40年間、保険料を一度も欠かさず納め続けても、受け取れる国民年金は月6万8000円ほどです。この金額は令和6年度の満額で、令和8年度は月7万608円まで上がりましたが、それでも月7万円前後という水準にとどまっています。満額がこの金額に落ち着くのは、平成16年に定めた780,900円という基準額に、毎年度の改定率を掛け合わせて計算されているためです。年金定期便やねんきんネットでこの数字を初めて見て、少なさに驚いた人は多いはずです。この資料では、国民年金の満額がなぜ月6万8000円から7万円前後という水準になるのか、その内訳と計算方法を公的な資料に基づいて整理します。金額そのものへの感想で終わらせず、計算の骨格を理解することで、老後資金の対策も具体的に立てやすくなります。

満額は令和6年度の6万8000円から令和8年度は7万608円に
国民年金の満額、正式には老齢基礎年金の満額は、毎年度改定されます。令和6年度は月額6万8000円、令和7年度は月額6万9308円、令和8年度は昭和31年4月2日以後生まれの人で月額7万608円です。令和8年度は前年度から1300円の増額でした。40年間、保険料を1ヶ月も欠かさず納めた場合の金額がこれなので、未納や免除の期間があれば受け取る額はさらに下がります。
年額に換算すると、令和8年度の満額はおよそ84万7300円です。この金額は所得税や社会保険料が引かれる前の額面で、年間の年金受給額が18万円以上であれば介護保険料や国民健康保険料が年金から天引きされる場合があります。通知書に書かれた金額と、実際に手元に入る金額は一致しないことがある点も押さえておきたいところです。
満額はあくまで上限であり、実際の受給額はこれより低いのが実情です。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、国民年金の受給者の平均受給額は月5万7700円とされています。満額を大きく下回っているのは、学生時代の未納期間や、免除を受けたまま追納しなかった期間、繰上げ受給による減額など、複数の要因が重なっているためです。
保険料は月1万7920円、40年間で861万円を負担する計算
満額を受け取るための前提となる保険料も確認しておきます。国民年金保険料は令和8年度で月額1万7920円、前年度の1万7510円から410円の引き上げです。40年間支払い続けると、この水準だけで単純計算してもおよそ861万円という負担になります。これだけ納めても受け取れる満額は年額84万7300円ほどにとどまるため、納めた金額の割に少ないと感じる人が多いのも無理はありません。
ただし受取額を増やす仕組みもあります。第1号被保険者が通常の保険料に加えて月額400円の付加保険料を納めると、将来の老齢基礎年金に「200円×納付月数」の付加年金が上乗せされます。40年間、480ヶ月納めた場合、年額9万6000円の付加年金が上乗せされ、付加保険料の総額19万2000円は受給開始から2年で回収できる計算です。国民年金基金に加入している間は使えない制度ですが、コストパフォーマンスの面では知っておく価値があります。
基準額780,900円に改定率を掛けた式が満額を決める
なぜ6万8000円や7万608円という金額になるのか。カギになるのは780,900円という基準額です。これは平成16年の年金制度改正で定められた、老齢基礎年金の満額、年額の基準額にあたります。
老齢基礎年金の満額、年額は、次の式で決まります。
満額(年額)=780,900円×改定率
この改定率を毎年度計算し、780,900円に掛け合わせることでその年度の満額が決まります。100円未満の端数は四捨五入されるため、6万8000円や6万9308円といった具体的な金額は、固定された基準額と、その年度の改定率を掛け合わせた結果ということになります。改定率がどう動くのかは、次の仕組みで説明できます。
改定率はマクロ経済スライドで賃金・物価の伸びより抑えられる
改定率は、前年度の改定率に名目手取り賃金変動率または物価変動率、そしてマクロ経済スライドによる調整率を掛けて計算します。受給者の年齢によって使う変動率が分かれ、68歳到達年度前の新規裁定者は名目手取り賃金変動率を、68歳到達年度以後の既裁定者は物価変動率を使います。
賃金や物価が上がれば年金額も上がりますが、そのまま反映されるわけではありません。少子高齢化が進むなかでも制度を維持できるよう、年金額の伸びを賃金・物価の伸びよりも抑えるマクロ経済スライドという調整が加わるためです。調整率は公的年金被保険者総数の変動率と平均余命の伸び率から構成され、令和8年度は被保険者総数の変動率が0.1%、平均余命の伸びによる影響がマイナス0.3%で、合計マイナス0.2%でした。
