社会」を迎えようとしています。約800万人に上る団塊の世代が2025年にすべて75歳以上の後期高齢者となることで、国内の年間死亡者数は現在の約140万人から、ピーク時には168万人に達すると予測されています。この未曾有の変化は、相続手続きや終活支援サービスに対する需要を爆発的に増大させる根源的な推進力となっています。
相続の課題は単に件数が増えるという量的な問題だけではありません。資産の質的な変化が、問題をより一層複雑化させているのです。従来の不動産や預貯金に加えて、ネット銀行、ネット証券、各種サブスクリプションサービス、SNSアカウントといった、物理的な実体を持たないデジタル遺品が急速に増加しています。これらのデジタル資産は、本人しかその存在やアクセス方法を知らないケースが多く、遺族がその存在に気づかなかったり、ログインIDやパスワードが不明でアクセスできなかったりするリスクが顕在化しています。
実際に、貴重な資産が引き継がれずに失われたり、不要なサービス料金が引き落とされ続けたりといった問題が発生し、遺族に多大な管理的・精神的負担を強いることになっています。ある調査によれば、デジタル終活に関する最大の不安として「スマホやPCのパスワードが分からず家族が困ること」を挙げる人が28.1%に上り、次いで「契約中のサブスクやネット口座の解約が心配なこと」が23.7%となっています。この結果は、終活の動機が自己の人生を振り返るといった内省的な欲求よりも、遺される家族に迷惑をかけたくないという極めて現実的なリスク回避の意識に根差していることを示しています。
一方で、終活への取り組みはなかなか進んでいないのが現状です。60歳から74歳の層において77.1%が終活を「必要」と感じているにもかかわらず、実際に「始めている」のは42.4%に留まっているというデータがあります。この意識と行動の乖離の背景には、紙媒体のエンディングノートを準備して手書きで記入するという行為自体が心理的・時間的に高いハードルとなっていることや、相続には法律が絡むという専門性の高さ、そして「まだ緊急ではない」という意識が行動への一歩を妨げていることが挙げられます。
このような社会的背景の中で、デジタル終活サービスは、従来の終活が抱えていた心理的ハードルを下げ、デジタル遺品という新しい課題に対応するソリューションとして注目を集めているのです。
エンディングノートをデジタル化するメリット
エンディングノートをデジタル化することには、紙媒体にはない多くの利点があります。最も大きなメリットは、いつでもどこでも簡単に情報を記録・更新できるという点です。紙のノートの場合、ペンを用意して机に向かう必要がありますが、デジタルサービスならスマートフォンから数分で情報を入力できます。この手軽さが、終活を「重い」タスクから「日常の延長線上」にある行為へと変える重要な要素となっています。
次に、情報の一元管理と自動連携が可能になる点も大きな魅力です。多くのデジタル終活サービスでは、複数の金融機関と連携して、預貯金、証券、保険などの資産状況をリアルタイムで一元的に把握できる機能を提供しています。これにより、利用者は日々の家計管理ツールとしても活用でき、終活という非日常的なタスクへの入り口としての役割を果たします。資産の増減が自動的に反映されるため、定期的に手書きで更新する必要がなく、常に最新の情報が保たれます。
デジタルならではの利点として、情報の共有設定を細かくカスタマイズできるという点も見逃せません。「誰に」「どの情報を」「いつ」開示するかを項目ごとに設定できるため、例えば資産情報は本人の死後に相続人全員に、介護に関する希望は存命中に長男にのみ、といった柔軟な指定が可能です。このきめ細かな設定により、情報のプライバシーと実用性を両立させることができます。
さらに、音声や動画でのメッセージ保存が可能な点も、デジタル化の大きな利点です。紙媒体では文字でしか想いを伝えられませんでしたが、デジタルサービスなら自分の声や映像で家族へのメッセージを残すことができます。これにより、より人間味のある「想い」の継承が実現します。文字では表現しきれない感情やニュアンスを、そのまま大切な人へ届けることができるのです。
