デジタル遺産に備える専用の保険は、2026年9月20日時点の調査では、商品としての存在を確認できませんでした。終活で実際に使える備えは、デジタル遺品を生前に整理し、死後の手続きを死後事務委任契約で信頼できる人に託し、その費用を生命保険の死亡保険金で用意する組み合わせです。保険はデジタル遺産そのものを守る道具ではなく、手続きの費用を用意する道具として使います。
ネット銀行の預金、ネット証券の口座、暗号資産、月額課金のサービス、SNSのアカウントは、通帳も郵便物もないまま残ります。遺族が存在に気づけなければ、遺産分割協議のやり直しや期限後申告、修正申告に発展します。自分が亡くなった後に家族が探し回る場面を想像すると、保険に入るより先に、持っているものを書き出す作業が先だと分かります。
ここからは、デジタル遺産とデジタル遺品の区別、ネット口座と暗号資産の相続手続き、サブスクの止め方、AppleとGoogleの仕組み、パスワードの残し方、そして死後事務委任契約と保険の組み合わせまでを順に書いていきます。

デジタル遺産の保険は2026年9月20日時点で確認できていません
結論から書くと、デジタル遺産の損失や手続き費用を補償すると明記した保険商品は、今回の調査では見つかりませんでした。デジタル遺品に関する保険の特約や、死後のデータ削除にかかる費用を補償する保険についても、具体的な商品情報は確認できていません。
そのため、この記事では「こんな保険があります」とは書きません。存在を確かめられない商品を紹介するのは、読者を迷わせるだけです。保険会社や代理店に問い合わせて、デジタル遺品に使える特約があるかどうかを直接確認するのが、いちばん確実な道です。
一方で、保険と終活を結びつける考え方は確認できました。死後事務委任契約の費用を、生命保険の死亡保険金でまかなう方法です。この方法は後半の章で詳しく説明します。
デジタル遺産とデジタル遺品は金銭的な価値の有無で分けて考えます
デジタル遺品とは、故人が生前に使っていたデジタル機器やオンラインサービスに残るデータとアカウントの総称です。アカウントとは、インターネット上のサービスを使うための権利を指します。スマートフォンやパソコンの中にある写真、動画、メール、SNSのアカウント、ネットバンキングの情報、仮想通貨などが具体例です。
デジタル遺産は、その中でも金銭的な価値のある財産を指します。ネット銀行の預金、ネット証券の口座残高、暗号資産(仮想通貨)、FX(外国為替証拠金取引)の証拠金が代表例です。金銭的な価値を持たない私的なデータはデジタル遺品、と分ける専門家のコラムもあります。ただし、この線引きは資料ごとに違い、デジタル遺品という言葉で両方をまとめて説明する解説も多くあります。この記事では、お金になるものをデジタル遺産、それ以外をデジタル遺品と呼び分けます。
| 種類 | 具体例 | 相続との関係 |
|---|---|---|
| デジタル遺産 | ネット銀行の預金、ネット証券の残高、暗号資産、FXの証拠金 | 相続財産として遺産分割や相続税の対象 |
| デジタル遺品 | 写真、動画、メール、SNSのアカウント | 金銭的な価値はないが、遺族が扱いに困りやすい |
法的な整理も押さえておきます。デジタル遺品は「相続財産」と「一身専属的権利」に分かれます。一身専属的権利とは、その人本人だけが持てて、相続によって他人に引き継がれない権利のことです。暗号資産は相続の対象になりますが、SNSのアカウントは多くの場合、一身専属的な性質のものとして扱われます。同じスマートフォンの中にあっても、遺族が引き継げるものと引き継げないものが混ざっているのです。
通帳のないネット口座は遺族が存在に気づけないのが最大の問題です
ネット銀行やネット証券の情報はデータで管理されています。預金通帳もキャッシュカードもないため、財産が見つかりにくいのが最大の弱点です。口座の存在が分かっても、アカウントやパスワードが分からなければ、財産の把握が遅れます。
気づかないまま相続を終えると手続きをやり直します
相続人がデジタル遺産に気づかないまま相続手続きを済ませると、あとから遺産分割協議のやり直しが必要になります。期限後申告や修正申告になることもあります。分け直しの話し合いは、そのまま相続トラブルに発展します。
遺族が口座を探す4つの手がかり
遺族側の立場で見ると、探す手がかりは次のとおりです。まず、故人のスマートフォンにネットバンクのアプリが入っていないかを確認します。次に、自宅や書類の保管場所から、ネットバンクの郵便物や口座開設時の資料を探します。三つ目は、実店舗のある銀行の取引履歴を調べて、ネットバンクとの間で資金のやり取りがないかを見る方法です。最後に、ネット専業の証券会社などは電子メールでお知らせを送っていることが多いため、メールの受信箱を調べます。
