家族信託で兄弟トラブルを防ぐ方法とは?回避対策を徹底解説

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家族信託における兄弟間トラブルは、事前の家族会議の開催、信託監督人の設置、公正証書での契約書作成によって回避できます。家族信託は高齢の親御様の財産管理や認知症対策として有効な制度ですが、兄弟姉妹間でトラブルに発展するケースも少なくありません。この記事では、家族信託で兄弟間トラブルが起きる原因を詳しく分析し、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策について解説します。家族信託を検討されている方、すでに家族信託を開始しているがトラブルを心配されている方にとって、有益な情報をお届けします。

目次

家族信託とは何か

家族信託とは、資産を持つ方が特定の目的に従って、その保有する不動産や預貯金などの資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。「家族の家族による家族のための信託」とも呼ばれています。現在の信託法は2007年(平成19年)9月30日に施行されました。

家族信託は主に、高齢の親御様が認知症などで判断能力をなくしたときに起こりうる「資産凍結」を防ぐ目的で利用されます。資産凍結を防ぐことで「親のお金を親本人のために、柔軟に使える」という大きなメリットがあります。

家族信託の仕組みと登場人物

家族信託では主に3名の当事者が登場します。委託者は財産を託す人であり、多くの場合は親が該当します。受託者は財産の管理を委託者から任せられ、実際に財産の管理や運用をする人で、多くの場合は子が担います。受益者は家族信託によって利益を得る人であり、多くの場合は親自身となります。

信託された財産の名義は、財産を管理する受託者の名義に変更されます。そのため財産の管理がしやすくなることが大きなメリットです。例えば親が委託者兼受益者、子が受託者となる場合、親の不動産や預貯金の名義は子に移りますが、その財産から得られる利益(賃料収入など)は引き続き親が受け取ることができます。

家族信託のメリット

家族信託には多くのメリットがあります。まず資産凍結の回避が挙げられます。高齢の親御様が認知症などで判断能力をなくしたときに起こりうる資産凍結を防ぐことができ、認知症になっても受託者が代わりに財産を管理・処分できます。

柔軟な財産管理が可能になることも重要なメリットです。元気なうちから資産の管理・処分を託すことで、本人が判断能力を喪失した後も本人の意向に沿った財産管理をスムーズに実行できます。積極的な資産運用や組替え(不動産の売却・買換・アパート建設等)も、受託者たる家族の責任と判断で可能となります。

成年後見制度より自由度が高い点も見逃せません。成年後見制度では家庭裁判所に後見人の選任を申し立てする必要がありますが、家族信託なら家庭裁判所の関与なしで受託者を選ぶことができます。また成年後見制度では財産の積極的な運用は認められませんが、家族信託では契約内容次第で柔軟な運用が可能です。

財産の保護機能も備わっています。信託された財産は委託者(親)や受託者(子)の個人的な財産とは法的に切り離された「独立した財産」として扱われます。万が一委託者や受託者が個人的に多額の借金を負ったり事業が倒産したりしても、信託した財産が差し押さえられることはありません。

さらに二次相続以降の資産承継が指定できる点も大きな特徴です。家族信託では自分が亡き後の次の世代の相続についても指定することができます。例えば「自分の死後は妻に財産を、妻の死後は長男に」といった指定が可能です。遺言では一代限りの指定しかできませんが、家族信託では複数世代にわたる承継先を指定できます。

家族信託のデメリット

一方で家族信託には注意すべきデメリットもあります。節税効果がないことを理解しておく必要があります。家族信託には税務的なメリットが特段生じません。家族信託を「節税」のためではなく「資産凍結の回避」や「円滑な資産承継」のために利用するという本来の目的を明確に認識することが大切です。

身上監護権がない点も重要です。家族信託には身上監護権(医療や介護に関する契約を締結する権限)が含まれていません。各種医療・介護サービスとの契約が必要となる場合は、成年後見制度の活用を検討する必要があります。

契約に長期間拘束されるという特性もあります。信託契約が開始すると受託者は契約内容に従って財産管理を行う必要があり、仮に二代先、三代先と承継先を指定した場合、契約期間中は何十年もの間受託者は信託契約に拘束されることになります。

意思能力がないと契約できないという制約も存在します。信託契約の当事者が既に意思能力(判断能力)を失っていると看做される場合は契約行為ができないため、本制度の活用はできません。認知症が進行してからでは契約できない点に注意が必要です。

