平均年収400万円で40年間厚生年金に加入した会社員が将来受け取れる年金は、国民年金と厚生年金を合算して月額約14万4000円、年額にして約173万円が目安となります。この額面から税金や社会保険料が10〜15%ほど天引きされるため、実際に手元に残る手取りは月額約12万2000円から12万9600円の範囲に収まります。65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は月額約14万8000円となっており、年金手取りだけでは毎月2万円前後の赤字が生じる計算です。
ここからは、日本年金機構の計算式と厚生労働省・総務省の公的データをもとに、年金額の根拠と手取りの内訳を具体的に解説します。シミュレーションの前提、男女別の受給格差、繰り下げ受給による増額、iDeCoやNISAによる上乗せ策まで踏み込むので、自分の老後家計を考える材料として読み進めてください。

平均年収400万円・40年勤続の年金月額は約14万4000円
結論から述べます。生涯の平均年収を400万円、厚生年金の加入期間を40年(480カ月)、国民年金の納付月数を満額の480カ月、家族構成は単身者と置いた場合、65歳から受け取る公的年金の額面は月額およそ14万4000円です。内訳は国民年金(老齢基礎年金)が月約7万1000円、厚生年金(老齢厚生年金)が月約7万3000円となります。
この試算の基準日は2026年6月30日です。14万4000円という数字は、大卒後22歳から62歳まで継続して正社員として勤めたモデルに近い条件で導いています。途中で離職期間がある、扶養から外れていた期間がある、転職時に厚生年金未加入の時期があった、といった事情があれば、当然この目安より下振れします。
現役時代の年収400万円を月額に直すと約33万3000円ですから、年金額は現役収入のおよそ43%です。日本ではこの割合を「所得代替率」と呼びます。少子高齢化が進む中で代替率は将来さらに下がっていく可能性が指摘されており、額面14万4000円という数字はあくまで現在の制度を前提とした目安です。
公的年金は国民年金と厚生年金の2階建て構造
日本の公的年金は2階建てで設計されています。1階部分が国民年金(老齢基礎年金)、2階部分が厚生年金です。
1階の国民年金は、日本国内に住所を持つ20歳以上60歳未満の全国民が加入対象になります。保険料は所得に関係なく一律で、満期まで納付すれば誰でも同等の基礎年金を受け取れます。2階の厚生年金は主に民間企業の会社員や公務員が対象で、現役時代の給与・賞与の額(標準報酬)に応じて保険料が変動するため、将来の受給額にも個人差が出やすい設計です。
被保険者は3区分に分かれます。フリーランス・個人事業主や学生などが第1号被保険者、民間企業の会社員と公務員が第2号被保険者、第2号被保険者に扶養される配偶者が第3号被保険者です。会社員は国民年金と厚生年金の両方に加入しているため、老後は2種類の年金を合算して受け取れます。一方、第1号被保険者は国民年金のみとなるので、同じ勤続年数でも会社員より受給額が下がる傾向があります。
つまり、退職後に手にする年金の総額は生涯収入だけでは決まりません。加入してきた制度の種類と就業期間によって、人それぞれ大きく結果が変わります。
厚生年金の月額は平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で求める
厚生年金の支給額は、現役時代の収入と加入期間から計算されます。基本式は次の通りです。
受給額 = 報酬比例部分 + 経過的加算 + 加給年金額
経過的加算は定額部分の算出額が老齢基礎年金を上回る場合の差額補填、加給年金は扶養している配偶者や子どもがいる場合の家族手当に相当します。今回は単身者を前提にしているので、受給額の大半を占める報酬比例部分だけで計算します。
報酬比例部分は加入時期で式が分かれます。
| 加入時期 | 計算式 |
|---|---|
| 2003年3月以前 | 平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 加入月数 |
| 2003年4月以降 | 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数 |
平均標準報酬月額は2003年3月までの標準報酬月額の平均、平均標準報酬額は2003年4月以降の総報酬制(ボーナス込み)導入後の平均を指します。
今回の試算では、2003年4月以降に40年間(480カ月)加入し、年収400万円が継続したと仮定します。ボーナス込みの年収を12で割ると月額約33万3000円。これを平均標準報酬額として式に当てはめます。
33万3000円 × 5.481/1000 × 480カ月 = 約87万6000円(年額)