令和8年度の改定を見ると、物価変動率は3.2%だったのに対し、名目賃金変動率は2.1%、そこにマクロ経済スライドのマイナス0.2%が反映され、最終的な改定率は1.9%の引き上げにとどまりました。物価が上がった分だけ年金額が増えるわけではなく、賃金の伸びとマクロ経済スライドによって伸び幅が抑えられます。これが、物価上昇のニュースを聞いても年金額の増え方が小さく感じられる理由です。
令和7年度の満額は780,900円×1.045×1.019÷12ヶ月で算出
具体的な数値を当てはめると、計算の流れがより明確になります。令和7年度の満額は次の式で算出されています。
780,900円×1.045×1.019÷12ヶ月=月額69,308円
780,900円という基準額に、それまでの改定率の積み上げ、この例では1.045や1.019といった係数を掛け合わせ、12で割って月額に換算します。年度ごとに改定率の数値は変わりますが、計算の骨格は同じです。令和6年度の6万8000円も、令和8年度の7万608円も、この「780,900円×改定率÷12」という式の結果として導かれています。
つまり「なぜ6万8000円なのか」という問いへの答えは、平成16年に定めた780,900円という基準額に、賃金・物価の変動とマクロ経済スライドを反映した改定率を掛け合わせた結果、その水準に落ち着いているということです。基準額そのものは変わらず、改定率の積み重ねによって年々少しずつ調整されています。
満額の内訳は保険料納付済月数480ヶ月が基準
満額を受け取るための条件も内訳を理解するうえで欠かせません。国民年金は20歳から60歳までの40年間、480ヶ月、保険料を納付することが満額受給の基本条件です。老齢基礎年金の計算式を正確に表すと、次のようになります。
老齢基礎年金額=満額(年額)×〔保険料納付済月数+保険料免除月数を一定割合で換算した月数〕÷480ヶ月
480ヶ月すべてを保険料納付済みで満たしていれば、係数は480÷480=1となり、満額をそのまま受け取れます。未納期間や免除期間があると分子の月数が480を下回り、受け取れる年金額はその分減ります。
ここで重要なのは、未納と免除は年金額への反映のされ方がまったく違うという点です。未納期間は年金額の計算上まったくカウントされません。一方、届け出て承認された免除期間は、全額を納めた場合よりは少ないものの、一定の割合で年金額に反映されます。
免除の種類ごとの反映割合、平成21年4月分以降は次の表のとおりです。
| 免除の種類 | 年金額への反映割合 |
|---|---|
| 全額免除 | 2分の1 |
| 4分の3免除 | 8分の5 |
| 半額免除 | 8分の6(4分の3) |
| 4分の1免除 | 8分の7 |
全額免除の期間が1年、12ヶ月あった場合、その期間は6ヶ月分、12ヶ月×2分の1として年金額の計算に反映されます。未納のまま放置した場合はゼロ扱いになるため、保険料を納められない事情があるときは、放置せず免除や猶予の手続きをしておくことが年金額の面でも重要です。
免除や猶予を受けた期間は、10年以内であれば保険料をあとから納める追納も可能です。追納すれば保険料納付済期間として扱われ、将来受け取る年金額を満額に近づけられます。
繰上げ受給は最大24%減、繰下げ受給は最大84%増という差
同じ満額の権利を持つ人同士でも、実際に受け取る金額は受給を始める年齢によって変わります。国民年金は原則65歳から受給を開始しますが、60歳から65歳になる前までの間に受給を開始する繰上げ受給、あるいは66歳から75歳までの間に開始を遅らせる繰下げ受給を選ぶこともできます。
繰上げ受給を選ぶと、年金額は1ヶ月早めるごとに0.4%減額され、その減額率は一生涯変わりません。65歳になる5年前、60ヶ月前から受給を始めると24%、0.4%×60ヶ月の減額となり、満額が月7万608円の人であれば、受け取る金額は月5万3662円程度まで下がります。
反対に繰下げ受給を選ぶと、1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額されます。75歳まで繰り下げた場合は120ヶ月分で84%の増額となり、満額の人であれば月13万円近くまで増える計算です。増額された年金を受け取れる期間はその分短くなるため、何歳まで生きるかによって総受給額の有利・不利は変わってきます。
自分の年金額が満額の案内と違うとき、未納・免除の影響だけでなく、この繰上げ・繰下げによる増減率も一因になっている場合があります。
厚生年金との差は月8万9660円、報酬比例部分の有無が理由