相続手続きは金融機関への連絡から始まります
口座が見つかったら、ネットバンクの窓口に連絡し、被相続人の名前、口座番号、亡くなった日を伝えます。このとき、手続きの方法と必要書類も一緒に確認します。そのうえで、所定の用紙、相続人であることを確認できる戸籍謄本、遺産分割協議書または遺言書を提出する流れです。
法務局が交付する「法定相続情報一覧図の写し」は、戸籍謄本の束の代わりに使える場合があり、分厚い戸籍を郵送する負担を減らせます。ただし、使えるかどうかは金融機関ごとに違う可能性があるので、事前に確認してください。
生前の一手は名称とメールアドレスの書き出しです
遺族がここまで探し回らずに済む、いちばん手軽な対策があります。使っているネット銀行とネット証券の名称、登録したメールアドレス、連絡先を、エンディングノートなどに書いておくことです。パスワードそのものを書き残すか、別の方法で伝えるかは、家族の状況で決めます。この判断は後の章で扱います。
暗号資産は換金できなくても相続税だけがかかります
暗号資産の相続税評価は、相続開始日の時価で行います。活発な市場がある暗号資産の場合、暗号資産取引所が発行する相続開始日の残高証明の金額か、取引所が公表している売却価格が評価の基準になります。暗号資産はみなし譲渡の扱いで、相続税評価の対象です。
国内取引所の手続きは死亡の連絡と残高証明の依頼です
国内の取引所に預けている暗号資産は、取引所へ死亡を連絡し、残高証明書の発行を依頼するのが基本の流れです。Coincheckの場合、ウェブ上の「相続届」をダウンロードして必要事項を記入し、相続人全員が署名と捺印をしたうえで、死亡届出書をはじめとする必要書類をまとめて郵送します。これで被相続人の残高証明が発行されます。手続きの細部は取引所ごとに違うため、実際には各取引所の案内を確認してください。
秘密鍵を知る人がいないと相続税だけが残ります
いちばん厄介なのは秘密鍵です。取引所の口座が海外にある場合は、プライベートキー(秘密鍵)が必要になったり、相続の手続きを外国語で進めたりする必要が出てきます。
秘密鍵やパスワードを本人しか知らず、相続人がウォレットにアクセスできなくても、相続税の課税対象から外れることはありません。換金できないのに相続税だけがかかる事態が起こりえます。秘密鍵を残さないまま亡くなると、暗号資産は事実上凍結された状態になります。
暗号資産は価格の変動が大きく、税金の計算も複雑になりがちです。相続税と所得税の扱いは、税理士などの専門家に確認してください。生前にできる備えは、何を持っているか、どこにあるか、どうすれば動かせるかを、信頼できる形で残すことに尽きます。
月額課金は本人が亡くなっても勝手には止まりません
サブスクリプション(月額課金)サービスは、契約者が亡くなっても自動で止まるとは限りません。クレジットカードを解約しても請求が続く場合があります。契約者本人でないと解約しづらいサービスもあります。カードや銀行口座を凍結しないままだと、口座の残高が尽きるまで支払いが続く可能性があります。
契約の洗い出しは直近6か月の明細から始めます
遺族が契約を見つける方法として、過去6か月分のクレジットカードと銀行の明細を確認し、定期的な支払いを書き出す手順が紹介されています。英語表記や略称のサービス名は見落としやすいので、慎重に確認します。
カードや銀行口座を解約した場合、加入中のサブスクから「支払いができなかった」という通知が届くことがあります。この通知が、契約を特定するきっかけになります。
生前に自分で一覧を作るのが一番早い対策です
遺族の負担を減らすには、加入しているサブスクの一覧を自分で作っておくのがいちばん早く、確実です。サービス名、月額料金、支払い方法(どのクレジットカードか、どの口座か)を書き出すだけでも、遺族が明細を追いかける手間は大きく減ります。ついでに、使っていないサービスをこの機会に解約すれば、それも立派な終活です。
自分で解約できない事情が残るなら、死後事務委任契約でサブスクの解約を第三者に任せる方法があります。また、デジタル遺品の整理を扱うサービスを使えば、相続人の手を煩わせずに解約を進められるという案内もあります。
AppleとGoogleには生前の指定で遺族が動ける仕組みがあります
大手のIT企業は、本人が亡くなった後のアカウントについて、生前の指定で遺族に道を開く仕組みを用意しています。
Apple Accountでは故人アカウント管理連絡先を選んでおきます
故人アカウント管理連絡先は、死亡後にApple Account内の特定のデータへアクセスできる人を、生前に指定しておく機能です。設定は、設定アプリを開いて自分のユーザー名をタップし、「サインインとセキュリティ」から「故人アカウント管理連絡先」を選んで追加します。