損益通算ができないという実務的な税務デメリットもあります。家族信託で収益不動産などを運用する場合、他の事業との損益通算ができません。信託財産から赤字(損金)が出た場合でも、委託者(受益者)が持つ他の事業や給与所得と相殺できません。

家族信託で兄弟間トラブルが起きる原因

家族信託において兄弟間でトラブルが発生するケースは決して珍しくありません。なぜトラブルが起きるのか、その主な原因を詳しく解説します。

情報共有・合意形成の不足

法律上、家族信託の契約は委託者(親)と受託者(子)の二者間の合意があれば成立します。他の兄弟に事前に知らせなくても信託契約自体は有効に結べてしまいます。しかし家族信託の内容を一部の兄弟だけで決めてしまうと、あとからほかの兄弟から「聞いていない」「不公平だ」と言われて揉める可能性があります。「妹に無断で兄が家族信託契約を結んでしまったため仲違いしてしまった」という事例は実際に発生しています。

受託者への権限集中と不信感

家族信託の契約では受託者に多くの権限が集中します。資産の管理・運用はもちろんのこと、契約内容で定められていれば不動産などの売却・処分も可能です。例えば親の資産を長男が管理する場合、その管理方法が兄弟には共有されず不透明であれば、他の兄弟は疑問を持ってしまいます。「弟が受託者として親の預金を管理しているが使い込みではないかと兄が疑っている」といったケースが典型的です。

信託財産の使途をめぐる疑念

受託者である長男が親から預かった信託金銭を兄弟に知らせず大きく減らしてしまった場合を考えてみましょう。実際には親の介護費用や医療費に充てた正当な支出だったとしても、領収書も見せず報告もなければ、他の兄弟は「もしかして自分の生活費や事業に流用したのでは?」と不信感を抱きます。このような疑念が積み重なると兄弟間の関係は悪化し、最悪の場合は訴訟に発展することもあります。実際に父の不動産管理を長男が受託した事例で、説明不足から次男が「隠し財産がある」と主張し裁判化し、解決に5年を要したケースがあります。

遺留分侵害の問題

遺留分とは法定相続人が保証される最低限の相続分のことです。配偶者、子ども(代襲相続人を含む)、及び直系尊属が有する権利であり、被相続人の兄弟姉妹には遺留分はありません。家族信託によって特定の兄弟に多くの財産が承継されるような設計になっている場合、他の兄弟の遺留分を侵害してしまう可能性があります。現状の通説では家族信託の信託受益権も遺留分の対象となります。

東京地裁平成30年9月12日の判決では「遺留分制度を潜脱する家族信託は公序良俗違反」であるとして、家族信託の信託受益権も遺留分の対象となると判断されました。遺留分を侵害された兄弟から、受託者や受益者となった兄弟に対して遺留分侵害額請求訴訟が起こされる可能性があります。

受益者の公平性の欠如

親の財産を信託し特定の兄弟だけが利益を受け取る仕組みにすると、他の兄弟の不満や疑念を招きかねません。たとえ本人(委託者)が望んでいたとしても、他の相続人から「不公平だ」と感じられるような構成では将来的なトラブルの火種になります。

契約書の不備

契約書の内容が不明確だったり不備があったりすると、解釈の違いで揉める可能性があります。家族信託の失敗で特に多いのが、自分で信託契約書を作成した場合や実務経験の少ない専門家に依頼した場合です。家族信託は弁護士や司法書士であっても複雑すぎて取扱わない専門家もいるほどです。間違えた契約書を作成すると無効となり、それまでの努力が水の泡になってしまいます。

委託者の意思能力をめぐる争い

信託無効訴訟の多くが「委託者の意思能力不足」を争点としています。例えば認知症初期の父親が信託契約を締結後、長女が「契約時点で意思能力が不十分だった」と主張し訴訟を提起した事例があります。裁判所は「診断書なし」「公正証書未使用」を理由に契約無効を認め、財産が法定相続分割されました。

兄弟間トラブルを回避するための具体的な対策

家族信託における兄弟間トラブルを未然に防ぐための具体的な対策について解説します。

家族会議の実施が最重要

家族信託を始める前には、関わる全員が参加する「家族会議」が必須です。この会議で信託の目的や役割分担、期待される成果についてオープンに話し合います。特に兄弟間のトラブルを避けるためには、親が元気なうちから家族会議を開くことが非常に効果的です。