加えて、確実な情報伝達の仕組みが整っている点も重要です。紙のエンディングノートは、家族がその存在を知らなければ意味がありませんし、保管場所を忘れてしまうリスクもあります。一方、デジタルサービスの多くは、金融機関との連携や専用の情報伝達プロセスを構築しており、本人の死後に確実に指定された家族へ情報が届く仕組みを提供しています。
これらのメリットを総合すると、デジタル終活サービスは「気づいたらエンディングノートができている」という世界観を実現するものだと言えます。利用者はまず、日々の資産管理や家計簿といった実用的で利用頻度の高い機能から使い始め、そして子供の進学や住宅購入、親の相続といったライフイベントの節目ごとに、少しずつ介護や葬儀の希望といった終活情報を追記・更新していくことができます。これにより、「終活を始める」と気負うことなく、自然な流れでエンディングノートを完成させることが可能になるのです。
主要なデジタル終活サービスの比較
エンディングノートのデジタル化サービスは、提供主体によって特徴や料金体系が大きく異なります。ここでは、市場で注目されている主要なサービスを比較し、それぞれの特徴を詳しく見ていきます。
銀行系サービスの特徴
大手銀行が提供するデジタル終活サービスは、信頼性と情報伝達の確実性という点で大きな強みを持っています。秘匿性の高い個人資産やプライベートな意思を預けるにあたり、利用者が最も重視するのは「信頼」です。日頃から資産管理を任せている主要取引銀行が提供主体となることで、利用者は格段に高い安心感を得ることができます。
三菱UFJ信託銀行「わが家ノート」は、市場における最も強力なサービスの一つです。最大の特徴は、すべての機能が無料で提供されている点です。資産管理やエンディングノート機能に留まらず、歩数計や脳トレといった日々の健康管理、家族の見守り機能、写真アルバム機能までを網羅しており、利用者の日常的なエンゲージメントを高める設計となっています。情報開示のタイミングも「今すぐ」「認知症診断後」「死亡後」と細かく設定可能で、そのプロセスも明確に定義されています。無料で包括的なサービスを提供することで、顧客との接点を増やし、長期的な関係性を構築する戦略が見て取れます。
三井住友銀行「SMBCデジタルセーフティボックス」は、SMBCダイレクト(インターネットバンキング)に統合されたサービスとして提供されています。このサービスのコンセプトは「銀行を情報の金庫(セーフティボックス)として利用する」というものであり、情報の安全な保管と遺族へのスムーズな伝達に焦点を当てています。銀行の堅牢なセキュリティ環境を前面に押し出すことで、プレミアムなセキュリティを求める顧客層をターゲットにしています。
銀行系サービスの最も重要な優位性は、相続発生時の情報伝達プロセスが確立されている点です。金融機関は、相続発生時に遺族が口座凍結などの手続きで必ず訪れる場所であり、情報開示のトリガーとして最も確実な接点となります。スタンドアロンのアプリが抱える最大の課題である「利用者の死をいかにして確実に検知し、指定された相手に情報を伝達するか」という問題を、既存の業務プロセスと統合することで解決しているのです。
NTTデータの新サービス「Memory Container」
2025年12月から提供が開始されるNTTデータ「Memory Container」は、金融機関向けに提供されるB2B2Cモデルのサービスです。このサービスは、金融機関を介してエンドユーザーに提供されるため、利用者は自身のメインバンクを通じてサービスを利用することになります。
「Memory Container」の核心的な機能は、資産情報の自動集約にあります。金融機関との口座連携により、利用者は預貯金、証券、保険などの資産状況をリアルタイムで一元的に把握・管理できます。これは日々の家計管理ツールとしても機能し、終活という非日常的なタスクへの入り口としての役割を果たします。