指定された人は、アクセスキーと死亡証明書を準備して申請します。承認されると専用のApple IDが発行され、故人のデータにアクセスできます。申請にアクセスキーが必要になるため、指定した相手には、アクセスキーの保管も含めて話しておくと手続きが止まりません。
Googleはアカウント無効化管理ツールで通知先とデータの扱いを決めます
Googleには「アカウント無効化管理ツール」があります。一定期間アカウントが使われなかったときに備えて、指定した連絡先へ通知を送り、データの共有やアカウントの削除を行う仕組みです。設定は、myaccount.google.comにサインインし、「アカウントのプランの作成」をクリックして「開始する」を選びます。
SNSは追悼アカウントやデータ取得の手続きが用意されています
Apple、Google、Meta、Xなどの主要なプラットフォームは、遺族向けの追悼アカウントやデータ取得の手続きを整えています。ただし、故人になりすまして使い続けることは、規約で禁止されている場合が大半です。遺族が故人のアカウントへそのままログインして使うと、規約違反になる可能性があります。SNSは「引き継ぐ」より「手続きに沿って閉じる」と考えておくほうが安全です。
| サービス | 生前の指定 | 遺族ができること |
|---|---|---|
| Apple | 故人アカウント管理連絡先を追加 | アクセスキーと死亡証明書で申請し、専用のApple IDでデータにアクセス |
| アカウント無効化管理ツールで通知先を指定 | 通知を受けて、データの共有やアカウントの削除を行う | |
| 主要SNS | 特になし(各社の遺族向け手続き) | 追悼アカウントへの切り替えやデータ取得の手続き |
パスワードはアプリ1つと紙2点で残すのが現実的です
エンディングノートには、情報を記録する役割と、思いを伝える役割があります。基本情報、資産の情報、葬儀や埋葬の希望、相続についての考えを書き込めます。ただし、エンディングノートに法的な効力はありません。財産の分け方を法的に有効にしたいなら、自筆証書遺言や公正証書遺言といった遺言書を、別に作る必要があります。デジタル遺産でも同じで、ノートに書いたから書いたとおりに分けられる、という話にはなりません。
ハイブリッド管理が最も安全な方法として紹介されています
パスワードの残し方で、最も安全とされているのが、パスワード管理アプリと手書きメモを組み合わせる方法です。Webサービスのログイン情報はすべてパスワード管理アプリに記憶させます。紙に書いて保管するのは、スマートフォンの画面ロックの解除コードと、パスワード管理アプリを開くためのマスターパスワードの2つだけです。
紙は鍵のかかる場所に置き、場所を1〜2人に伝えます
ノート本体に個別のパスワードを直接書くと、盗難や紛失のときに被害が大きくなります。紙は、自宅の鍵のかかる場所(金庫や貴重品ボックスなど)に、エンディングノートと一緒に保管する方法が紹介されています。保管場所は、信頼できる家族1〜2名に必ず伝えておきます。
書き残せば漏れる不安があり、書き残さなければ家族が困ります。この板挟みの中で線をどこに引くかを決めることが、デジタル終活の中心です。自分は「紙は2点だけ、場所は家族の1人に話す」という形がいちばん現実的だと考えます。
死後事務委任契約ならデジタル遺品の処理まで託せます
死後事務委任契約とは、自分の死後の事務手続きを、生前に信頼できる第三者へ委任する契約です。委任できる内容には、葬儀や埋葬の手配、遺品整理と住居の引き払い、公共料金や行政手続きの清算、デジタル遺品の処理が含まれます。
デジタル遺品の処理が委任の対象に入っているので、保険や終活の話がここでつながります。前の章のサブスクの解約も、この契約で任せられます。エンディングノートが「書き残す」道具なら、この契約は「実際に動いてもらう」ための道具です。ノートに法的な効力がないという弱点を、契約で補えます。
費用の目安は預託金100万円から200万円です
契約にかかる費用の目安は次のとおりです。預託金の相場は、一般的に100万円から200万円程度とされています。預託金とは、死後の事務にかかる費用を、あらかじめ受任者の側に預けておくお金です。契約書を公正証書で作る場合は、公証人に払う手数料として1万1000円、謄本代として3000円程度が必要です。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 預託金 | 100万円から200万円程度 |
| 公正証書の手数料 | 1万1000円 |
| 謄本代 | 3000円程度 |