開催のタイミングについては、親が元気なうちにまだ早すぎると思うくらいに招集をかけましょう。週末やお盆、年末年始、ゴールデンウィークなど家族・親族が一堂に会する際に、僅かな時間でも親のその時点での”想い”を伝えることから始めることが推奨されています。

継続的な開催も重要です。家族会議は一度開催して終わりではなく、その後は定期的な開催をし、親の近況と想いを伝え続けるのが理想的です。状況の変化に応じて信託内容の見直しが必要になることもあります。

情報の開示・共有として、親がどのくらいの資産を持ち、毎月の年金や賃料収入はどのくらいか等、老親が敢えて家族全員に情報を開示・共有することにより、将来の争族の火種を解消し、正確な現状把握とそれに基づく対策の要否を的確に検討することができます。

子からの提案の場合は、もし子側が親側に家族会議の提案をする場合は、親の財産目当ての話し合いではないこと、この家族会議は親自身にとって大変有意義であることをきちんと認識してもらう必要があります。

信託監督人・受益者代理人の設置

権限濫用や不正を防ぐため、家族信託では信託監督人と受益者代理人を設置する仕組みがあります。

信託監督人の役割は、受益者が「現に存する場合」に選任することができる者で、受益者保護を目的とし、信託が取り決め内容に従って適切に実行されているかどうかをチェックする人物です。「権限濫用」や「親族間の不信感」を防ぐ仕組みが、受託者をチェックする見張り役である信託監督人です。弁護士や司法書士、税理士などの専門家を信託監督人として選ぶケースが一般的であり、より適切に監視の機能が働くと言えます。

受益者代理人の役割は、受益者に代わって受託者を監督したり、金銭の給付など受益権を請求する人です。受益者代理人は信託監督人と異なり「受託者を監督する権利」のみならず「意思決定に関する権利」も有します。受益者代理人は広い意味では信託監督人と同じ目標を持っており、いずれも受益者の保護を目指しています。しかし受託者に注目する信託監督人に対し、受益者代理人は受益者に注目します。

設置方法について、信託監督人の選任手続については信託法第131条に定められていますが、大きくわけて2つの方法があります。一つ目は信託契約において指定する方法です。受託者や受益者を設定するのと同じように信託契約において「○○を信託監督人とする」旨指定しておけば良いのです。信託契約は委託者と受託者の2者間で締結する契約であって信託監督人は当事者ではないため、信託契約において信託監督人を指定する際にはあらかじめ本人の同意を得ておくとよいでしょう。二つ目は受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において、利害関係人の申立てにより裁判所が信託監督人を選任する方法です。

受益者代理人を設置するためには信託契約書に受益者代理人を指定する定めが必要です。信託契約書に受益者代理人を指定する定めがない場合、受益者代理人を設置することはできません。裁判所に申立てをしても裁判所は受益者代理人を選任することはできません。

設置のタイミングとして、受益者代理人と信託監督人は信託契約当初から定めることも、事後的に設置することも可能です。受益者代理人が選任されるとその時点で受託者を監督する権利及び信託行為において定めた権利を除き、受益者自身で権利を行使することができなくなります。したがって受益者が元気な内は受益者自身で権利を行使してもらい、「受益者が認知症と診断されたとき」や「受益者に後見の審判が開始されたとき」など条件を付けて受益者代理人が選任されるよう信託契約書の内容を工夫する必要があります。

選任の資格・注意点について、未成年者及びその信託の受託者は受益者代理人にはなれません。一方それ以外の人であれば個人や法人を問わず特別な資格も必要なく受益者代理人になれます。受益者代理人は信託変更、信託終了など信託に関して重要な意思決定権限をも有するため、候補者を適切に選任する必要があります。できれば受託者と同様に財産管理の役割を担えるような身近な親族から選任すべきです。

第二受託者の設定による兄弟の関与

第二受託者とは、現在の受託者が死亡などにより信託事務を遂行できなくなった場合に、新たな受託者として任命される者を指します。例えば長男を受託者、次男を第二受託者に指定することで、次男が相談相手になるなど受託者の負担を軽減できます。また次男も信託に関与することで情報共有が進み、兄弟間の不信感を軽減する効果も期待できます。