国民年金は、自営業者やフリーランス、学生、専業主婦(主夫)期間が長い人など、第1号被保険者・第3号被保険者にとって老後の基礎となる年金です。会社員や公務員、第2号被保険者は、この基礎年金部分に加えて、給与や賞与に応じた厚生年金が上乗せされます。
厚生労働省の統計では、厚生年金、老齢厚生年金と老齢基礎年金の平均受給額は月14万7360円、国民年金のみの平均受給額は月5万7700円です。差し引くと月8万9660円で、厚生年金がある人はおよそ2.5倍の受給額になっています。平均的な収入、平均標準報酬月額45.5万円で40年間勤めた夫婦のモデル世帯では、老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金を合わせて月23万2784円という給付水準が示されています。
この差が生まれる理由は、厚生年金が給与・賞与に比例した報酬比例部分を基礎年金に上乗せする仕組みだからです。国民年金の保険料が収入にかかわらず定額、令和8年度は月1万7920円であるのに対し、厚生年金保険料は給与水準に応じて決まり、その分将来の受給額にも反映されます。国民年金だけの人にとっては、この報酬比例部分がまるごと存在しないことが、老後収入の差になって表れています。
月7万円では食費と光熱費だけで6万円を超える計算
国民年金だけで生活すると、実際どれくらい厳しいのでしょうか。総務省の家計調査報告によると、夫婦高齢者無職世帯の消費支出は月26万3979円、高齢単身無職世帯では月14万8445円です。
国民年金だけが収入の場合、月7万円前後が主な収入源になります。持ち家で家賃負担がない人であっても、食費、光熱費、通信費、医療費、日用品費、固定資産税などは必要です。食費3万円、光熱費1万5000円、通信費5000円、医療費5000円、日用品5000円という切り詰めた内訳だけでも合計6万円を超えます。交通費、交際費、家電の買い替え費用、冠婚葬祭費、住まいの修繕費が加われば、月7万円ではほとんど余裕がありません。
賃貸住宅に住んでいる場合はさらに厳しくなります。家賃が5万円であれば、年金の大半が住居費で消える計算です。このケースでは、貯金の取り崩し、就労収入、家族からの援助、公的な支援制度の利用を組み合わせなければ生活が成り立ちにくくなります。前述のとおり年金額は額面であり、年間の年金受給額が18万円以上であれば介護保険料や国民健康保険料などが天引きされる場合がある点も見落とされがちです。
国民年金基金とiDeCoを合わせた掛金は月6万8000円が上限
国民年金だけでは老後の生活に不安が残る場合、現役時代のうちから上乗せの仕組みを活用することが選択肢になります。自営業者やフリーランスなど第1号被保険者が国民年金に上乗せする国民年金基金、自分で掛金を出し運用しながら老後資金を作るiDeCo、個人事業主や小規模企業の経営者が退職金代わりの資金を積み立てる小規模企業共済がその代表です。掛金は所得控除の対象になるものが多く、税制上のメリットがある一方、途中解約の可否や受け取り方、税金の扱いはそれぞれ異なります。
これらの制度は組み合わせ方にもルールがあります。付加年金と国民年金基金は、どちらか一方しか利用できません。国民年金基金や付加年金とiDeCoは併用が可能で、第1号被保険者の場合、これらの掛金の合計は月額6万8000円が上限です。付加保険料を納めている場合、iDeCoの実務上の上限はおよそ月6万7000円になります。老後資金を厚くしたいのであれば、まず付加年金や国民年金基金で終身の上乗せを確保し、残りの枠でiDeCoを使って自分で運用する組み合わせが選択肢になります。
すでに60代に近い人でも対策はあります。過去に未納期間がないかをまず確認し、免除や猶予を受けた期間があれば10年以内の追納で年金額を増やせる可能性があります。60歳以降65歳までの5年間は国民年金に任意加入できる制度もあり、480ヶ月に満たない納付済期間を埋めるのに使えます。そして見過ごせないのが働き続けることです。月5万円でも10万円でも就労収入があれば、国民年金だけで生活する場合と比べて経済的な安心感は大きく変わります。
学生納付特例は受給資格期間に入っても年金額には反映されない
内訳を正しく理解するうえで、猶予制度も押さえておきたいところです。代表的なのが学生納付特例制度で、大学、大学院、短期大学、高等学校、専修学校などに在学する学生のうち、本人の前年所得が一定額、128万円に扶養親族等の数×38万円と社会保険料控除等を加えた額以下であれば、在学中の保険料納付が猶予されます。2026年度、令和8年度の承認期間は2026年4月から2027年3月までで、対象になれば年額およそ21万円、月額1万7920円×12ヶ月の保険料負担がゼロになります。