金額は依頼先や内容によって変わります。ここに挙げたのは調査で確認できた相場の目安なので、実際には複数の依頼先から見積もりを取って比べてください。
死後事務の費用は生命保険の死亡保険金で用意できます
ここが保険と終活を結ぶ部分です。預託金を預けずに、死後事務の実費を精算する方法には、遺産から支払うパターンと、保険で支払うパターンの2つがあります。
保険で支払う場合は、受任者を保険金の受取人にした生命保険の契約を結びます。亡くなったときに支払われる死亡保険金を、死後事務の経費に充てる仕組みです。保険会社に月々の保険料を払っていけば、契約で決めた金額の死亡保険金が支払われます。そのため、契約する本人は、最初にまとまった費用を用意しなくても済みます。
「デジタル遺産の保険」を探している人が本当に知りたいことは、次の2点だと考えます。自分が亡くなった後、ネット上の資産やアカウントを誰かが片づけてくれるのか。そのための費用を、保険で準備できるのか。今回確認できた範囲での答えは、デジタル遺品専用の保険ではなく、死後事務委任契約で手続きを託し、費用を生命保険の死亡保険金で用意する組み立てです。
ただし、これは死後事務委任契約の費用に関する解説であり、特定の保険会社の商品を勧めるものではありません。保険選びは、保険会社や代理店、ファイナンシャルプランナーなどに確認してください。
専門業者に頼む場合の費用例は税込18,480円です
デジタル機器の中のデータを消したいとき、アプリやファイルを削除するだけでは足りません。専用のソフトを使うか、HDDを物理的に破壊する対処が必要です。自分でやり切れないと感じたら、専門業者に頼む道があります。
費用の例として、データ開示のサービスを税込18,480円で提供している事例を確認できました。これは1社の例です。内容や料金は、業者と依頼内容によって変わります。依頼前に見積もりを取って確認してください。
また、デジタル終活の進め方を教えてくれるアドバイザリーサービスもあります。デジタル終活に詳しい弁護士などがアドバイザーとなり、セミナーなどで終活を始める人をフォローする仕組みです。日本デジタル終活協会は、エンディングノートの作成に加えて、保管のサービスも行っています。
今日できるデジタル終活は書き出し、指定、契約の順です
ここまでの内容を、行動の順番にまとめます。やることは多く見えますが、一度に全部やる必要はありません。
最初にやるのは書き出しです。ネット銀行、ネット証券、暗号資産、FXの口座を、名称と登録メールアドレスとあわせてエンディングノートに書きます。サブスクは、サービス名と月額料金、支払い方法を一覧にします。ここまでは、お金も専門家も要りません。
次に、AppleとGoogleの設定を済ませます。故人アカウント管理連絡先を指定し、アクセスキーを渡します。Googleでは、アカウント無効化管理ツールで通知先を決めます。スマートフォンの画面ロックの解除コードとパスワード管理アプリのマスターパスワードは、紙に書いて鍵のかかる場所に置き、場所を家族の1人か2人に話します。
そのうえで、財産の分け方を法的に有効にしたいなら遺言書を、手続きを実際に任せたいなら死後事務委任契約を検討します。費用は、預託金で用意するか、遺産から払うか、生命保険の死亡保険金を充てるかを選びます。暗号資産のように税金の扱いが複雑なものは、税理士などの専門家に早めに相談してください。
デジタル遺産と終活についてよくある疑問
デジタル遺産の保険に入れば、口座の探し回りは避けられますか
避けられません。今回の調査では、デジタル遺産を直接補償する保険は確認できておらず、また死亡保険金が下りても、口座の場所やパスワードを遺族に教えてくれるわけではないからです。口座の把握は、エンディングノートへの書き出しと、パスワードの管理で対処します。保険の役割は、死後事務にかかる費用を用意する部分に限られます。
エンディングノートに書いたとおりに財産を分けてもらえますか
分けてもらえるとは限りません。エンディングノートに法的な効力はないためです。財産の分け方を有効にするには、自筆証書遺言か公正証書遺言を別に作ります。ノートは、遺族への情報提供と気持ちを伝える役割として使います。
亡くなった家族のSNSアカウントに、そのままログインしてよいですか
やめてください。SNSは、故人になりすまして使うことが規約で禁止されている場合が大半で、規約違反になる可能性があります。主要なプラットフォームは、追悼アカウントやデータ取得の手続きを用意しています。その手続きに沿って進めます。
法律や税金の判断は自分でしてよいですか
相続の手続きや税務の扱いは、状況によって結論が変わります。この記事は、調査で確認できた情報を整理したものです。個別の判断は、弁護士、司法書士、税理士などの専門家に相談してください。