12で割ると月額換算は約7万3000円です。厚生年金(2階部分)から受け取れる金額は月額約7万3000円、年額でおよそ88万円となります。
国民年金は40年フル納付で月額約7万1000円
会社員(第2号被保険者)は、国民年金の保険料を別途納める必要がありません。厚生年金保険料の中に国民年金分が含まれており、老後には国民年金も合わせて支給されます。
国民年金(老齢基礎年金)の額は次の式で求めます。
満額の年金額 × 実際の保険料納付月数 ÷ 加入可能月数(480カ月)
2025年度(令和7年度)の国民年金満額は月額約6万8000円から7万1000円程度の水準です。今回のモデルは20歳から60歳まで40年間(480カ月)を未納なく納め切る前提なので、ほぼ満額の月額約7万1000円(年額換算で約85万円)を受給します。
なお、国民年金の受給開始は原則65歳ですが、繰り上げ受給で最短60歳から、繰り下げ受給で最大75歳まで選択できます。1カ月繰り下げるごとに0.7%増額され、75歳まで繰り下げると最大84%の増額です。
額面14.4万円から税金・社会保険料が天引きされる
ここまでの金額はすべて「額面」です。現役時代の給与明細と同じく、公的年金からも所定の税金と社会保険料が「特別徴収」として天引きされます。手取りを考えるうえで、ここを見落とすと家計設計が大きくズレます。
天引きされる主な項目を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得税 | 公的年金は雑所得として課税される。65歳以上は公的年金等控除があり、年金収入が一定額以下なら課税されないケースもある |
| 住民税 | 前年の年金収入をもとに課税される。単身高齢者で年金収入が一定水準以下なら非課税となる場合もある |
| 健康保険料 | 75歳未満は国民健康保険、75歳以上は後期高齢者医療保険の対象。保険料は自治体ごとに異なり、年金収入に応じて算定される |
| 介護保険料 | 40歳以上が対象。65歳以上(第1号被保険者)は年金から直接天引きされる。年額18万円以上の年金受給者は特別徴収となる |
これらは年金額面そのものではなく、額面から差し引かれて初めて「使えるお金」になります。
手取りの目安は月額12万2000円から12万9600円
総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の単身無職高齢世帯のデータを見ると、天引きの実態が分かります。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 実収入(額面) | 131,456円 |
| 可処分所得(手取り) | 118,465円 |
| 消費支出 | 148,445円 |
| 非消費支出(税・保険料) | 12,990円 |
額面13万1456円のうち、税金・保険料として約1万2990円が差し引かれており、天引き率はおよそ9.9%、ほぼ10%です。一般には年金収入の10〜15%が天引きの目安と紹介されることが多く、家計調査の結果とも整合します。
これを今回のモデル(額面14万4000円)に当てはめます。
| 天引き率 | 手取り(月額) |
|---|---|
| 10% | 144,000 × 0.9 = 129,600円 |
| 15% | 144,000 × 0.85 = 122,400円 |
平均年収400万円で40年勤続した会社員が将来手にする年金の手取りは、月額約12万2000円から12万9600円が現実的な目安です。額面14万4000円のまま家計を組むと、毎月2万円前後ずつ計算がズレていきます。
単身高齢世帯の生活費との差額は月2万円前後
総務省「家計調査報告 2025年(令和7年)平均」によると、65歳以上の単身無職世帯の1カ月あたり消費支出は平均148,445円です。これと年金手取りを並べると、差額がはっきり見えます。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 消費支出(生活費) | 148,445円 |
| 手取り年金の目安 | 122,400〜129,600円 |
| 毎月の不足額 | 約18,845〜26,045円 |
平均値ですから、地域や生活スタイル、持ち家の有無、医療・介護費の負担で結果は上下します。それでも、年金だけで暮らすと毎月2万円前後の赤字が出る可能性は無視できません。1年で約24万〜31万円、老後が20年続けば累計でおよそ480万〜620万円が年金だけでは賄えない計算になります。
この数字こそが、かつて老後2000万円問題として議論された試算の根拠の一部です。ただし2000万円という数字はあくまで平均的なモデルに過ぎず、生活水準や住居形態、医療・介護の負担で大きく動きます。鵜呑みにせず、自分の家計に当てはめて再計算する姿勢が大切です。