詳細な情報共有設定も特徴の一つです。デジタルならではの利点として、「誰に」「どの情報を」「いつ」開示するかを項目ごとに細かく設定できます。資産情報といった事務的な記録に加え、介護、葬儀、墓に関する本人の希望や、家族へのメッセージを記録する機能も備えています。特に、音声や動画でのメッセージ保存機能は、紙媒体では不可能だった、より人間味のある「想い」の継承を可能にします。
このサービスの戦略的特徴は、エンドユーザーに直接提供されるのではなく、金融機関を介して提供される点にあります。この選択には、NTTグループが過去に展開していたB2Cサービス「楽クラライフノート」の教訓が反映されています。「楽クラライフノート」は2021年8月に提供開始され、月額300円のサブスクリプションモデルでしたが、2024年6月にサービスを終了しました。最大の課題はユーザーの継続率、すなわちマネタイズにあったとされています。
終活情報の記録や更新は、本質的に利用頻度が低い行為です。多くの利用者にとって、それは年に数回、あるいは数年に一度のタスクであり、日常的にアプリを起動する動機付けが弱いのです。また、エンディングノートの中核的価値は「万が一の時に備えて情報を残す」ことであり、その恩恵を最も受けるのは本人ではなく遺族です。利用者自身が毎月支払うコストに見合うだけの「現在の価値」を提供し続けることが困難でした。
この失敗から学び、NTTデータは戦略を転換しました。エンドユーザーに直接課金するB2Cモデルから、金融機関を顧客とするB2B2Cモデルへ、そしてエンドユーザーからの月額課金から金融機関からのシステム利用料へとマネタイズの方法を変更したのです。金融機関がそのコストをエンドユーザーに転嫁するかは各行の判断に委ねられますが、このモデルにより、より持続可能なビジネス構造が実現されています。
フィンテック企業のアプローチ
マネーフォワード MEは、本来は個人資産管理(PFM)アプリですが、多数の金融機関との連携による強力な資産集約機能は、相続準備のための財産目録作成ツールとして事実上機能しています。多くのユーザーがすでに日々の家計管理で利用しており、終活への自然な拡張性を有しています。
マネーフォワードの強みは、既存のユーザーベースと日常的な利用習慣にあります。終活専用アプリの場合、利用者は「終活のため」という重いモチベーションを持って新たにアプリをダウンロードする必要がありますが、マネーフォワード MEは日々の家計管理という実用的な目的で既に利用されているため、終活機能は追加的な価値として自然に受け入れられます。
さらに、マネーフォワードは「マネーフォワード お金のバトン」といった相続に特化したサービスも展開しており、この領域への戦略的な注力を明確にしています。資産管理から相続準備、そして実際の相続手続きまでをカバーする包括的なエコシステムの構築を目指していることが伺えます。
専門特化型サービスの多様性
市場には、特定の機能に特化したアプリも数多く存在します。「らくつぐ」は、簡単な質問に答えるだけで遺言書の下書きが作成できることを特徴としています。法的な専門性が求められる遺言書作成という分野において、利用者の負担を大幅に軽減するアプローチを取っています。
「100年ノート」は、シンプルな操作性と音声メッセージ機能が特徴です。複雑な機能を排除し、本当に必要な情報の記録と伝達に特化することで、高齢者でも使いやすいインターフェースを実現しています。
「Will-遺書-」は、大切な人へのメッセージを遺すことに特化したサービスです。資産管理や法的手続きよりも、感情的な想いの継承を重視する利用者のニーズに応えています。
これらの専門特化型サービスの存在は、市場がまだ成熟期にはなく、様々なニーズに応じた断片的なソリューションが乱立している状況を示しています。利用者は自身のニーズに最も合致するサービスを選択できる一方で、複数のサービスを併用する必要が生じる可能性もあります。
エンディングノートデジタル化サービスの料金体系
デジタル終活サービスの料金体系は、サービスの提供主体や戦略によって大きく異なります。ここでは、主要な料金モデルとその特徴を詳しく見ていきます。
完全無料モデル