第二受託者を設定することには、万が一の際の継続性の確保、他の兄弟の参加意識の向上、受託者一人に負担が集中することの防止、兄弟間のコミュニケーションの活性化といったメリットがあります。

複数の信託契約を締結する方法

委託者と兄弟それぞれが個別に信託契約を締結する方法があります。複数の信託契約を結ぶ利点は、信託財産の性質に合わせてそれぞれ最適な受託者を指定できる点にあります。例えば親が所有する複数の不動産について、Aの不動産は長男を受託者とする信託契約、Bの不動産は次男を受託者とする信託契約というように分けることができます。これにより各兄弟が責任を持って財産管理に携わることができ、公平性も確保しやすくなります。

遺留分への配慮

家族信託でどのような設定をしようが、遺留分を侵害しなければ遺留分侵害額請求の問題は生じません。全財産を信託したいと考えても、一定の範囲内に抑えた信託を実行することが大切です。

遺留分対策の方法としては、まず信託財産の範囲の調整があります。遺留分を侵害しないよう信託する財産の範囲を調整し、他の兄弟にも十分な財産が残るよう設計することが重要です。

生命保険の活用も有効な方法です。生命保険の死亡保険金は遺留分の対象にはなりません。この特性を活かして一時払い終身保険などの生命保険を遺留分対策として利用することができます。

生前贈与の活用として、計画的な生前贈与を行うことで相続時の財産を調整し、遺留分問題を軽減することができます。

二次相続の活用も検討に値します。家族信託では一次相続は遺留分の対象となりますが、二次相続では遺留分の対象とならないという見解が通説です。この点を考慮した設計も有効です。

専門家への相談の重要性

家族信託の契約にあたっては民法・信託法・税法など専門的な知識が必要になります。当事者のみで信託契約を進めても法律上の問題はありませんが、手続きの負担と後々のトラブルを避けるためには専門家への依頼や専用サービスの活用を検討しましょう。

司法書士への依頼について、家族信託の手続きを依頼する専門家としてもっとも一般的といえるのは司法書士です。司法書士の主な業務領域は登記や相続であり、家族信託にくわしい司法書士も多数います。特に信託財産に不動産が含まれる場合、不動産登記の手続きが必要になり、司法書士に依頼するとスムーズに進めてもらえます。ただし司法書士の場合は弁護士とは異なり法律上の紛争解決の交渉はできません。家族や親族間でトラブルが発生しそうなケースの場合、対応が難しくなる可能性があります。

弁護士への依頼について、弁護士は法律に関する依頼内容に制限を受けないため多岐に渡る業務を行えるメリットがあります。家族信託をめぐるトラブルで訴訟が起こった場合でも代理人として交渉することが可能です。ただし家族信託を専門とする弁護士は少なく、不動産登記にくわしい弁護士も多くありません。また司法書士や行政書士などほかの法律の専門家に比べて依頼料が高額になりやすい点も注意が必要です。

専門家選びのポイントとして、家族信託は比較的新しい制度であり制度に詳しくない司法書士も中にはいます。経験や知識の少ない司法書士に依頼してしまうと時間がかかる、余計な税金や手間が発生する恐れもあります。家族信託に詳しい税理士・弁護士や不動産会社とのネットワークを構築している司法書士を選ぶのが良いでしょう。

公正証書での契約書作成

家族信託契約書は公正証書で作成することを強くお勧めします。公正証書で作成することには以下のようなメリットがあります。

信託口口座の開設が可能になる点が重要です。ほとんどの金融機関では信託口口座を開設する際、信託契約書を公正証書とすることを条件に設けています。信託口口座とは信託財産を管理するための専用の銀行口座で、受託者の個人財産と明確に区分されます。

高い証明力とトラブル防止も期待できます。公正証書は信用性や証拠としての力(証明力)が高く、後に偽造や改ざんなどを理由に無効になる可能性が低いです。第三者である公証人が契約当事者の意思を確認することがトラブルの回避につながります。

改ざん・紛失リスクの回避ができます。公正証書で契約書を作成した場合、契約書の原本は公証役場に保管されるため改ざんの恐れがなくなります。紛失してしまった場合でも再発行が可能です。