ここで注意したいのは、学生納付特例や納付猶予を受けた期間は、老齢基礎年金の受給資格期間、原則10年にはカウントされるものの、年金額の計算には反映されないという点です。全額免除や一部免除のように2分の1から8分の7といった割合で年金額に反映される免除期間とは異なり、猶予期間はその部分だけ見れば未納期間と同じ扱いになります。将来の年金額を満額に近づけたいのであれば、社会人になってから10年以内に追納しておくことが重要です。学生時代に猶予されているから安心と思って放置すると、年金額の内訳の面では未納と同じ影響を受けてしまいます。
自分の内訳はねんきん定期便とねんきんネットで確認できる
ここまで見てきた計算方法や免除割合はあくまで一般的な仕組みですが、自分自身の年金額の内訳は、日本年金機構が毎年送付するねんきん定期便や、オンラインサービスのねんきんネットで確認できます。
ねんきん定期便には、これまでの保険料納付済月数、免除月数、未納月数の内訳と、それに基づいて試算された年金見込額が記載されています。50歳未満の人にはこれまでの加入実績に応じた年金額が、50歳以上の人には60歳まで加入を続けた場合の年金見込額が示されます。自分の見込額が満額と違う理由を確認したいときは、このねんきん定期便の内訳欄を見れば、未納期間や免除期間がどれだけあるのかが具体的に分かります。
ねんきんネットでは、保険料をあと何年納めればどれだけ年金額が増えるか、繰上げ・繰下げ受給を選んだ場合に金額がどう変わるかといったシミュレーションも可能です。国民年金の満額の計算方法や内訳を理解したうえで自分自身の記録と照らし合わせると、老後の年金額をより具体的にイメージできます。
よくある疑問への回答
40年間まじめに納めても月6万8000円から7万円程度にしかならないのはなぜかという疑問には、国民年金の満額が780,900円、平成16年度の基準額に改定率を掛けるという式で計算されており、この基準額自体が全国民共通の基礎部分として設計された金額だから、と答えられます。会社員のように給与に比例した上乗せがない分、金額は一定水準にとどまり、物価が上がってもマクロ経済スライドという抑制の仕組みが働くため増加幅も小さくなります。
満額の内訳については、満額(年額)×〔保険料納付済月数+免除月数を換算した月数〕÷480ヶ月という式で決まります。480ヶ月すべてを保険料納付済みで満たせば満額、未納期間があればその分減額、免除期間があれば2分の1から8分の7の割合で反映される、という内訳です。
自分の年金額が満額と違う理由は、未納期間や免除期間の有無に加えて、受給を開始する年齢によっても変わってきます。繰上げは1ヶ月ごとに0.4%減額、繰下げは1ヶ月ごとに0.7%増額されるため、同じ加入記録の人でも受給開始年齢次第で受取額に大きな差が生まれます。正確な内訳はねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。
月7万円弱では生活が厳しいと感じたときは、国民年金基金、iDeCo、付加年金、小規模企業共済といった上乗せ制度を活用するほか、60歳から65歳までの任意加入や、未納・免除期間の追納で年金額を満額に近づける方法があります。あわせて、無理のない範囲で就労収入を確保しておくことも現実的な対策です。
内訳を理解したうえで自分の上乗せを組み立てる
国民年金の満額は、40年間、480ヶ月保険料を1ヶ月も欠かさず納めても、令和6年度で月6万8000円、令和8年度でも月7万608円と、月7万円前後にとどまります。この金額は780,900円という平成16年制定の基準額に、賃金・物価の変動とマクロ経済スライドを反映した改定率を掛け合わせることで、毎年度算出されています。物価が上がっても年金額の伸びが小幅にとどまるのは、将来世代の年金制度を維持するためにマクロ経済スライドで給付の伸びが抑えられているからです。
満額を受け取るには保険料納付済月数が480ヶ月に達している必要があり、未納期間は年金額にまったく反映されない一方、届け出済みの免除期間は2分の1から8分の7という割合で反映されます。この違いを知っているかどうかで、将来受け取れる年金額は変わってきます。
会社員のように厚生年金の上乗せがない人にとって、国民年金の満額である月7万円前後は老後収入の中心になります。持ち家であっても生活は簡単ではなく、賃貸の場合や医療・介護費用がかさむ場合は年金だけでは不足しやすいのが実情です。国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済、付加年金、追納、任意加入、就労収入といった選択肢を組み合わせることで、不足分は補いやすくなります。まずはねんきん定期便やねんきんネットで自分の内訳を確認し、そこから逆算して対策を考えることが、老後準備の具体的な一歩になります。