厚生労働省データから見るシニア世代の年金分布
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、基礎年金と厚生年金の両方を受給しているシニア世代の受給水準を確認します。
| 月額区分 | 受給者の割合 |
|---|---|
| 10万円未満 | 19.0% |
| 10万円以上 | 81.0% |
| 15万円以上 | 49.8% |
| 20万円未満 | 81.2% |
| 20万円以上 | 18.8% |
| 30万円超 | 0.12% |
月額15万円以上の受給者は全体の約半数(49.8%)です。一方、今回試算した14万4000円という水準を下回る「14万円未満」の人も全体の約44.4%を占めています。額面14万4000円は、シニア世代の中央付近に位置する金額となります。
決して少ない水準ではないものの、これだけで余裕のある老後生活を送るのは難しい、というのが実態です。
男女別の厚生年金平均額には約6万円の差
厚生労働省のデータでは、厚生年金(老齢厚生年金)の平均月額に男女差があります。
| 性別 | 厚生年金平均月額 |
|---|---|
| 男性 | 約166,863円 |
| 女性 | 約107,200円(女性の厚生年金のみの平均) |
差はおよそ6万円、男性の約1.55倍に相当する水準です。理由は大きく2つあります。1つは現在のシニア世代が現役だった時代、男性が女性より高収入を得る傾向にあったこと。もう1つは結婚を機に退職して専業主婦やパートに転じた女性が多く、厚生年金の加入期間が男性より短くなりやすかったことです。
国民年金(老齢基礎年金)の平均月額は男女ともに大きな差はなく、約5万5000円から5万8000円程度の幅に収まります。国民年金は加入期間が同じなら性別で支給額は変わらないからです。
今後の世代は女性の就労継続率が高まっているので、男女の年金格差は縮小に向かう可能性があります。今回の試算モデル(平均年収400万円・勤続40年・単身者)の月額約14万4000円は、男女どちらでも同条件なら同じ結果になります。女性が40年間継続して厚生年金に加入し続けた場合、同水準の受給額が見込めます。
繰り下げ受給で月額が最大1.84倍に増える
年金は65歳から受給を始めるのが基本ですが、繰り下げて受け取り始めれば月額を増やせます。1カ月繰り下げるごとに0.7%が上乗せされ、70歳開始なら42%増、75歳開始なら最大84%増です。
今回のモデル(月額約14万4000円)を繰り下げた場合の月額試算は次の通りです。
| 受給開始年齢 | 月額 |
|---|---|
| 65歳 | 約144,000円 |
| 70歳 | 144,000 × 1.42 = 約204,480円 |
| 75歳 | 144,000 × 1.84 = 約264,960円 |
ただし、ここで「損益分岐点」を意識する必要があります。繰り下げて月額を増やしても、5年・10年と受給期間が短くなる分、何歳まで生きれば繰り下げた分を取り戻せるかという視点です。
| 受給開始年齢 | 損益分岐点 |
|---|---|
| 70歳 | 約81歳11カ月 |
| 75歳 | 約86歳11カ月 |
日本の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳です。男性の場合、70歳繰り下げは損益分岐点とほぼ同じ位置、75歳まで延ばすとややリスクが大きくなります。女性なら70〜75歳の繰り下げが有利に働く可能性があります。
繰り下げ受給には、扶養配偶者がいる場合の加給年金が受け取れない、在職中に年金カットが続く場合がある、といったデメリットもあります。健康状態、貯蓄額、配偶者の状況をまとめて判断するのが現実的です。
iDeCoとNISAで老後資金の不足を補う
公的年金の手取りだけで毎月の生活費を賄えないなら、現役時代から自助努力で資産を積み上げるしかありません。代表的な制度がiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)です。
iDeCoの3つの税制メリット
iDeCoの強みは税制優遇です。第1に、掛け金が全額所得控除の対象となるため、所得税と住民税が軽くなります。年収400万円の会社員が月23,000円を積み立てると、年間およそ27,600円から41,400円の節税が見込めます。30年継続すれば累計80万〜120万円以上の節税につながる計算です。
第2に、運用益が非課税となります。通常の投資商品では運用益に約20%の税金がかかりますが、iDeCoの運用益には課税されません。長期運用の複利を最大限活かせます。
第3に、受け取り時にも税制優遇があります。一時金として受け取れば退職所得控除、年金として受け取れば公的年金等控除が適用され、税負担が軽くなります。