意思能力の証明としても機能します。公証人が契約時に当事者の意思能力を確認するため、後から「契約時に意思能力がなかった」という主張がされにくくなります。

公正証書作成の手続きの流れとしては、まず自分で作成する場合は誰に、どの財産を信託し、どのように管理するのかなどについて入念に決めておきます。次に公証役場との打ち合わせを行いますが、複数回にわたることがあります。当日の手続きでは公証人による本人確認と契約内容の読み上げが行われます。問題がなければ公正証書となる書面に本人と公証人が署名・押印し、作成費用を支払って手続き終了となります。

定期的な報告体制の構築

受託者から他の兄弟への定期的な報告体制を構築することで不信感を防ぐことができます。報告内容としては、信託財産の現状(残高、評価額など)、収支報告(収入と支出の明細)、重要な決定事項の共有、今後の方針や計画などが考えられます。報告の頻度は半年に1回や年に1回など負担にならない範囲で定期的に行うことが望ましいです。報告書のフォーマットを決めておくと継続しやすくなります。

家族信託と成年後見制度の違いと選び方

家族信託と成年後見制度はどちらも高齢者の財産管理のための制度ですが、その性質は大きく異なります。両者の違いを理解し、適切に選択することが重要です。

制度の目的の違い

家族信託の目的は、子どもや孫など信頼できる家族に財産管理や処分、運用などを任せることです。財産管理する時期は人が生きているうちでも亡くなった後でもかまいません。成年後見の目的は、判断能力が低下した人が生活上で不利益を受けないように、後見人が財産管理や身上監護の面でサポートすることです。

利用できるタイミングの違い

成年後見が認知症等によって事理弁識能力がなくなった後に利用される制度であるのに対し、家族信託は認知症になる前に自身で契約しておく仕組みです。認知症発症後には家族信託が利用できず、成年後見制度しか選択肢がないという事実があります。

財産管理の自由度

家族信託は本人のする契約内容に基づいて開始されるため比較的自由度が高いです。財産の管理方法、財産を増やすための積極的な運用など、契約への定め方次第で受託者に多様な権限を与えることができます。一方の成年後見制度は「財産を増やす」のではなく「財産が不当に減らないようにする」ことが重視され、積極的な資産運用は原則として認められません。

裁判所の関与

家族信託では原則として裁判所の関与がありません。信託契約に基づいて受託者(多くの場合は家族)が自由に財産管理を行うことができます。任意後見を含む後見制度では裁判所の監督があり、成年後見制度の場合は家庭裁判所が後見人を選任し、定期的な報告義務が課されます。

身上監護の対応

任意後見を含む後見制度は身上監護に対応可能です。後見人は本人の意思を尊重しながら、医療や介護に関する決定、生活環境の整備などを行うことができます。家族信託は原則として身上監護に対応できません。家族信託は主に財産管理に特化した制度であるため、医療や介護に関する契約行為などは含まれません。

費用の違い

家族信託は制度開始時に50〜100万円程度の費用はかかるもののランニングコストはほとんどかかりません。一方で成年後見制度では手続き時に1万円弱の費用と月額数万円のランニングコストがかかります。

終了条件の違い

成年後見制度のデメリットについて、一番の問題点は「一度始めたら成年後見をやめる事は難しい」ということです。成年後見は被後見人が死亡するか症状が完治するまで続きます。家族信託は信託契約で定めた終了事由が発生すれば終了し、また委託者と受益者の合意により終了させることも可能です。

家族信託と成年後見制度の比較表

項目家族信託成年後見制度
利用開始時期認知症になる前認知症になった後も可
財産管理の自由度高い低い
裁判所の関与なしあり
身上監護対応不可対応可
初期費用50〜100万円程度1万円弱
ランニングコストほぼなし月額数万円
終了契約で定めた事由死亡または完治まで

選び方と併用のポイント

家族信託は柔軟で使い勝手が良いですが、認知症に完全になってしまった後は難しいです。成年後見制度は使い勝手が悪いですが、認知症に完全になってしまった後でも利用可能です。財産管理は家族信託で行い、身上監護は後見制度で対応するといった方法をとることも可能です。専門家に相談しながら総合的に判断することをお勧めします。

家族信託と成年後見制度は併用することが可能です。契約をできる状態にあるなら、信託契約と任意後見契約の両方を締結することも検討してみましょう。そうすることで財産の運用に加え将来の身上監護についても安心することができます。