三菱UFJ信託銀行の「わが家ノート」に代表される完全無料モデルは、利用者にとって最も参入障壁が低い選択肢です。すべての機能を無料で提供することで、できるだけ多くの顧客との接点を確保し、長期的な関係性を構築することを目指しています。
このモデルの背後にある戦略は、直接的な収益化よりも、顧客との日常的なエンゲージメントを高め、相続発生時に確実に最初の相談先となることで、相続資産の他行への流出を防ぐことにあります。金融機関にとって、相続は顧客との関係が次世代へ引き継がれるか、他行へ流出するかの重要な分岐点です。デジタル終活サービスを通じて遺族との最初の接点となることで、次世代の顧客との関係を構築し、相続資産を維持することができるのです。
利用者の立場からすると、無料であることは大きな魅力です。終活の必要性は感じていても、まだ緊急性を感じていない段階では、有料サービスへの課金に躊躇する人も多いでしょう。無料であれば、気軽に始めることができ、使いながら徐々に情報を充実させていくことが可能です。
フリーミアムモデル
フリーミアムモデルは、基本機能は無料で提供し、より高度な機能やサービスについては有料とする料金体系です。マネーフォワード MEなど、多くのフィンテックサービスがこのモデルを採用しています。
マネーフォワード MEの場合、無料プランでは一定数の金融機関連携や基本的な資産管理機能が利用できますが、より多くの金融機関と連携したり、過去のデータを無制限に閲覧したり、資産推移のグラフを詳細に分析したりするには、月額500円程度のプレミアムプランへの加入が必要となります。
このモデルの利点は、利用者が自身のニーズに応じて料金プランを選択できる点です。まずは無料プランで試してみて、サービスの価値を実感してから有料プランへ移行できるため、心理的な抵抗が少なくなります。また、サービス提供者にとっても、無料プランで幅広いユーザーベースを確保しつつ、コアユーザーから安定的な収益を得るという、バランスの取れたビジネスモデルとなります。
金融機関経由の提供モデル
NTTデータの「Memory Container」のような金融機関経由の提供モデルでは、エンドユーザーへの料金設定は各金融機関の判断に委ねられます。金融機関はNTTデータにシステム利用料を支払いますが、そのコストをエンドユーザーに転嫁するか、顧客サービスの一環として無料で提供するかは、各行の戦略次第です。
このモデルの特徴は、利用者にとっての支払先が明確である点です。IT企業への月額課金ではなく、既に取引のある金融機関のサービスの一部として提供されるため、料金が発生する場合でも、既存の口座維持手数料や各種手数料の延長線上として理解しやすくなります。
また、金融機関は顧客の属性や取引状況に応じて、サービスの提供条件を柔軟に設定できます。例えば、一定額以上の預金残高を持つ顧客には無料で提供し、それ以外の顧客には月額数百円の料金を設定する、といった差別化が可能です。これにより、優良顧客の囲い込みと収益化を同時に実現することができます。
過去のサブスクリプションモデルの課題
NTTファイナンスの「楽クラライフノート」が採用していた月額300円のサブスクリプションモデルは、2024年6月のサービス終了により、その課題が明らかになりました。
このモデルの最大の問題は、継続的な価値提供の難しさにありました。終活情報の記録や更新は本質的に利用頻度が低く、利用者が毎月支払うコストに見合うだけの「現在の価値」を感じにくいのです。健康管理機能などを追加して日常的な利用を促そうとしましたが、月額300円を支払い続けるほどの強い習慣を形成するには至りませんでした。
さらに、エンディングノートの中核的価値は「万が一の時に備えて情報を残す」ことであり、その恩恵を最も受けるのは本人ではなく遺族です。将来の家族のために毎月お金を払い続けるというモデルは、多くの利用者にとって心理的に継続が難しかったと考えられます。
この失敗は、終活という低頻度かつ高信頼性が求められる領域において、スタンドアロンのサブスクリプションアプリというビジネスモデルは構造的に持続可能性が低いという重要な教訓を示しています。