NISAの非課税枠と流動性
NISAは運用益と配当が非課税という仕組みです。新NISAでは年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)まで、生涯投資枠は1,800万円まで非課税で運用できます。
iDeCoとの最大の違いは流動性です。iDeCoは原則60歳まで引き出せませんが、NISAはいつでも売却・引き出しができます。緊急資金や教育費にも回せるので、家計の自由度が落ちにくい設計です。
つみたて投資枠を使った長期・分散・積立は、老後資金の形成に向いています。ドルコスト平均法の効果が出やすく、相場の上下に振り回されにくい点もメリットです。
iDeCoとNISAの優先順位
どちらを先に使うかは、本人の状況によります。流動性を重視するならNISAが先、節税効果を最大化したいならiDeCoが先という整理が一般的です。年収が高いほど所得控除のメリットが大きいので、税率が高い人ほどiDeCoの優先度は上がります。可能なら両方を併用するのが王道です。
老後の不足額が累計480万〜620万円程度と試算されるなら、20〜30代から月3〜5万円を積み立て始めれば、複利で十分カバーできる可能性があります。たとえば月3万円を年利3%で30年間積み立てると、元本1,080万円に対して運用後の総額は約1,748万円。約670万円の運用益が乗る計算です。
自分の年金見込み額はねんきんネットで確認できる
ここまでの試算は、あくまで「平均年収400万円・40年勤続・単身者」というモデルに基づく目安です。自分の老後設計に使うには、自分自身の数字を確認するのが先決です。
日本年金機構が毎年送付する「ねんきん定期便」と、インターネットで使える「ねんきんネット」を活用すると、現時点での加入実績に基づく将来の年金見込み額が分かります。転職歴や離職期間、報酬月額の推移が反映されるので、平均モデルよりはるかに精度の高い見込み額になります。
「ねんきん定期便」は誕生月に届くハガキ形式の通知で、加入実績や将来見込み額が記載されています。「ねんきんネット」は24時間いつでもパソコン・スマートフォンから加入記録や試算結果を確認できる仕組みで、利用にはマイナンバーカードまたは基礎年金番号での登録が必要です。
年金事務所での相談や、FP(ファイナンシャルプランナー)への相談も有効な手段です。家計全体のお金の流れを整理してもらえば、不足額を補うための具体策が見えてきます。
老後の資金計画で押さえておくべき4つの観点
ここまでの内容を踏まえて、家計設計の論点を整理します。
第1に、年金額面と手取りを混同しないことです。額面14万4000円と手取り12万円台では、年間で約20万円以上の差が出ます。家計シミュレーションは必ず手取りで組みます。
第2に、年金だけで生活費を賄えないケースが多いという前提を受け入れることです。今回の試算(手取り約12万〜13万円)は、単身高齢者の平均消費支出(約14万8000円)を下回ります。持ち家か賃貸か、医療費の負担がどの程度かで状況は変わりますが、不足を補う準備は必須です。
第3に、早期から積み立てることです。20〜30代から月3〜5万円を積み立てるだけで、20〜30年後には数百万〜千数百万円規模の資産になり得ます。複利は時間が味方になる仕組みなので、始める時期が早いほど効きます。
第4に、配偶者の有無で家計収支が大きく変わることです。配偶者が専業主婦・主夫なら第3号被保険者として国民年金を受給できますし、共働きで配偶者も厚生年金加入者なら世帯合計の年金収入は大幅に増えます。世帯単位での試算も合わせて行うと、より精度の高い老後設計ができます。
まとめ:手取り基準で老後資金を設計する
平均年収400万円で40年間厚生年金に加入した会社員が老後に受け取れる年金は、国民年金と厚生年金の合算で月額約14万4000円、年額約173万円が目安です。額面から税金・社会保険料が10〜15%天引きされるため、手取りは月額約12万2000円から12万9600円程度に着地します。
総務省データを当てはめれば、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出(月約14万8000円)に対して毎月2万円前後の赤字が生じる計算です。これが20年続けば累計480万〜620万円の不足になります。
公的年金は老後の土台ですが、それだけで全てを賄うのは難しい局面が増えています。ねんきんネットや年金事務所で自分の見込み額を確認し、iDeCoとNISAで現役時代から積み立てる組み合わせが、現実的な備え方です。年金は「老後のすべて」ではなく「老後の基盤」と捉え、自助努力をどう乗せるかを今のうちに決めておくと、将来の不安をかなり減らせます。