家族信託の費用について

家族信託を検討する際には費用についても理解しておくことが重要です。

費用の全体相場

家族信託の費用相場は、自分で手続きする場合は約20万円、専門家に依頼する場合は約30〜100万円です。信託する財産の額・種類・件数によって、コンサル費、公正証書関連費、登記費用などにより費用が変わってきます。

専門家への報酬相場

弁護士や司法書士などに契約書の作成やコンサルティングを依頼する場合の費用は、信託財産の金額の1%前後が目安とされ、最低でも50万円以上かかることが多いです。信託財産が1億円以下の場合にはその1%程度が相場となり、信託財産が1億円〜3億円の場合、1億円を超える部分については0.5%となります。信託財産が3000万円以下でも最低30万円かかる事務所が多数です。

費用の内訳

専門家に依頼する場合の具体的な費用内訳を見てみましょう。コンサルティング費用は信託財産の1.1%程度です。家族信託契約書作成費用(弁護士など)は約6万円からとなっています。家族信託契約書を公正証書化する費用は3〜8万円程度です。不動産の信託登記のための登録免許税は固定資産税評価額の0.3%〜0.4%となっています。信託登記手続きの代行にかかる費用(司法書士)は約6万円からです。信託登記にかかる司法書士費用の相場は不動産の評価額や物件数などの条件で変わりますが、おおむね8万円〜12万円程度です。

自分で手続きする場合の注意点

自分で手続きする場合は公正証書の作成費用と信託登記の登録免許税の費用などで済むためコストを抑えられます。ただし公証人は契約の内容が法的に問題ないかなどの確認はしてくれますが、信託の内容については提案やアドバイスしてくれません。そのため家族信託の公正証書を作るときには、家族信託に詳しい専門家に契約内容をチェックしてもらうことがおすすめです。

よくある失敗事例と対策

家族信託でよくある失敗事例を知っておくことで、同じ過ちを避けることができます。

認知症が進行してからの契約

健康状態が悪化してから家族信託を始めるケースでは、せっかく契約の内容を決めたにも関わらず家族信託を開始できない失敗があります。認知症の症状が先に進行してしまうと契約締結時点で適切な判断ができないとみなされ、契約自体が行えず開始できないことが原因です。対策として心身ともに元気なうちから行動しましょう。家族信託の手続きには最短でも1か月半から2ヶ月を要します。

親族への説明不足によるトラブル

親族に相談なく進めてしまったり、当人同士の理解が曖昧なまま家族信託を締結してしまったりすると、締結後に「説明されなかった」と主張する親族が現れたり、家族や親族からのクレームにより家族信託がストップしてしまうトラブルが生じる可能性があります。家族信託の失敗で最も多いのがこの「人間関係」にまつわるものです。制度そのものの不備ではなく「始めるタイミング」と「家族への伝え方」を間違えたことで、良かれと思って始めた信託が火種になってしまうケースが後を絶ちません。対策として家族会議を開催し全員の理解と合意を得てから進めましょう。

契約書の不備

信託契約書には財産管理に関するルールのほか、家族信託開始後に生じるさまざまな事態を想定して各事態への処理方法を明記しなければなりません。十分な知識や検討に基づいて信託契約書を作成しないと、契約条項が互いに矛盾している、トラブルの処理方法が不明確だったために紛争が生じるなど深刻な事態に発展しかねません。対策として家族信託に詳しい専門家に依頼し、有効性を確保した契約書を作成しましょう。

想定外の税金発生

家族信託の契約が完了したあとの失敗例として、予想しなかった課税に苦しむ場合があります。毎年贈与税や所得税がかかったり、信託が終了するときに想定以上の相続税がかかってしまうケースです。家族信託の委託者が自分以外の人物に受益権を移動させた場合、受益者に対して贈与税が課税されます。対策として税理士など税務の専門家にも相談し、税務上のリスクを事前に把握しましょう。

信託できない財産を対象にしてしまう

家族信託で後悔、失敗してしまうケースでよくあるのは、信託できない財産を家族信託の対象にしてしまうケースです。例えば家族信託は農地や預金口座そのものを信託財産にすることはできません。対策として信託可能な財産について事前に専門家に確認しましょう。