サービス選択時のポイント
エンディングノートのデジタル化サービスを選ぶ際には、いくつかの重要なポイントを考慮する必要があります。
信頼性と情報伝達の確実性
最も重視すべきは、情報が確実に家族へ伝達される仕組みが整っているかという点です。どれほど優れた機能を持つサービスでも、利用者の死後に情報が家族に届かなければ意味がありません。
金融機関が提供するサービスは、相続手続きという既存のプロセスと統合されているため、情報伝達の確実性において優位性があります。遺族は相続が発生すると、必ず金融機関を訪れて口座の手続きを行うため、その際にエンディングノートの存在を確実に知ることができます。
一方、スタンドアロンのアプリの場合、家族がアプリの存在を知らなければアクセスできないというリスクがあります。一部のサービスでは、定期的な確認メールに一定期間反応がない場合に、あらかじめ登録された家族へ通知する仕組みを導入していますが、その確実性については慎重に評価する必要があります。
日常的な利用価値
終活情報の記録や更新は低頻度のタスクであるため、日常的にも価値を感じられる機能があるかが、サービスの継続利用において重要です。
資産管理や家計簿機能が充実しているサービスであれば、日々の生活の中で自然に使用する習慣が形成され、その延長線上で終活情報も少しずつ充実させていくことができます。三菱UFJ信託銀行の「わが家ノート」のように、健康管理や家族の見守り機能を備えているサービスも、日常的なエンゲージメントを高める効果があります。
逆に、終活機能のみに特化したサービスの場合、一度情報を入力した後はほとんどアプリを開かなくなり、情報の更新が滞るリスクがあります。ライフイベントに応じて定期的に情報を見直す習慣を自分で作る必要があります。
セキュリティとプライバシー
デジタル終活サービスには、極めて機密性の高い個人情報が保存されます。資産情報、医療情報、家族へのプライベートなメッセージなど、絶対に第三者に漏れてはならない情報ばかりです。
したがって、サービスのセキュリティ対策がどの程度強固であるかを確認することが不可欠です。データの暗号化、二段階認証の有無、サーバーの所在地、運営企業の信頼性などを総合的に評価しましょう。
三井住友銀行の「SMBCデジタルセーフティボックス」のように、銀行の堅牢なセキュリティ環境を活用しているサービスは、この点で高い信頼性を提供しています。また、NTTデータのような大手IT企業が構築するインフラも、セキュリティ面での安心感があります。
情報共有の柔軟性
家族構成や状況は人それぞれ異なるため、誰に何をいつ開示するかを柔軟に設定できるかも重要なポイントです。
例えば、配偶者には全ての情報を共有したいが、子供には資産の詳細は知らせたくない、あるいは特定の家族には存命中から介護の希望を共有しておきたい、といったニーズがあります。細かな設定が可能なサービスであれば、このような複雑な要求にも対応できます。
また、後から設定を変更できるかも確認しましょう。家族関係や状況は時間とともに変化するため、一度設定したら変更できないというサービスでは、柔軟性に欠けます。
コストパフォーマンス
料金と提供される価値のバランスも、長期的な利用を考えると重要です。無料サービスは魅力的ですが、将来的にサービスが終了するリスクや、機能が限定的である可能性も考慮する必要があります。
有料サービスの場合、その料金が自分にとって払い続けられる金額か、そして提供される機能や安心感がその金額に見合っているかを冷静に判断しましょう。月額数百円でも、10年、20年と支払い続けることを考えると、決して小さな金額ではありません。
一方で、確実な情報伝達や手厚いサポートが受けられるのであれば、適正な対価を支払う価値はあります。特に、遺族が相続手続きで困らないようにするという本来の目的を考えれば、信頼性の高いサービスへの投資は意義があると言えるでしょう。
利用者インターフェースの使いやすさ
どれほど高機能なサービスでも、操作が複雑で使いこなせなければ意味がありません。特に、高齢の利用者にとっては、シンプルで直感的なインターフェースが不可欠です。