住宅ローン返済中の不動産を信託

住宅ローン返済中にも関わらず信託不動産にしてしまうと、家族信託の開始後に金融機関から一括返済を求められる場合があります。これは住宅ローンを借りている最中には抵当権が設定されているためです。対策として住宅ローンが残っている不動産を信託する場合は、事前に金融機関に相談し承諾を得ておきましょう。

信託口口座を開設できない

家族信託契約書を公正証書で作成しないと、家族信託の専用口座となる「信託口口座」を開設できない場合があります。金融機関によって異なるものの、信託口口座の開設条件として公正証書で作成された信託契約書を求められるケースが多くあります。対策として契約書は必ず公正証書で作成しましょう。

実際の兄弟間トラブル事例と解決策

実際に起こりうる兄弟間トラブルの事例と、その解決策について紹介します。

長男が独断で信託契約を締結したケース

父親の認知症が心配になった長男が、他の兄弟に相談することなく自分を受託者とする家族信託契約を父親と締結しました。契約後、次男と長女がこの事実を知り「なぜ相談してくれなかったのか」「長男が財産を独り占めしようとしている」と不信感を抱き、兄弟関係が悪化しました。このケースでは遡って家族会議を開催し、信託契約の内容と目的を丁寧に説明することが重要です。また信託監督人として次男または専門家を選任するなど、他の兄弟の関与を確保する修正を行うことで不信感の解消を図ることができます。

信託財産の使途に関する疑念が生じたケース

受託者である長男が父親の介護費用や医療費として信託財産から多額の支出を行いました。しかし他の兄弟への報告を怠っていたため、次男から「財産を使い込んでいるのではないか」と疑われ、関係が悪化しました。定期的な報告体制を構築し、支出の明細と領収書を共有することが重要です。また第三者である専門家を信託監督人として設置し、財産管理の透明性を確保することも有効です。

遺留分侵害による訴訟に発展したケース

父親が長男を受託者・受益者とする家族信託を設定し、信託財産として大部分の財産を組み込みました。父親の死後、次男が「遺留分を侵害されている」として長男に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起しました。信託設計の段階で遺留分を侵害しないよう財産の配分を検討することが重要です。また他の兄弟への配慮として生命保険の受取人に指定したり、信託財産以外の財産を確保したりする方法も考えられます。

受託者の負担による問題が発生したケース

長女が受託者として父親の財産管理を行っていましたが、仕事と両立しながらの財産管理は負担が大きく、他の兄弟からの問い合わせにも対応しきれませんでした。結果として財産管理が滞り、他の兄弟から批判を受けることになりました。受託者の負担を軽減するため複数の受託者を設定したり、第二受託者を設定したりすることが有効です。また専門家のサポートを受けることで財産管理業務を効率化することもできます。

家族信託で兄弟間トラブルを回避するためのまとめ

家族信託における兄弟間トラブルを回避するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

事前の家族会議の開催は最も重要な対策です。委託者だけでなく受託者候補者や他の兄弟も含めた家族全員で十分に話し合い、家族信託の目的や内容について理解を深め、納得感を得ることが不可欠です。

信託監督人・受益者代理人の設置により、権限濫用や不正を防ぎ、透明性と公平性を確保できます。

公正証書での契約書作成により、契約の有効性を担保し、後のトラブルを防止できます。

遺留分への配慮として、他の兄弟の遺留分を侵害しないよう信託財産の範囲を調整することが重要です。

定期的な報告体制の構築により、受託者から他の兄弟への定期的な報告を行うことで不信感を防ぎ、良好な関係を維持できます。

専門家への相談として、家族信託に詳しい司法書士や弁護士に相談することで法的に有効な契約書を作成し、将来のトラブルを予防できます。

家族信託を成功させるためには制度を正しく理解し、家族全員で十分に話し合った上で進めることが大切です。実際に家族信託を利用した方のうち86.4%が「実施して良かった」と回答しているように、制度を正しく活用すれば非常に有効な財産管理の手段となります。

家族信託は単なる法律上の契約ではありません。家族の絆を守り、親の財産を適切に管理・承継するための家族全員による共同作業です。それぞれの意見や不安な点を共有し、可能な限り全員が納得できる形で信託契約を設計することが、後のトラブルを回避する上で最も重要な予防策となります。親が元気なうちから将来のことを見据えて家族で話し合い、適切な準備を進めていきましょう。専門家のサポートを受けながら、家族にとって最善の形で家族信託を活用されることをお勧めします。

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