無料トライアル期間があるサービスであれば、実際に使ってみて、自分にとって使いやすいかを確認することをお勧めします。画面の見やすさ、文字の大きさ、操作の分かりやすさなど、実際に触れてみないと分からない要素も多くあります。
また、スマートフォンのみで利用するのか、パソコンからも利用するのかによっても、適したサービスは異なります。自分の利用スタイルに合ったデバイス対応をしているかも確認しましょう。
デジタル終活サービスの今後の展望
エンディングノートのデジタル化サービス市場は、今後さらなる発展が予想されます。人口動態の変化による需要の増大は確実であり、市場全体の規模は拡大していくでしょう。
市場の二極化が進む可能性があります。一方では、無料で包括的なサービスを提供し、圧倒的なユーザー数を獲得することで市場を支配しようとする銀行系サービス。もう一方では、特定のニーズに特化した有料の専門サービスが、コアなユーザーを獲得していく構図です。
また、終活ツールは単なる情報記録ツールから、より広範な「ライフプランニング・プラットフォーム」へと進化していくと考えられます。若い世代から使い始め、人生の各段階でのライフイベント、資産形成、健康管理、そして最終的に終活までを一貫してサポートする総合的なプラットフォームへの発展です。
テクノロジーの進化も市場に影響を与えます。人工知能を活用した自動アドバイス機能や、ブロックチェーン技術による情報の真正性保証、生体認証によるセキュリティ強化など、新しい技術の導入により、サービスの利便性と信頼性はさらに向上していくでしょう。
同時に、法制度の整備も進むと予想されます。デジタル遺品に関する法的な位置づけや、デジタル終活サービスの情報伝達プロセスの法的有効性など、現在はまだグレーゾーンとなっている部分について、明確なルール作りが進められる可能性があります。
業界の統合や提携も活発化するでしょう。金融機関、IT企業、法律事務所、葬儀会社など、異なる業界のプレイヤーが連携し、ワンストップで終活から相続までをサポートする包括的なサービスが登場する可能性があります。
まとめ
エンディングノートのデジタル化サービスは、大相続時代を迎える日本社会において、ますます重要性を増しています。紙のエンディングノートが抱えていた記入の手間や情報伝達の不確実性といった課題を解決し、デジタル遺品という新しい問題にも対応できるソリューションとして注目されています。
主要なサービスには、三菱UFJ信託銀行の「わが家ノート」のような完全無料の銀行系サービス、三井住友銀行の「SMBCデジタルセーフティボックス」のようなセキュリティ重視型、2025年12月開始予定のNTTデータ「Memory Container」のような金融機関経由のB2B2Cモデル、そしてマネーフォワード MEのようなフィンテック企業の資産管理サービス、さらには特定機能に特化した専門サービスなど、多様な選択肢が存在します。
料金体系も、完全無料からフリーミアム、金融機関経由の提供、サブスクリプションまで、様々なモデルが試されています。過去のサブスクリプションモデルの失敗は、終活という低頻度のタスクに対して継続的な価値を提供することの難しさを示しており、日常的な利用価値を組み込んだサービス設計の重要性が浮き彫りになっています。
サービスを選択する際には、情報伝達の確実性、日常的な利用価値、セキュリティ、情報共有の柔軟性、コストパフォーマンス、そして使いやすさといった多面的な観点から総合的に評価することが重要です。自身のライフスタイル、家族構成、デジタルリテラシー、そして何を最も重視するかによって、最適なサービスは異なります。
今後、市場はさらに成長し、サービスも進化していくでしょう。終活という人生の重要な準備を、テクノロジーの力でより身近で確実なものにするデジタル終活サービス。その選択と活用が、あなた自身と大切な家族の未来を守る鍵となるのです。









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